南極海
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なお、この寒気は南極海以北にも影響を与え、狂う50度吠える40度と呼ばれる暴風圏を作り出す[7]

南極海には、世界最南端の火山であるロス島のエレバス山や、サウスシェトランド諸島にあるデセプション島など、いくつかの火山が存在する。デセプション島は火山の山頂部のカルデラがそのまま水没して縁の部分のみ残ったものであり、C字型の島の内湾は火口であるため、地底から湧き出る熱水と地熱によって冬でも凍結せず、また島が周囲の強風から内湾を守るために、南極海において最も優れた良港となっている。そのため、かつてはアザラシやクジラ猟の拠点として多くの漁業会社が基地を置いており、会社撤退後も観測基地がおかれていたが、1967年にデセプション島が噴火して大きな被害を受けた。デセプション島は、1969年から1970年にかけても再び噴火した[8]。また、デセプション島においては湧き出る温泉によって海水が温められるため、温泉の湧きだし口のそばでは温泉浴や海水浴が楽しめる[9]。ただし、周囲の海水は南極海の標準水温であり、また温泉はかなりの温度があるため、混合を誤ると極寒や灼熱となる。
氷山と棚氷ウィルキンス棚氷の位置と2008年に崩壊した様子

南極海の南岸はすべて南極大陸となっているが、南極大陸の海岸の多くは氷で覆われており、岩石が露出しているのは全海岸の5%にすぎない。13%は氷河、38%は氷床がそのまま壁となっている氷壁であるが、最も多い44%の海岸は棚氷となっている。棚氷は南極を覆う氷床が海の上にそのまま張り出したものであり、陸上の氷と連結している。棚氷の厚さは数十mにも達する。棚氷で最も大きなものはロス海に浮かぶロス棚氷 (472,960 km2)であり、ついでウェッデル海の南側を覆うフィルヒナー・ロンネ棚氷 (422,420 km2)が大きい。この2大棚氷は突出して大きな棚氷であるが、他にも南極大陸沿岸にはアメリー棚氷 (62,620 km2)、ラーセンC棚氷 (48,600 km2)、リーセル・ラーセン棚氷 (48,180 km2)、フィンブル棚氷 (41,060 km2)、シャクルトン棚氷 (33,820 km2)、ジョージ6世棚氷 (23,880 km2)、ウエスト棚氷 (16,370 km2)、ウィルキンス棚氷 (13,680 km2)といった大きな棚氷が存在する。これらの棚氷は、末端部分は海に浸食されてやがて棚氷から分離し、氷山となる。氷山はなにかの衝撃で末端部分が崩壊してできることがあり、東日本大震災時にも南極大陸に到達した津波の衝撃によって巨大氷山が南極海に流出している[10]

20世紀末以降、地球温暖化の影響などで南極各地で棚氷の崩壊が観測されるようになってきている。上記のラーセンC棚氷はかつてラーセン棚氷(ラルセン棚氷)と呼ばれる一つの巨大な棚氷だったが、1995年1月にラーセンA棚氷が崩壊、2002年2月にはラーセンB棚氷の半分が崩壊し、2012年にはラーセンB棚氷の85%が消滅していることが明らかになった[11]。これにより、ラーセン棚氷はほぼラーセンC棚氷が残存するのみとなった。2008年にはウィルキンス棚氷の末端部が急速に崩壊しつつあることが確認され、南極半島とは細い氷床でつながっているだけとなっていたが[12]、2009年4月5日には南極大陸からの分離が確認され、棚氷ではなくなった[13]。こうした棚氷の崩壊の最大の原因は、海水温の上昇によって棚氷の底面が融解しつつあることが大きな原因の一つとされる[14]

南極海には多数の氷山が浮遊している。南極海の氷山は南極大陸の棚氷が割れて海へと流れ出たものであるため、多くはテーブル型の平らな形をしており、巨大なものが多い。南極の氷山の北上する限界点は、ごくまれにある巨大すぎて溶け切れなかったものを除けば南緯60度前後であり、南極海とほぼ一致する。また、南極大陸に近づくにしたがって海そのものが凍り始め、南極大陸沿岸やウェッデル海は年間を通じて結氷したままである。こうした永久氷に覆われた海域は、しかし北極海と比べると非常に小さい。南極大陸沿岸の多くの部分で、永久氷は大陸の縁に20kmから30kmほど張り付いているに過ぎない。これは、北極海が閉鎖性海域であるうえ北極点が洋上にあるのに対し、南極海は極点が大陸上にあるため最も寒い区域は海上にないことや、南極海が広く開けた海域であり、また常に強風が吹いているために氷の定着が妨げられることによる。このため、南極海の氷の多くは一年で成長し融解する流氷となっている。この流氷は夏季になれば大部分は溶けるものの、一部は残存し、また風によって吹き寄せられることが多いため、夏季においても各国の就航させる南極砕氷船が氷に閉じ込められることがよくある。逆に、冬季にはこの氷は非常に成長する。

海氷に覆われたこうした海域にも、ところどころにポリニヤと呼ばれる氷のない水域が存在する。これは深海からの温かい水の上昇や海流の影響などによってできるもので、栄養が豊富なうえ日光をよく吸収し温暖となるため、光合成をおこなう植物プランクトンが繁殖しやすく、さらにそれを餌とする動物も多く集まるなど、生物にとってのオアシス的存在となっている[15]
海流

南極海では南極周極流(南極環流)と呼ばれる大きな海流が流れており、南極海とはこの海流によって結ばれた海域を指すと言ってよい。南極周極流は寒流であり、上空の偏西風帯の影響を受けるために西から東へと流れる。流速は速くはないが、横幅も上下幅も広いため、流量は莫大なものになる。一方で、南極大陸沿岸には東から西へと風の吹く緯度帯があるため、海流もそれにつれて東から西へと流れる。これは東風皮流と呼ばれ、南極周回流とは逆方向に流れるため、この2つの海流の接点には潮目ができ、ここに深層から温かい水が上昇してくる。この水は栄養に富み、多くの植物プランクトンを繁殖させる。

南極海の水は、冷たい表層水、暖かい深層水、非常に冷たい底層水の3つに大きく分かれる。表層の水は海氷や空気によって冷やされ、マイナスの温度となっている。一方、深層の水はプラスの温度であり、暖かい。この2つの水とは別に、南極大陸の沿岸やロス棚氷ウェッデル海などでは海水が氷によって激しく冷やされ、大陸のふちに沿って海底にまで沈んでゆく。とくにウェッデル海においてこのプロセスは最も盛んである[16]。これは南極底層水とよばれ、グリーンランド沖で作られる北大西洋深層水とともに深海に沈み込む水塊として、熱塩循環(海洋大循環)の重要な要素となっている[17]。南極海においては、あと二つ重要な水塊が存在する。周極深層水は北大西洋深層水を起源とする暖かく高塩分な水塊であり、大陸棚に流入することで南極氷床が融解させる原因となっている。このほか、さらに北側において形成される南極中層水がある。この水塊は上記の2つの水塊よりさらに温かいため、深層まで流れ下らずに中層でとどまり、そこで広がる。南極底層水と南極中層水は、大西洋・インド洋・太平洋の三大洋すべてに流入する[18]

南極周極流のさらに南側には、ウェッデル循環(Weddell Gyre)とロス循環(Ross Gyre)の2つの亜寒帯循環(環流)が存在する。いずれもウェッデル海とロス海の周辺のみを、時計回りに回る環流である。他の南極海沿岸域では、南極環流が大陸に接近しており、沖合の暖水が大陸棚に流入しやすい状況になっている。
海底

南極海の海底は、南極大陸の大陸棚部分を除けば、広い海盆によって取り巻かれている。南極半島から延びる南スコシア海嶺はスコシア海南縁沿いにサウスサンドウィッチ海溝まで伸び、さらに東に南アメリカ南極海嶺が続くが、これらの海嶺の南方にウェッデル海盆が広がる。


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