化学物質
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炭素窒素酸素など約14-21種類の元素は非金属に分類される[12]。非金属は前述のような金属的な性質は持たないが、電気陰性度が高く、陰イオンを形成する傾向がある。ケイ素のような特定の元素は、金属に似ていることもあれば、非金属に似ていることもあり、半金属元素(メタロイド)と呼ばれている。
化合物フェリシアン化カリウムは、カリウム、鉄、炭素、窒素の化合物である。シアン化物陰イオンを含むが、それを放出することはなく、毒性を示さない。詳細は「化合物」を参照「有機化合物の一覧」および「無機化合物の一覧」も参照

化合物とは、特定の原子イオンの集合から構成される化学物質である。2種類以上の元素が化学反応によって1つの物質に結合したものが化合物である。すべての化合物は物質であるが、すべての物質が化合物というわけではない。

化合物には、原子どうしが結合して分子を形成しているものと、原子、分子、またはイオンが結晶格子を形成した結晶がある。炭素原子と水素原子を主な成分とする化合物を有機化合物といい、それ以外は無機化合物という。炭素と金属の結合を含む化合物は有機金属化合物という。

各原子が電子を共有する化合物は共有結合化合物という。逆電荷を帯びたイオンどうしからなる化合物はイオン化合物またはという。

配位錯体(はいいさくたい)は、共有結合やイオン結合がなくても、配位結合によって物質が結合している化合物である。配位錯体は、単純な混合物とは異なる、明確な性質を持つ物質である。典型的には、銅イオンなどの金属が中心にあり、アンモニア分子の窒素や水中の水分子の酸素のような非金属原子が金属中心に配位結合を形成する(例:硫酸テトラアンミン銅(II)水和物(英語版)、[Cu(NH3)4]SO4・H2O)。この金属を「金属中心」といい、配位する物質は「配位子」(リガンド)という。しかし、三フッ化ホウ素エーテラート(英語版) BF3OEt2 の例に示されるように、中心が金属である必要はなく、ここでは強ルイス酸性であるが、非金属のホウ素中心が「金属」の役割を果たす。配位子が複数の原子で金属中心と結合している場合、その錯体はキレートと呼ばれる。

有機化学では、同じ組成と分子量を持ちつつ、互いに異なる化合物が存在することがある。一般にこれらを異性体という。通常、異性体どうしの化学的性質はほぼ異なり、多くの場合、自発的な相互変換をすることなしに単離することができる。グルコースフルクトースは、よく比較される例で、前者はアルデヒド、後者はケトンである。これらの相互変換には、酵素または酸塩基触媒のいずれかが必要である。

ただし、互変異性体は例外で、異性化は通常の条件下で自発的に起こるため、たとえ純粋な物質を分光学的に同定し、特殊な条件下で単離できたとしても、互変異性体を分離することはできない。一般的な例はグルコースで、グルコースには鎖状体と環状体がある。グルコースは自発的にヘミアセタール体に環化するため、純粋な開鎖型グルコースを製造することはできない。
物質と混合物詳細は「混合物」を参照クランベリーガラス(英語版)は均質に見えるが、実際にはガラスと直径約40 nmのコロイド金粒子からなる混合物(mixture)であり、赤色を呈する。

すべての物質はさまざまな元素や化合物から構成されているが、それらはしばしば緊密に混ざり合っている。混合物には複数の化学物質が含まれており、その組成は一定ではない。原理的には、純粋に機械的な処理によって構成物質に分離することができる。バター土壌木材は混合物の一般的な例である。

灰色の金属鉄と黄色の硫黄はどちらも化学元素であり、任意の割合で混合して黄灰色の混合物を作ることができる。このとき化学的な反応は起こらず、磁石を使用して鉄を硫黄から引き離すなどの機械的な処理によって硫黄と鉄を分離できることから、この物質が混合物であると見分けることができる。

一方、鉄と硫黄を一定の割合(硫黄1原子に対して鉄1原子、または重量比で硫黄32グラム(1モル)に対して鉄56グラム(1モル))で一緒に加熱すると化学反応が起こり、化学式 FeS で表される硫化鉄(II)という化合物が新たに生成する。生じた化合物は化学物質のすべての性質を備えており、混合物ではない。硫化鉄(II)は融点溶解度など独自の特性を持っており、2つの元素を通常の機械的な処理で分離することはできない。この化合物中には金属鉄が存在しないため、磁石で鉄を回収することはできない。
化学品と化学物質メスシリンダーとビーカーに入った化学品。詳細は「化学物質不使用(英語版)」を参照

「化学物質」(chemical substance)という用語は正確な専門用語であり、化学者にとっては「化学品」(chemical)と同義語であるが、化学品という言葉は、一般的には(純粋な)化学物質や混合物(しばしば化合物と呼ばれる)の両方を指し[13]、特に実験室や工業プロセスで製造または精製されたものに使われる[14][15][16]。言い換えれば、たとえば果物や野菜などに自然に含まれる化学物質は、一般的な用法では「化学品」とは呼ばれない。製品の成分表示を義務付けている国では、表示される「化学品」は工業的に製造された「化学物質」である。また、「化学品」という言葉は、中毒性、麻薬性、向精神性のある薬物を指す場合にもよく使用される[14][15]

化学業界では、製造された「化学品」は化学物質であり、製造量によってバルクケミカル、ファインケミカル、研究用ケミカルに分類される。

バルクケミカルは非常に大量に製造され、通常は高度に最適化された連続プロセスで比較的安価に作られる。

ファインケミカルは、殺生物剤、医薬品、技術用途の特殊化学品などの特殊な少量用途向けに、高コストで少量生産される。

研究用ケミカル(英語版)は、合成経路の探索や薬理活性物質のスクリーニングなど、研究のために個別に製造される。事実上、販売されることはなく、グラム単価は非常に高い。

こうした製造量の違いは、化学品の分子構造の複雑さに起因する。バルクケミカルは、一般的にそれほど複雑ではない。ファインケミカルは、もっと複雑かもしれないが、その多くは、前述のような単一用途を目的とした、より複雑な分子を合成する際の「構成要素」として販売できる程度に単純である。化学品の製造工程には、その合成だけでなく、合成の際に生じた副生成物や不純物を除去するための精製も含まれる。製造の最終段階では、化学品のバッチロット(英語版)を分析し、化学品の買い手のために不純物を特定し割合を定量化する必要がある。要求される純度や分析は用途によって異なるが、バルクケミカルの製造では通常、不純物に対する許容度は高くなる。従って、米国では化学品を使用する際に、不純物の含有量が高いバルクまたは「工業グレード(technical grade)」か、より純度の高い「医薬品グレード(pharmaceutical grade)」(米国薬局方(英語版)のUSP表示)のどちらかを選択することになる。商業的および法的な意味での「化学品」には、特定の化学物質ではなく、技術的な仕様に基づいて製造された製品であるため、組成が大きく変化する混合物が含まれることがある。たとえば、ガソリンは単一の化合物でも特定の混合物でもない。「ガソリン」は主に供給源、特性、オクタン価によって定義されるため、異なるガソリンは化学組成が大きく異なる可能性がある。
命名と索引

すべての化学物質には1つ以上の組織名(体系名、系統名)があり、通常はIUPAC命名規則に従って命名している。代替規則としてChemical Abstracts Service(CAS)がある。

多くの化合物は、より一般的で単純な名前でも呼ばれており、その多くは組織名よりも古くから使われているものである。たとえば、古くから知られているグルコースというは、現在では 6-(ヒドロキシメチル)オキサン-2,3,4,5-テトロール と体系的に命名されている。天然物医薬品にも、より単純な名前が付けられている。たとえば、軽度な鎮痛剤であるナプロキセンは、化合物 (S)-2-(6-メトキシ-2-ナフチル)プロパン酸 の一般名である。

化学者は、化合物について言及するために、化学式や化合物の分子構造を使うことが多い。世界中の専門的な化学者によって合成(または単離)され、科学文献(英語版)に報告される化合物の数は驚異的に増加している[17]。既知の化学元素を化合させることにより、膨大な数の化合物が可能になる。2021年2月現在、約1億7,700万種類(配列定義生体高分子の6,800万種類を含む)の有機および無機物質が科学文献に掲載され、公的データベースに登録されている[18]。これらの化合物の多くは慣用名を持たないことが多く、正確に覚えるのも引用するのも容易ではない。また、文献でそれらを追跡することも困難である。IUPACやCASなどのいくつかの国際機関は、このような作業を容易にするための措置を展開している。CASは、化学文献の抄録サービスを提供し、化学文献(化学雑誌(英語版)や特許など)で報告された各化学物質にCAS登録番号という数値識別子を割り当てている。


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