化学式は、化合物を構成する各元素を化学記号で識別し、各元素の原子数の比率を示すものである。実験式の場合、これらの比率は、化合物中の主要な元素から始まって、その元素に対する比率で他の元素の原子数を割り当てる。分子化合物の場合、これらの比率の値はすべて整数で表すことができる。たとえば、エタノールの実験式は C
2H
6O と表記されることがあるが、これはエタノールの分子はすべて2個の炭素原子、6個の水素原子、1個の酸素原子を含んでいるからである。しかし、イオン性化合物の中には、実験式をすべて整数で表現できないものもある。たとえば炭化ホウ素の場合、その式 CB
n は、n が 4-6.5 の間で可変の非正数比である。
化合物が単純な分子で構成されている場合、化学式は分子の構造を示唆する記述法をとることが多い。このような式は、分子式あるいは示性式として広く知られている。分子式は、分子内の原子の数を反映させるために原子数を列挙する。そのため、グルコースの分子式は C
6H
12O
6 となり、実験式の CH
2O とは異なる。しかし、非常に単純な物質を除いて、分子の化学式は必要な構造情報を欠いていて、曖昧となる。
単純な分子の場合、示性式(または半構造式)は、正しい構造を完全に示唆する可能性のある化学式の一つである。たとえば、エタノールは CH
3CH
2OH という示性式で、ジメチルエーテルは CH
3OCH
3 という示性式で表すことができる。この2つの分子は同じ実験式と分子式(C
2H
6O)を持っているが、単純な有機化合物の完全な構造を表すのに十分な示性式が示されることで、分子を区別することができる。
また、示性式はイオン性化合物も表現することができる。イオン性化合物は個別の分子としては存在せず、その内部に共有結合したクラスターを含んでいる。これらの多原子イオンは、たとえば硫酸イオン [SO
4]2-
のように、全体としてイオン電荷を持つ、共有結合した原子のグループである。化合物中の各多原子イオンは、グループ分けを説明するために個別に表記される。たとえば、六酸化二塩素
本記事で説明する化学式は、化学命名法(英語版)のさまざまな体系で使用されている非常に複雑な化学系統名とは異なるものである。たとえば、グルコースの系統名の一つに、(2R,3S,4R,5R)-2,3,4,5,6-pentahydroxyhexanal がある。この名前はその背景にある規則によって解釈され、グルコースの構造を完全に特定しているが、通常の意味での化学式ではなく、化学式では用いられない用語や単語を使っている。このような名前は、基本式とは違って、グラフィックを使わなくても完全な構造を表すことができる可能性がある。
種類
実験式詳細は「実験式」を参照
化学では、化学物質の実験式(empirical formula)とは、化合物質に含まれる原子の種類ごとの相対的な数、または元素の比率を簡単に表したものである。化学物質の元素組成を示すことから、元素組成式(compositional formula, nominal composition)、あるいは単に組成式と呼ぶこともある。CaCl
2 のようなイオン性化合物や、SiO
2 のような高分子化合物では、実験式が標準となる。実験式では、異性、構造、原子の絶対数には言及しない。実験(empirical)という用語は、元素分析のプロセスを意味しており、これは純粋な化学物質の元素ごとの相対的な組成を決定するのに使われる分析化学の技術である。
たとえば、ヘキサンは分子式は C
6H
14 で、n-ヘキサン(異性体の一つ)の構造式は CH
3CH
2CH
2CH
2CH
2CH
3 であり、6個の炭素原子と14個の水素原子からなる直鎖構造を持っていることを意味する。しかし、ヘキサンの実験式は C
3H
7 となる。同様に、過酸化水素 H
2O
2 の実験式は単純に HO で、構成元素が 1:1 の比率であることを表している。ホルムアルデヒドと酢酸の実験式は同じ CH
2O である。これは、ホルムアルデヒドの実際の化学式でもあるが、酢酸はこの2倍の原子数を持っている。
分子式イソブタンの構造式
分子式: C
4H
10
示性式: (CH
3)
3CH H − C 。 H H 。 − C 。 H H 。 − C 。 H H 。