反西洋主義
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近代西洋に対する反応は、初期は純然たる異文化との出会いだった。しかし後に現れた「オクシデンタリズム」の多くは、近代西洋思想を反転させ、民族国家の覇権・合理性に対するロマン主義的な拒絶・自由民主主義の一般市民の精神(心霊)的困窮、等といった思想へと変えた。

ブルマとマルガリートが突き止めたところでは、そうした反抗の由来はドイツロマン主義にある。また、19世紀ロシア帝国での西洋化主義者とスラヴ主義者との論争や、シオン主義(シオニズム)・毛沢東思想イスラム主義イスラム教)・帝国的日本国家主義イデオロギーに現れている論も同根である[21]
オクシデンタリズムにおける「西洋」イメージ「資本主義社会(市民社会)」、「自由主義(リベラリズム)」、「近代化」、「ブルジョア革命(市民革命)」、「啓蒙主義」、「合理主義」、「世俗主義」、「人権宣言」、「フランス革命」、および「アメリカ独立革命」も参照

オクシデンタリズムの敵意が向けられる矛先は、次のようになっている[22]

敵意が向けられる対象対象のイメージ
都市」「尊大、貪欲、軽薄で退廃的な根無しのコスモポリタニズム(世界主義)に彩られた」都市
ブルジョア階級」「自らを犠牲にする英雄とは正反対に、自己保身に走る」階級
西洋的考え」「科学と理性に裏付けられた」考え
不信心者たち」「純粋な信仰世界のために倒されなければならない」者たち

オクシデンタリズムの土台
ドイツロマン主義「反合理主義」、「反機械論(反メカニズム/生気論)」、「反啓蒙主義」、「反知性主義(反主知主義)」、「感情主義(主情主義)」、「意志主義(主意主義)」、および「反近代主義(英語版)」も参照

かつて非西洋世界では、ドイツロマン主義は魅力的と認識されていただけでなく、崇敬の対象だった[23]。ロマン的なドイツ思想家(たとえばフリードリッヒ・ヴィルヘルム・シェリング)の胸像が運び込まれ、拝まれることさえあった[23]。『反西洋思想』は次の通り論じている[24]

ドイツロマン主義は、他の西ヨーロッパロマン主義と異なり、単なる文学・芸術運動ではない。非常に強い政治的、社会的意味合いを帯びていた。

シェリングは著書『自然哲学』で、宇宙を有機体として描き、一定のゴールを目指して動いていくものとした。これはアイザック・ニュートンが提唱した「力と原因によって動くメカニズムとしての自然」、つまりゴールを持たない自然という考え方とは正反対だった。シェリングの「有機体」という概念は、西洋の利己的な心を避ける方法を示唆しており、共同体のゴールを目指して動く生きた有機体としての社会という考えをも提供するものだった。それはまた、契約によって結ばれる個人が構成する集合体という、社会についてのリベラルな概念のアンチテーゼドイツ語: Antithese〕でもあった。

こうしたドイツロマン主義に触発され、西洋社会(イギリス・フランスオランダ等)に対して「正反対の社会」を見る思想が生まれた[25]
ドイツ反資本主義(マルクス主義・社会主義・ナチズム)「和魂洋才」および「中体西用」も参照

ドイツの社会主義は、非西洋世界で礼賛された[26]。ドイツの方法は、単なる西洋のクローンにならず、西洋の「毒」(ケ小平いわくキリスト教や資本主義的自由民主主義といった「精神的汚染」)に毒されず、近代国家を建設する方法だと見られていた[26]。たとえばマルクス主義があり、これは西洋の近代思想だったが、キリスト教の代替物として平等主義・人類解放・普遍性を主張してもいた[27]。マルクス主義は「科学的」(科学的社会主義)であり、キリスト的な宗教・文化の出る余地は無かった[27]。またドイツ国家社会主義ナチズム)は、西洋(資本主義的帝国主義)を模倣しているよう見せずに、産業的近代社会の一員に加わる方法を示した[28]

これらは実際には、かなり無理な試みだった[29]。一つの知識・技術を、別の知識や素になっている「危険な思想」から隔離してくことは不可能だった[29]。こうした近代化への代替ルートは、中国北朝鮮イラクエジプトベトナムエチオピアキューバを含め多数の場で試みられたが、ことごとく失敗した[28]。この失敗から、暴力的なオクシデンタリズム(土着主義的な純粋さへの憧れと破壊的な西欧嫌悪)が生まれた[28]
オクシデンタリズムが及んだ地域の相互関係

『反西洋思想』によると、非西洋(東洋)的な地域の近代化には西洋思想が大きく影響している[30]。しかし西洋帝国主義に対抗した勢力も、ほとんどは反資本主義的・国家社会主義ナチズム)的な西洋思想を借用していた[30]。前掲書はそれらの主な例として、大日本帝国イスラム圏を挙げている[30]

日本の近代化は大蛇のとぐろのようなもので、その内側には土着主義的な反革命運動が潜んでいた[31]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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