南緯60度以南が南極海の海域となっているが、この範囲はそのまま南極条約の適用範囲と一致するため、南極海において各国の領土は存在しない。ただし、南極条約は各国の領土主張を凍結しているのみであるため、南極海内の諸島を自国領と主張している国家は複数存在する。サウス・オークニー諸島はイギリスとアルゼンチンが、サウス・シェトランド諸島はイギリス・アルゼンチン・チリが、スコット島とバレニー諸島はロス海属領の一部としてニュージーランドが、ピョートル1世島はノルウェーがそれぞれ領有権を主張している。また、南極海沿岸の南極大陸においても、イギリス(イギリス領南極地域)、オーストラリア(オーストラリア南極領土)、ニュージーランド(ロス海属領)、フランス(アデリーランド)、ノルウェー(ドロンニング・モード・ランド)、チリ(チリ領南極)、アルゼンチン(アルゼンチン領南極)の7か国がそれぞれ領有権を主張している。
他大洋とは違い、南極海沿岸には本来の意味での恒久的な人類の居住地がまったく存在しない。南極大陸や周辺の諸島には各国が南極基地を建設しているが、滞在者はすべて数年で交代するため、居住者は(後述する例外を除き)いない。物資や隊員を送り込むのには南極海を砕氷船によって輸送するのが最も効率が良いため、南極基地の多くは南極海沿いに点在している。なかでも、南極半島周辺は緯度も低く海況も他海域に比べればよく、根拠地となる南アメリカ大陸からの距離も近いため、多くの南極基地が密集している。棚氷部分を除く、南極海で最も南の地点はロス棚氷ならびにフィルヒナー・ロンネ棚氷の端の部分である。なかでもロス棚氷の西端に位置するロス島は船舶の接岸できる南限であり、南極大陸深部探検の際はここが拠点とされることが多かった。現在でも、南極最大の基地であるマクマード基地はこのロス島におかれ、埠頭も建設されている(後述)。上空より見たビジャ・ラス・エストレージャス
上記の領有権主張の関係から、領有権の根拠とするために南極観測基地に定住者を送り込む国はいくつか存在する。アルゼンチンは南極半島北端グレアムランドのホープ湾にあるエスペランサ基地に定住者を送り込んでおり、50人以上がこの基地で越冬する。この基地には学校やラジオ局、土産物屋も存在する。同じくチリも、キングジョージ島にビジャ・ラス・エストレージャスという街を建設し、80人から150人ほどが居住している。ビジャ・ラス・エストレージャスを中心とするチリ領南極全域は、マガジャネス・イ・デ・ラ・アンタルティカ・チレーナ州に属するアンタルティカと呼ばれる一つのコムーナ(基礎自治体)を形成している。この町はチリのエドゥアルド・フレイ・モンタルバ基地に隣接している。エドゥアルド・フレイ・モンタルバ基地には滑走路が存在しており、ビジャ・ラス・エストレージャスならびに同島に存在する8か国の南極観測基地への物資供給に重要な役割を果たしている。同島にあるロシアのベリングスハウゼン基地には、ロシア正教会の至聖三者聖堂が存在する。
資源マクマード湾の海底の生物。なお後方に見える青白いものは氷である。
南極海は鉱物資源・動物資源の豊富さが注目されている。石油、天然ガス、漂砂鉱床、マンガン団塊などのほか骨材となる砂利が海底に眠っている。またイカ(ダイオウイカ、ダイオウホウズキイカなど)、魚(ショウワギス、ライギョダマシ、コオリウオなど)、アザラシ、クジラ、オキアミ(ナンキョクオキアミなど7種)、ペンギン(18種中8種)などの生物も多く生息する。アザラシに関しては1790年代から1820年代にかけて乱獲が行われ、特に南極半島やその沖合の諸島において急減したが、その後やや回復している。 2012年現在、南極海における主な漁獲種類は、ナンキョクオキアミおよびマジェランアイナメ、ライギョダマシの3種である。このうち、マジェランアイナメ(かつては銀ムツと呼ばれた)とライギョダマシは近縁で、メロ類として統計では一括される。マジェランアイナメ・ライギョダマシは一時乱獲による資源の枯渇が心配され、漁獲制限が行われたが、現在は横ばいの状態にある。2009年から2010年にかけての漁獲高は16,133トンである[29]。ナンキョクオキアミは南極海にのみ生息するが、1種属としては世界最大のバイオマス量を持つとされ、南極海のキーストーン種となっている。現在の推定総資源量は1億トン以上、主漁場であるスコシア海域だけでも6030万トン(2010年)と推定され、2010年から2011年の漁獲高は179,132トンであり、増加傾向にはあるものの総資源量に影響を及ぼすには遠く及ばないため、現在の漁獲レベルにおいては枯渇の心配はそれほどないとされる。
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