双極性障害の診断は専門家であってもしばしば困難である。とくに、純粋な単極性うつ病から、双極性障害を原因とした抑うつを鑑別することは困難である。若年発症では、最初のいくつかのエピソードは抑うつである可能性が高い[13]。双極性障害の診断は躁病または軽躁病エピソードを必要とするため、多くの患者は最初の診断および治療ではうつ病とされていた[14]。
双極性障害の患者には、なんらかのパーソナリティ障害が伴っているケースが高いことが、統計的に確立している[2]。その中でも、境界性パーソナリティ障害を疾患にもつ患者の双極性障害の確率が高いとされている。双極性障害の研究の第一人者であるハゴップ・アキスカルは、はじめ抑うつ神経症、境界性パーソナリティ障害と気分障害に関する研究を行っていたが、双極性障害を限定的に定義する診断基準に疑問を持っていた。「三環系抗うつ薬で躁転を示す気分失調症は双極型とすべきである」「思春期前にも躁・軽躁エピソードが見られる」「双極性障害は社会的適応、対人関係、薬物乱用に影響する」など指摘。多くの症例を双極スペクトラム概念としてとらえる必要性があると説いた。それ以前にもクレペリンが双極性障害の様々な経過類型について記述しており、双極性障害を一元的にとらえていたとされる[15]。 躁病とは、気分の異常な高揚が続く状態である。躁病の初期には、患者は明るく開放的であることもあるが、症状が悪化するとイライラして怒りっぽくなる場合も多い。自覚的には、エネルギーに満ち快いものである場合が多いが、社会的には、離婚や破産など種々のトラブルを引き起こすことが多い。アメリカ精神医学会によるガイドラインDSM-IV-TRによる躁状態の診断基準は、以下の症状がAを含む4つ以上みられる状態が1週間以上続き、社会活動や人間関係に著しい障害を生じることである[16][17]。 双極性障害の抑うつは単極性のうつ病と症状が似ており、完全に区別はできない。うつ病と異なり、抗うつ薬の処方は躁転させる危険性が高いため、出来るだけ処方を控えるようになっている。特に、三環系抗うつ薬と呼ばれる古いタイプの抗うつ薬では、躁転、急速交代化など、悪化する恐れがある。単極性のうつ病に比べると、難治な傾向があると言える。DSM-IV-TRによるうつ状態の診断基準は、以下の症状が5つ以上みられる状態が2週間以上続き、社会活動や人間関係に著しい障害を生じることである[16][17]。これらの症状のうち少なくとも1つは、(1)抑うつ気分、あるいは(2)興味または喜びの喪失である。 抑うつの特徴と躁病の特徴が両方見られる状態を指す。行動は増えているのに気分はうっとうしいという場合が多いため、自殺の危険性が高い。DSM-IV診断基準では、混合状態が出現した場合、双極I型障害と診断される。近年、DSM-IVの混合性エピソードの診断基準を完全に満たさなくても、ある程度、躁病と抑うつが混在していれば混合状態と見なす立場もある。
躁病エピソード
気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的で、またはいらだたしい、いつもとは異なった期間が少なくとも1週間持続する。
自尊心の肥大: 自分は何でもできるなどと気が大きくなる。
睡眠欲求の減少: 眠らなくてもいつも元気なまま過ごせる。
多弁: 一日中しゃべりまくったり、手当たり次第に色々な人に電話をかけまくる。
観念奔逸: 次から次へ、アイデア(思考)が浮かんでくる。具体的には、文章の途中で、次々と話が飛ぶことなども含まれる[18]。
注意散漫: 気が散って一つのことに集中できず、落ち着きがなくなる。
活動の増加: 仕事などの活動が増加し、よく動く。これは破壊的な逸脱行動にも発展しうる。
快楽的活動に熱中: クレジットカードやお金を使いまくって旅行や買物をする、性的逸脱行動に出る。
抑うつエピソード「抑うつ」も参照
抑うつ気分。
興味、喜びの著しい減退。
著しい体重減少、あるいは体重増加、または、食欲の減退または増加。
不眠または睡眠過剰。
精神運動性の焦燥または抑止。
疲労感または意欲の減退。
無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感。
思考力や集中力の減退、または、決断困難がほとんど毎日認められる。
死についての反復思考(死の恐怖だけではない)、特別な計画はないが反復的な自殺念慮、または自殺企図するためのはっきりとした計画。
混合性エピソード