十二音技法
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十二音技法以外における半音階の均等な使用例

歴史的には、バッハの「音楽の捧げもの」の第1曲や平均律クラヴィーア曲集第一巻のロ短調で十二音全てを使った例が挙げられる。また、モーツァルト交響曲第40番終楽章で十二音に近いメロディーを提示しているのが有名である他、『ドン・ジョヴァンニ』にも同様に十二音風のフレーズが現れ、これを20世紀後半になってダリウス・ミヨーが指摘している。リストは『ファウスト交響曲』で、全てを知り尽くそうとするファウストの欲求を表すために十二音全てを使った主題を用いている。

ロマン派の後期になると、マックス・レーガーリヒャルト・シュトラウスの作品にも十二音に限りなく近い主題が散見される。後者は交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』の「科学について」のフガートでやはり十二音全てを使った主題を用いている。マーラーの未完の交響曲第10番のうち唯一の完成楽章であるアダージョでは、半音階の十二音のうち11音が組み合わされた複雑な和音が、その楽章のクライマックスにおいて鳴らされる。

20世紀に入ると、バルトーク中心軸システムによって半音階の十二音全てを均等的に使用することを理論的に確立させた。調性音楽の理論上において事実上半音階の均等に至ったのは彼の功績といえる。

対位法と全く関わりなく十二音技法を達成している作曲家は、戦前ではヨーゼフ・マティアス・ハウアーとニコライ・オブーホフ(英語版、ドイツ語版)が挙げられる。

戦後は松平頼則ダッラピッコラ、ゲディーニ、ブラッド、ペトラッシストラヴィンスキースティーヴンスルトスワフスキなどが、自由に十二音を用いる作曲法を個別に展開している。

ロマン・ブラッドなどの作曲家は、クラシックの作曲家が十二音に近いフレーズを偶然発見してしまうことをテーマに作品を書いている。

ショスタコーヴィチの『交響曲第15番』『弦楽四重奏曲第15番』、オネゲルの『交響曲第5番』、デュティユーの『メタボール』第3楽章には、部分的に十二音を一度ずつ用いるメロディが主題として用いられている。これらは新ウィーン楽派の十二音技法とは異なる使い方であるが、戦後に無調音楽や十二音技法が浸透し、今まで距離を置いてきた作曲家たちが実験的に用いるようになった一例と言える。
総音列技法詳細は「トータル・セリエリズム」を参照

十二音技法では音高を数列と見なし「音列」を形成したが、これを音高のみならず音価(音の長さ)や音量(強度)あるいは音色にも応用し、音楽における全ての要素を数列化することにより、最初の数列と数式を決めた後は計算によって自動的に音楽作品を生成する作曲法を総音列技法、フランス語でセリー・アンテグラルと言う。オリヴィエ・メシアンの「音価と強度のモード」によってその可能性が示唆され、メシアンの生徒であるピエール・ブーレーズの「構造」第1番および第2番によって完全に実現された。日本では松平頼暁(頼則の息子)の「ピアノ、ヴァイオリン、チェロのための変奏曲」がこの技法により作曲されている。

パラメーターの技法

音高:ソナタ形式主題にあたる十二音列を作成する。調性を感じさせてはいけないので隣同士の音程はトリトヌス(増4度や減5度)や半音音程(短二度や長七度)を主に並べられる。三度など調性を感じさせる物は原則禁止される。それぞれの音は1回しか使えない。実際に曲に使用する場合は調性を感じさせないようにすべて跳躍進行にする。シェーンベルクの十二音技法は主としてここまでで終わっている。

音長:セリエル音楽の場合は1から12までそれぞれ違った音の長さの違う音符を用意する。ウェーベルン時代はトータル・セリエリズムにはなっていないが、できるだけ繰り返しの少ない、図形的リズムやコントラスト・リズムで音の長さの秩序化を図る(参照:ウェーベルン作曲の「協奏曲」作品24)。

強弱:原則として繰り返しを避ける。セリエル音楽の場合は1から12までそれぞれ違った音の強弱を準備する。例えば(pppp, ppp, pp, p, mp, mf, f, sf, ff, ffz, fff, ffff)等である。ウェーベルン時代も強弱の繰り返しは極力避けるがディミヌエンドクレッシェンドなどの大雑把な強弱法がまだ多い。

音色:その都度楽器を頻繁に替える。1回使った楽器は原則1つの音列が終わりまで使えない。セリエル音楽の場合は1から12までそれぞれ違った楽器を準備するのが理想的である。

方向:シュトックハウゼンによって付け加え的に提唱された。彼のたくさんのスピーカーを使った電子音楽などに見る事ができる。

十二音列は旋律ではないので、普通は音1つ1つが独立する音響作曲法のさきがけをなす。伴奏部分も十二音列によって初期には作曲されたが、「メロディー伴奏との組み合わせ」と言う繰り返しを避ける為に次第に廃れ、代わって対位法的な技法(構成法や逆行・反行・反逆行)が多く用いられた。ウェーベルンでは音列と次の音列のつなぎに「/Spiegel/Ambivalenz」と呼ばれる共有音で良く接続される。更にコントラバスチェロオクターヴ音程奏法やオスティナートなどは古今長らく使われてきたので、和声学における平行五度等と同じく「繰り返し」として意図的に厳しく避けられる。
自動作曲詳細は「自動作曲」および「アルゴリズム作曲法」を参照

十二音技法や総音列技法は、数式さえ決めればある程度の楽譜の自動生成が可能なため、古くは計算尺など、現在ではコンピュータを用いて自動作曲(作曲補助)が行われる。最終的な調整は人の手が入るとしても、途中の計算過程を自動化させることによって、作曲の労力を軽減させる目的で用いられる。例えば前述の「音列の変形方法」に挙げられた反行や逆行などは、簡単な計算方法によって数学的に求める事が可能である。現在の代表的な自動作曲ソフトウェアとして、フランス国立音響音楽研究所IRCAMが開発したOpenMusicが挙げられる。このソフトウェアの説明書に付属するチュートリアルの初歩段階に、十二音技法の音列各種を自動生成する練習課題がある ⇒[1]

日本ではOnpTank制作のやぎぱく等のソフトウェアがあるが、自動作曲の欠点はあくまでも機械で作曲するために大きな意味での『繰り返し』が生ずることで、十二音技法の本来の意図からは外れてしまう。

ただし自動作曲そのものは、十二音技法や総音列技法だけにとどまらず、様々な様式の作曲手段として用いられる。



影響

現在この作曲法そのものは、セリエル音楽も含めて和声課題の実施や学習フーガと同じく、過去の技法と見なされ実際の音楽に使う人はもはやほとんど見られないが、特に「前衛音楽」と呼ばれていた時代には十二音音楽に賛同する人も反対する人も、現代音楽の議論においては必ず“この作曲法から見て”と議論され書かれるほどの多大な影響力をもっていた語法であった。これに匹敵する現代音楽の技法としては「電子音楽の実習」であるとオリヴィエ・メシアンなどの偉大な教育者は口をそろえて指摘していた。
問題点

十二音技法は確かに横のラインには整合性が取れているものの、縦のラインに関しては、調性の持つ「終止システム」に対してあまりに貧弱だった[注釈 1]

ブーレーズはこの問題に対し、セリーから(特定の響き、進行を制御するための)「ブロック・ソノール」を生成し音列技法の限界を越えようとした。

更に練習に膨大な時間を費やす演奏だけではなくて、一般に常にメロディーとリズムを追い求める聴衆にとっては鑑賞も非常に難しく、また曲全体が同じ音価の音符によって均等に埋められているので曲による違いを見つけにくい、みんな同じ音楽の様に聴こえる難点がダルムシュタットなどで昔から指摘されている。

現在の欧米では和声や対位法・電子音楽の実習の様に音楽学生の現代音楽のための歴史的教育用の自習教材としてのみ受け入れられていて、実際の創作行為に於いては十二音技法そのものは余り用いられていないのが実態である。
日本の十二音音楽の享受

日本における第一人者は入野義朗と言われる。


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