南アフリカ共和国
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エリート層主体で英語一本化の傾向が強まった結果、多言語主義の理念とはかけ離れつつあり[31]、多言語主義を推奨する機関である汎南アフリカ言語委員会(PANSALB)もほとんど機能不全に陥っている。

宗主国イギリスから見た場合に対立する被支配者階層でもあった貧しいボーア人(アフリカーナー)に政治的実権を握らせ、アパルトヘイト政策を行わせることで黒人に対して優位に立たせ、支配階級であるイギリス系への憎悪を軽減させていた。そのアフリカーナーがアパルトヘイトの象徴として政治から失脚したことでアフリカーンス語の地位は低下。一方、宗主国イギリスの言葉である英語の地位はアパルトヘイト撤廃後には大きく上昇と対照的な様態をなしており、英国は宗主国であったにもかかわらず途中からアパルトヘイト反対へ転じたことで、アパルトヘイトの責任を免れ英語が黒人層にまで浸透した。実質的に公用語から剥奪されたアフリカーンス語は公共の場や公的機関、メディア、教育での使用が制限されたことで家庭内や同一コミュニティ内で使われるに過ぎない言語にまで地位が転落するなど、南アフリカ西部の大半の地域において最大の話者数でありながら、その地位は危機的状況にあるとされ、このままいくと言語としては消滅の危機にあるとされる。
英語詳細は「南アフリカ英語」を参照

英語圏であるとされる南アフリカであるが、実際には英語はおもにヨハネスブルクケープタウンダーバンを代表とする大都市を中心に、イギリス系を中心とした白人やインド系など全人口の9.6%の人の第一言語に過ぎず、90%前後の大多数の国民にとっては教育で学ぶ言語である。しかし、イギリスの植民地時代に普及した英語が共通語的役割を果たし、南アフリカ共和国の議会や政府の公式言語として全土で使用されているが、貧困層を中心に十分に理解できない層も多く、ある程度の英語を理解できる層は全人口の半数程度に過ぎない[32]。全人口に占める割合は2011年のセンサス統計では9.6%と、2001年のセンサス統計の8.2%より大幅に増加しており、第一言語話者数は2001年の367万3,000人から2011年には489万2,623人まで増加した。主に黒人層の間で社会的価値の低いバントゥー諸語話者から社会的成功のために必須な英語話者へと変化していることが大きいとされる[33]

人種別にみると、インド系の86.1%(109万4,317人)、白人の35.9%(160万3,575人)、カラードの20.8%(94万5,847人)の母語となっており、黒人の母語話者(116万7,913人)は黒人人口の2.9%に過ぎないが、近年は急増傾向にある。
アフリカーンス語

オランダ語を元にマレー人奴隷の持ち込んだマレー語や英語、バントゥー諸語の影響を受けたゲルマン語派の言語である。英語よりも第一言語話者が多く、北ケープ州西ケープ州を中心にアフリカーナーカラードが在住する地域で広く話されている。南アフリカの国土の半分ほどを占める西部地域はアフリカーンス語地域となっており、特に農村部での広がりが目立つ。南アフリカの地名にはボーア人(アフリカーナー)が開拓した土地が多いためにアフリカーンス語のものが多い。

以前はアフリカーンス語も英語と並んで共通語としての役割を担っており、事実上の二言語国家体制を敷いていたが、アパルトヘイト撤廃後は、ソウェト蜂起に代表されるようにアパルトヘイトという負のイメージの象徴としてのアフリカーンス語[注釈 4]への逆差別も発生しており、それまで政治的に支配していたアフリカーナーが失脚したことで、その地位は急速に低下している。

アフリカーンス語の地名や通りの名は英語やバントゥー諸語の名に変えられ、以前は二言語併記であった政府の公式文書のほか、南アフリカ航空南アフリカ旅客鉄道公社など企業名からも排除された。政界ではかつて国民党が支配していたためアフリカーンス語が政界の中心言語であったが、現在は完全に排除されている。国営の南アフリカ放送協会のテレビ放送も、以前は半分の番組がアフリカーンス語で制作されていたが、現在ではほとんどが英語に変わった。教育機関などにおいても、それまでアフリカーンス語で教育を行っていた学校の閉鎖や英語化が行われ、アフリカーンス語話者にとって母語での教育という選択肢も奪われている。国内の多くの大学でもそれまで行われてきたアフリカーンス語による教育が廃止・削減され、英語へと変わっており、国内最高学府でありアフリカーンス語のみで教育が行われていたステレンボッシュ大学においても、英語の使用が認められアフリカーンス語使用率はどんどん縮小している。それに対して、アフリカーンス語話者は教育の地位を奪われていると反発しており、新たなアフリカーンス語の大学の設置運動に対しても黒人がアパルトヘイトの復活であると激しく反発しているなど社会問題となっている。

このように、白人のアフリカーナーのみならず、カラードや一部の黒人などの白人以外の母語でもあり、それまで共通語としても機能していたアフリカーンス語の排除は問題となっており、結果としてアフリカーンス語話者の英語化や海外への大量流出を引き起こしている。このままいくと、およそ国内に第一言語として約600万人、第二言語として約1,000万人もいるアフリカーンス語話者も将来的には国内から絶滅することが危惧されている。

上記の事情にもかかわらず、2011年センサスによると、人口に占める割合は13.5%と2001年のセンサスに比べ0.2%増加した。第一言語話者数も2001年の598万3,000人から2011年には685万5,082人へと増加した。人種別にみると、カラードの75.8%(344万2,164人)、白人の60.8%(271万0,461人)の母語となっており、黒人の母語話者(60万2,166 人)も全体の黒人人口の1.5%に過ぎないものの実数では決して少なくないなど、母語話者数ではカラードが最大を占めるなど、白人だけの言語とは言えなくなっている。「アパルトヘイトを行った白人の抑圧の言語」というレッテルが間違いであると分かる。
バントゥー諸語

新言語憲法で公用語にバントゥー諸語で南バントゥー語群に属するズールー語コサ語スワジ語南ンデベレ語北ソト語ソト語ツワナ語ツォンガ語ヴェンダ語の9言語が指定された。実際、ほとんどの黒人にとっての第一言語・日常言語となっている。中でもズールー語は国内でもっとも多くの人に話されているが、それでも全体の22.7%に過ぎず、それも東部に限定される。コサ語、スワジ語、ンデベレ語、南ンデベレ語もズールー語と同じングニ諸語に属し意思疎通には問題ない。また、北ソト語、ソト語、ツワナ語はソト・ツワナ語群に属し類似性が高い。

鉱山労働者によって生み出されたファナガロ語(英語版)というズールー語を基盤に英語やアフリカーンス語を混ぜたバンツゥー系のピジン言語リングワ・フランカ)もあるが、近年は政府により英語が共通語として強化されているために衰退傾向にある。実際に、2011年のセンサスでは2001年センサスと比較すると、南ンデベレ語、ツォンガ語、ヴェンダ語のみが増加し、それ以外の割合はすべて低下したことから、バントゥー諸語から英語話者へと変わりつつある傾向が見られる。バントゥー諸語話者の黒人層の間では貧困から抜け出すためには英語の習得が必要不可欠となり、その結果、黒人言語の衰退を招くと言う悪循環を招きつつあり、一向に黒人言語の地位は低いままで、状況は改善されていない。黒人エリート層ほどバントゥー諸語を軽視し、英語を重視する傾向が強くなっており、その点では植民地支配を脱してもなお宗主国の言語をより一層重視しているほかのブラックアフリカ諸国と共通した問題がある。
言語統計

南アフリカで使用される言語(2011年統計)[30][34]

言語話者人口%話者が多い州(州全体の中の割合)
ズールー語11,587,37422.7%クワズール・ナタール州77.8%、ムプマランガ州24.1%、ハウテン州19.8%
コサ語8,154,25816.0%東ケープ州78.8%、西ケープ州24.7%、フリーステイト州7.5%、ハウテン州6.6%、北西州5.5%、北ケープ州5.3%
アフリカーンス語6,855,08213.5%北ケープ州53.8%、西ケープ州49.7%、フリーステイト州12.7%、ハウテン州12.4%、東ケープ州10.6%、北西州9.0%、ムプマランガ州7.2%
英語4,892,6239.6%西ケープ州20.2%、ハウテン州13.3%、クワズール・ナタール州13.2%、東ケープ州5.6%
北ソト語4,618,5769.1%リンポポ州52.9%、ハウテン州10.6%、ムプマランガ州9.3%
ツワナ語4,067,2488.0%北西州63.4%、北ケープ州33.1%、ハウテン州9.1%、フリーステイト州5.2%
ソト語3,849,5637.6%フリーステイト州64.2%、ハウテン州11.6%、北西州5.8%
ツォンガ語2,277,1484.5%リンポポ州17.0%、ムプマランガ州10.4%、ハウテン州6.6%
スワジ語1,297,0462.5%ムプマランガ州27.7%
ヴェンダ語1,209,3882.4%リンポポ州16.7%
南ンデベレ語1,090,2232.1%ムプマランガ州10.1%
その他の言語1,062,9132.1%
合計50,961,443100.0%

都市圏で使用される言語(2011年統計)[35]

都市圏名人口母語話者の割合%
ヨハネスブルク4,434,827ズールー語23.41%、英語20.10%、ソト語9.61%、ツワナ語7.68%、アフリカーンス語7.28%、北ソト語7.26%、コサ語6.83%、ツォンガ語6.58%
ケープタウン3,740,026アフリカーンス語35.7%、コサ語29.8%、英語28.4%


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