『千年女優』は伝説の大女優のインタビューに訪れたスタッフが、その女優の過去と出演した映画が交差する虚構の世界で彼女の一代記を体験するという複雑な構成になっていて、現実と虚構が入り乱れたストーリーであると同時に、さまざまな名作映画へのオマージュが込められている[19]。主人公のイメージは原節子と高峰秀子で、作中に登場する映画は、黒澤明の「蜘蛛巣城」風の時代劇や小津安二郎の映画、「鞍馬天狗」の登場するチャンバラ物、「ゴジラ」のイメージを借用した怪獣もの、SFなど様々である[18][20]。今自身も、「この作品は日本映画へのオマージュでもあり、『初恋はいいよね』という話でもあり、『自分に素直に生きよう』というメッセージでもある。いろんな風に見てほしい」と語っている[18]。ただし、「『解は一つではない』――それが一番欲している作品のあり方」とも言っているので、観客独自の深読み、裏読みは監督も歓迎するところである[18]。
この作品は基本的に同じエピソードの繰り返しであり、音楽で言えば「ボレロ」のような循環する話である[8]。物語は老女優・藤原千代子が語る身の上話で進行するが、次第に現実と夢と映画が混濁していく趣向で、各エピソードは「追う・走る・転ぶ」という一連の場面を、状況と時代を変えながら繰り返す。その総体である彼女の人生も、幻影に近い「鍵の君」を追い続けながら、さまざまな挫折と再起が繰り返される[21]。そのフラクタルな構造の発想は、平沢進の音楽に負うところが大きいと今は語っている[21]。また、この構造には今が漫画家デビュー後に経験した入院生活と、そのとき「すべてが壊れてしまった、それでも立ち上がれるか」と感じた挫折と葛藤が反映されているという[21]。この映画は最後の最後で千代子がとんでもないことを言い出し、多くの観客を振り落としてしまうことでも有名である。今は、人間の成長過程はいわば死と再生の繰り返しで、それまでに積み上げた価値観が新しい局面において通用しなくなり、一度壊れたそれを再度作り上げても、また新たな局面において通用しなくなる、という繰り返しであると言い、映画の最後で「転んだ」あとも、さらにそこから立ち上がって「追う・走る・転ぶ」を続けられるかどうかと観客に問いかけ、彼らの人生ごとフラクタルに巻きこんだ[14][21]。 関西を中心に活動する女性5人の劇団『TAKE IT EASY!』により舞台化。主人公である藤原千代子他、主要キャストやサブキャストなど200以上に渡るキャラクターを五人の役者が入れ替わりながら演じる「入れ子キャスティング」という手法で全編が構成された。
演劇版
原作:今敏
脚本・演出:末満健一(ピースピット)
音楽:和田俊輔(デス電所)
出演(初演):清水かおり、中村真利亜、前渕さなえ、山根千佳、松村里美(大阪) / 立花明依(愛知)
出演(再演):清水かおり、中村真利亜、前渕さなえ、山根千佳、立花明依
プロデューサー:水口美佳 企画制作:TAKE IT EASY!
協力:マッドハウス 「千年女優」製作委員会
2009年1月 大阪公演 梅田・HEP HALL
2009年5月 愛知公演・長久手文化の家 森のホール(一時間の短縮version)
2011年1?5月 大阪 HEP HALL・東京シアターグリーン・福岡 ぽんプラザホール・大阪 シアター・ドラマシティにて再演
主題歌「アパンナカ」
劇中歌「数え歌 無限千年回廊」「いろは唄 乙女千年疾走」
作詞:末満健一 作曲:和田俊輔 歌:TAKE IT EASY!
関連文献
『千年女優画報 -- Millennial actress special edition』 マッドハウス・発行、河出書房新社・発売 2002年10月 ISBN 4-309-90511-0
『KON’S TONE―「千年女優」への道』、晶文社、2002年9月 ISBN 978-4-794-96546-2
脚注[脚注の使い方]^ “Millennium Actress - 4K UHD Blu-ray + Blu-ray Collector's Edition
^ (英語) Millennium Actress, https://www.rottentomatoes.com/m/millennium_actress_2001 2021年11月23日閲覧。
^ “Metromix.com: Movie review: 'Millennium Actress'”. web.archive.org (2004年2月20日). 2021年11月23日閲覧。