勾配_(ベクトル解析)
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U を Rn の開集合とし、関数 f : U → R がフレシェ微分可能とすると、f の全微分は f のフレシェ導関数であり、従って ∇f は U から空間 R への写像で lim h → 0 ‖ f ( x + h ) − f ( x ) − ∇ f ( x ) ⋅ h ‖ ‖ h ‖ = 0 {\displaystyle \lim _{h\to 0}{\frac {\|f(x+h)-f(x)-\nabla f(x)\cdot h\|}{\|h\|}}=0}

を満たすものである(中黒はドット積)。

この帰結として、勾配が通常の微分が持つ微分法則を満足することがわかる。
線型性
二つの実数値関数 f, g が点 a ∈ Rn において微分可能で、α, β が実定数であるとき、線型結合 αf + βg は a において微分可能であり、さらに ∇(αf + βg)(a) = α∇f(a) + β∇g(a) を満たすという意味で、勾配は線型である。
積の微分法則
f と g が実数値関数で点 a ∈ Rn において微分可能ならば、それらの積 (fg)(x) = f(x)g(x) は a において微分可能で、∇(fg)(a) = f(a)∇g(a) + g(a)∇f(a) なる積の法則を満たす。
連鎖律
Rn の部分集合 A 上で定義された実数値関数 f : A → R が点 a において微分可能とする。勾配に関する連鎖律には 2 つの形が存在する。1 つ目は、関数 g を曲線の媒介変数表示、即ち R の部分集合 I から Rn への関数 g : I → Rn とするとき、g が g(c) = a なる I の点 c で微分可能ならば、(f○g)'(c) = ∇f(a) · g'(c) が成立するというもの。ただし ○ は写像の合成である。より一般に、I ⊂ Rk である場合にも ∇(f○g)(c) = t(Dg(c))(∇f(a)) が成立する。ただし t(Dg) は転置関数行列である。二つ目の連鎖律は、R の部分集合 I 上の実数値関数 h: I → R が f(a) ∈ I なる点において微分可能ならば ∇(h○f)(a) = h'(f(a))∇f(a) というものである。
更なる性質と応用
等位集合「等位集合」も参照

f が可微分であるとき、点 x における勾配とベクトル v とのドット積 (∇f)x ? v は x における f の v 方向への方向微分を与える。従ってこの場合、f の勾配は f のすべての等位集合直交する。例えば、三次元空間における等位面は F(x, y, z) = c なる形の方程式で定義され、そして F の勾配はこの面の法線族となる。

より一般に、リーマン多様体に埋め込まれた任意の超曲面は F(P) = 0(ただし dF は至る所零でない)の形の方程式に表すことができて、F の勾配はこの超曲面の法線族になる。

一点 P において関数 f を考えるとき、この点 P を通る曲面を描き、この曲面上の各点で関数が同じ値を取るものとすれば、この曲面は「等位面」と呼ばれる。
保存ベクトル場と勾配定理詳細は「勾配定理(英語版)」を参照

関数の勾配を勾配場と呼ぶ。連続勾配場は常に保存場で、任意の積分路に沿った線積分は積分路の端点にのみ依存して決まり、その値は勾配定理(線積分に対する微分積分学の基本定理)で求められる。逆に連続保存ベクトル場は必ずある関数の勾配場として得られる。
リーマン多様体

リーマン多様体 (M, g) 上の任意の滑らかな関数 f に対し、f の勾配 ∇f とは、任意のベクトル場 X について g ( ∇ f , X ) = ∂ X f , i.e., g x ( ( ∇ f ) x , X x ) = ( ∂ X f ) ( x ) {\displaystyle g(\nabla f,X)=\partial _{X}f,\quad {\text{i.e.,}}\quad g_{x}((\nabla f)_{x},X_{x})=(\partial _{X}f)(x)}

を満たすベクトル場を言う。ただし gx( , ) は計量 g の定める x における接ベクトルの内積で、∂Xf(X(f) とも書く)は各点 x ∈ M において X 方向への f の方向微分の x における値をとる関数である。言い換えれば、座標チャート φ において M の開集合から Rn の開集合への写像 (∂Xf)(x) は ∑ j = 1 n X j ( φ ( x ) ) ∂ ∂ x j ( f ∘ φ − 1 ) 。 φ ( x ) {\displaystyle \sum _{j=1}^{n}X^{j}(\varphi (x)){\frac {\partial }{\partial x_{j}}}(f\circ \varphi ^{-1}){\Big |}_{\varphi (x)}}

で与えられる。ここに Xj は、この座標チャートにおける X の第 j 成分を表す。

故にこの勾配の局所形は ∇ f = g i k ∂ f ∂ x k ∂ ∂ x i {\displaystyle \nabla f=g^{ik}{\frac {\partial f}{\partial x^{k}}}{\frac {\partial }{\partial x^{i}}}}

となる。M = Rn の場合を一般化して、関数の勾配と外微分とを ( ∂ X f ) ( x ) = d f x ( X x ) {\displaystyle (\partial _{X}f)(x)=df_{x}(X_{x})}

によって関係づけることができる。より細かく言えば、勾配ベクトル場 ∇f は微分一次形式 df と g の定める上げ同型(英語版)(シャープ) ♯ = ♯ g : T ∗ M → T M {\displaystyle \sharp =\sharp ^{g}\colon T^{*}M\to TM}

を用いて対応付けられる。Rn 上の関数の勾配と外微分との間の関係は、この計量がドット積の与える平坦計量である特別の場合である。
円筒座標系および球面座標系での表示

円筒座標系において勾配は ∇ f ( ρ , ϕ , z ) = ∂ f ∂ ρ e ρ + 1 ρ ∂ f ∂ ϕ e ϕ + ∂ f ∂ z e z {\displaystyle \nabla f(\rho ,\phi ,z)={\frac {\partial f}{\partial \rho }}\mathbf {e} _{\rho }+{\frac {1}{\rho }}{\frac {\partial f}{\partial \phi }}\mathbf {e} _{\phi }+{\frac {\partial f}{\partial z}}\mathbf {e} _{z}}

で与えられる(Schey 1992, pp. 139?142)。ここで ? は方位角、z は軸方向の座標および eρ, eφ, ez は各座標軸方向に沿った単位ベクトルである。

球座標系においては ∇ f ( r , θ , ϕ ) = ∂ f ∂ r e r + 1 r ∂ f ∂ θ e θ + 1 r sin ⁡ θ ∂ f ∂ ϕ e ϕ {\displaystyle \nabla f(r,\theta ,\phi )={\frac {\partial f}{\partial r}}\mathbf {e} _{r}+{\frac {1}{r}}{\frac {\partial f}{\partial \theta }}\mathbf {e} _{\theta }+{\frac {1}{r\sin \theta }}{\frac {\partial f}{\partial \phi }}\mathbf {e} _{\phi }}

となる(Schey 1992, pp. 139?142)。ここに ? は方位角で θ は天頂角である。
ベクトル値関数の勾配

直交座標系において、ベクトル f = (f1, f2, f3) の勾配は ∇ f = ∂ f i ∂ x j e i e j {\displaystyle \nabla \mathbf {f} ={\frac {\partial {{f}_{i}}}{\partial {{x}_{j}}}}{{\mathbf {e} }_{i}}{{\mathbf {e} }_{j}}}

あるいは関数行列 ∂ ( f 1 , f 2 , f 3 ) ∂ ( x 1 , x 2 , x 3 ) {\displaystyle {\frac {\partial ({{f}_{1}},{{f}_{2}},{{f}_{3}})}{\partial ({{x}_{1}},{{x}_{2}},{{x}_{3}})}}}


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