化学兵器
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化学兵器はNBC兵器の“C”(Chemical)に当たり、核兵器(N)や生物兵器(B)と並ぶ大量破壊兵器の一つである。毒ガスとして知られる兵器が主流で、マスタードガス(イペリット)やサリンVXガスなどが著名である。常温・常圧下でも気体である毒ガス兵器ばかりでなく、固体液体(粘度の高いものを含む)のものもある。後者は、高い揮発性で気体となって拡散するタイプばかりではなく、液体が噴霧された霧状の状態で効果を発揮するものも含む。

化学兵器と呼ばれる範囲は、時代や条約によって若干異なる。警察の催涙ガスとして現用されるクロロアセトフェノン(CNガス)のように、死亡リスクや後遺症の恐れは少ないものも、軍事用に使われれば化学兵器に含めることがある(いわゆる非致死性兵器)。化学兵器禁止条約では、2条に化学兵器の定義を置き、このほか特に検証措置の対象とする種類については、附属書の表に記載している。

日本国政府の同条約解釈では、致死率の低いジフェニルシアノアルシンないしジフェニルクロロアルシン(両者の大日本帝国陸軍での呼称「あか剤」)及びCNガス(同じく「みどり剤」)を化学兵器としている[2]

近代的な化学兵器は第一次世界大戦で登場し、大量に使用された。しかしその後は、禁止条約が発効したことに加え、後述する特性から運用が難しいこと、さらには国際世論による批判が強いために、実戦使用例は限られている。アメリカ陸軍MGR-1ロケット弾の化学クラスター弾頭。子弾にサリンを充填する。

初期の化学兵器は呼吸器皮膚など人体組織を蝕む化学反応を起こす有害な物質が利用された。1930年代後半にはサリンなどに代表される神経性の毒物(神経ガス)が開発された。神経性の毒物は、神経系の信号伝達を不可能にして破壊することから、少量でも致命傷となる。生存しても予後が悪く、運動機能や感覚機能に後遺症が残りやすい。また人体の代謝機能を破壊し、徐々に人体を蝕む薬品もあり、即効性はないものの致死性のこれらの兵器では、予後は極めて悪い。致死率は低くとも重篤な後遺症の危険性がある兵器用薬剤もある。

冒頭で述べたように、毒ガスとは称しても常温・常圧では液体や固体のものが多い。気体や霧状、微粉末にして散布したり、砲弾爆弾に詰めて爆発の衝撃で飛散させたりすることによって、兵器としての効果を発揮する。ミサイルロケット弾弾頭、さらには地雷手榴弾に充填して使用されることもある。第一次世界大戦では常温で塩素ボンベで戦場に持ち込み、敵軍に向けて放出する方法も使われた。

近代的な大量破壊兵器としての生物・化学兵器とは別に、動植物由来の毒を塗った毒矢は、狩猟だけでなく戦争にも古来使われてきた。過去には、刃物に毒物を塗るといった研究もされているが、近代戦での実用例はない(弾に毒を仕込んだ特殊銃はゲオルギー・マルコフ暗殺に使われた)。
兵器としての特性

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兵器としては以下のような「長所」を持つ。

防護装備の不十分な目標に対しては、一度に多数の死傷者を生じさせられる。(大量破壊兵器)

核兵器に比べると、開発や生産が技術的に容易である。

心理的効果が高く、敵兵に恐怖心を与える。

火薬使用量が少なく、通常弾薬の生産と競合しにくい。

種類によっては殺傷効果に持続性があり、敵の進撃経路を継続的に限定できる。

他方で、次のように兵器としては運用が限定される「短所」もある。

散布状況が天候や風向きに左右されて効果が予想しにくく、味方や非戦闘員(民間人)に被害を与えかねない。

現在では戦線の歩兵はガスマスクを携行し、車両は対NBC兵器装備を備えているのが普通なので効果が薄い。

大量生産するにはある程度の化学工業水準を要する。特に第一次世界大戦頃では、量産能力のある国は限られた。

被害者の障害が残る。

環境被害がある。特に持続性がある種類のもの。

化学兵器など大量破壊兵器による報復だけでなく、第三国による軍事介入や国際世論の非難を招く恐れが高い(例:米軍によるシリアシャイラト空軍基地攻撃)。

現代の正規戦用兵器としてみると、法的問題からの制約のみでなく、技術的にも運用が難しい面がある。化学防護服や装甲車両を備えた軍隊、気密性が高い基地施設といった防護の充実した目標には、行動・活動を阻害することはできるものの、効果は限定的と言える。またイスラエルのように、住宅や市街地にも防毒マスクや避難シェルターが行き渡っている国もある。

もっとも防護装備が不十分な軍隊や、多くの国の民間人に対する攻撃方法としては有効であり、しばしば利用される。例えばイラクフセイン政権はクルド人虐殺に使用したとされ、シリア騒乱でもアサド政権軍が使用した疑惑がある。すなわち、装備の良好な軍隊には効果が薄く、民間人や非正規軍には被害が出やすい兵器だということが言える。

化学兵器は「貧者の核兵器」とも呼ばれ[3]、核兵器を開発するために必要な技術・資金に乏しい国、あるいはテロ組織による生産・利用が危惧されている。
分類
致死性と非致死性

化学兵器は致死性と非致死性に分類されることがある[3]。もっとも、非致死性と呼ばれていても、文字通りに死亡の危険がないわけではなく、濃度や暴露時間などによるため分類は相対的である。例えば、モスクワ劇場占拠事件においては、非致死性のはずの無力化ガスと称するKOLOKOL-1が使用された結果、人質を含む129名が死亡する事態となっている。

効果・毒性を加味すると、以下のような種類に分けられる。

致死性[3]

血液剤:シアン化物剤。呼吸障害を起こす。

びらん剤:皮膚のただれを起こす。

神経剤:神経伝達阻害を起こす。

窒息剤:呼吸器系障害を起こす。


非致死性[3]

嘔吐剤:呼吸器等を強く刺激する。

催涙剤:目や呼吸器等を強く刺激する。

無力化剤:幻覚作用などを起こす。


即効性と遅効性

化学兵器は即効性のものと遅効性のものが存在する。

即効性:殺傷目的(例:
サリンVXガス

遅効性:環境汚染目的(例:マスタードガス

即効性のものは主に人員を即時に殺傷することを目的としている。一般に殺傷能力の点では優れるが、環境中に放たれてから分解されるまでの時間が短く、加害の持続効果はあまりない。神経ガスの多くが該当する。

遅効性のものは、即効性のものより一般に殺傷能力の点では劣るが、環境中での分解に時間がかかるため、長時間散布地域一帯を汚染する効果がある。場合によってはその汚染事実が被害側には容易に判別できないために、汚染の拡大が期待でき、拡大後に効果が生じることになる。戦場であれば比較的後方の補給路や集積地、又は都市部や農地への無差別的な攻撃によって、補給能力、指揮能力、産業経済、政治、医療負担などの多様な方面から継戦能力を減殺する目的で使用される[4]。ただし、第一次世界大戦におけるマスタードガスのように前線利用がされることもある。

遅効性の影響は、環境因子の影響も含めて不明の点が多く、信頼性のある知見は得られていない[5]。長期的な影響については、精神的な影響も含め、慢性疾患の増加等があげられている[5]
使用の歴史

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