労災
[Wikipedia|▼Menu]
また以下の全ての要件を満たす場合には、当該業務に従事している労働者として行うべきものか否かにかかわらず、私的行為ではなく業務として取り扱う。

労働者が緊急行為を行った(行おうとした)際に発生した災害が、労働者が使用されている事業の業務に従事している際に被災する蓋然性が高い災害(例えば運送事業の場合の交通事故等)に当たること。

当該災害に係る救出行為等の緊急行為を行うことが、業界団体等の行う講習の内容等から、職務上要請されていることが明らかであること。

緊急行為を行うものが付近に存在していないこと、災害が重篤であり、人命に関わりかねない一刻を争うものであったこと、被災者から救助を求められたこと等緊急行為が必要とされると認められる状況であったこと。
事業主の命令がない場合、業務に従事していない場合に緊急行為を行ったときは、業務に従事していない労働者が、使用されている事業の事業場又は作業場等において災害が生じている際に、業務に従事している同僚労働者とともに、労働契約の本旨に当たる作業を開始した場合には、特段の命令がないときであっても、当該作業は業務にあたると推定する(平成21年7月23日基発072314号)。

事業施設内での休憩中休憩時間の災害については、それが事業場施設(又はその管理)の状況(欠陥等)に起因することが証明されない限り、一般には業務起因性が認められない。

出張中(住居と出張先の往復を含む)出張中は、その用務の成否や遂行方法などについて包括的に事業主が責任を負っている以上、特別な事情がない限り、出張過程の全般について業務行為とみるのが実際的である。したがって、直接出張地へ赴くために自宅から通常通勤の最寄り駅まで移動する行為であっても、通勤災害ではなく業務災害となる(昭和34年7月15日基収第2980号)。

通勤途上や競技会等への参加中であっても、業務の性質が認められるとき事業主が専用の交通機関を労働者の通勤の用に供している場合、その利用に起因する災害は通勤災害ではなく業務災害となる。緊急用務のために勤務先から突然呼び出された場合は、自宅を出て職場に向かう途中も含めて全て業務遂行中とみなされる(昭和24年1月19日基収第3375号)。派遣労働者について、派遣元事業場と派遣先事業場との往復の行為については、それが派遣元事業主又は派遣先事業主の業務命令によるものであれば、一般に業務遂行性が認められる(昭和61年6月30日基発383号)。

業務上の疾病については、厚生労働省令(労働基準法施行規則別表第1の2)第1号~第10号に例示列挙され、これらに該当した場合には特段の反証がない限りその疾病は業務に起因するものとして取り扱われる。また、同表第11号で「その他業務に起因することの明らかな疾病」と包括規定され、業務との間に相当因果関係があると認められる疾病について、個別に業務起因性を認めることとされていて、これにより、請求人による相当因果関係の充分な立証がなされることにより、業務災害による療養中の業務外傷病(昭和42年1月24日基収第1808号)や、過労死・自殺もその要因が、使用者の支配下によるものと認められた場合、業務災害として認定されうる。

特に残業時間と発病の関連性は認定基準として数字で明記され、労働時間の長さが重視されている。

脳・心臓疾患については、発症前1ヶ月に100時間を超える時間外労働、あるいは発症前2~6ヶ月間に月80時間を超える時間外労働があると、手待ち時間が多いなど労働密度が特に低い場合を除き、その業務と発症の関連性が強いと判断される(平成22年5月7日基発0507第3号)。

うつ病などの精神障害については、発病日から起算した直前の1ヶ月間におおむね160時間超える時間外労働を行った場合、またはこれに満たない期間にこれと同程度の時間外労働を行った場合には、手待ち時間が多いなど労働密度が特に低い場合を除き、当該極度の長時間労働に従事したことのみで心理的負荷の総合評価を「強」とする(業務による強い心理的負荷が認められる)。発症前2ヶ月間に月120時間以上の時間外労働を行った場合、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった場合等には、心理的負荷の総合評価を「強」とする。また心理的負荷の総合評価を「中」程度と判断される出来事の後に、発症前6ヶ月間に月100時間以上の時間外労働があると、心理的負荷の総合評価を「強」とする(平成23年12月26日基発1226第1号)。

上記の水準には至らないがこれに近い時間外労働に加え労働時間以外の負荷要因(拘束時間が長い業務、出張の多い業務、勤務間インターバルが短い業務、身体的負荷を伴う業務等)が認められる場合にはこれらを総合評価して労災認定を行う(令和3年9月14日基発第0914第1号)。

なお数字は目安であり、数字がわずかに基準に届かない場合であっても業務災害が認定されることはありうる。さらに数字が基準に届かないがために労働基準監督署で不認定となっても、裁判所が諸般の事情を考慮して認定するケースが相次いでいる。

いっぽう、労働者の積極的な私的・恣意的行為によって発生した事故の場合や、業務による危険性と認められないほどの特殊的・例外的要因により発生した事故の場合は、業務起因性が認められず、業務災害として認定されない。例えば、業務として強制されない(使用者の支配下にない)社外での懇親会(忘年会花見など)等は業務災害に含まれず、また懇親会場への行き帰りの際の事故等について、いかなる場合も通勤災害とはならない。また、一般には第三者の犯罪行為は除かれるが、第三者の犯罪行為であっても、業務または通勤に内在する危険が現実化したと評価される場合は対象となる。例えば、警備中の警備員が暴漢に殴られた場合などは対象となる。個人的私怨により、偶然職場や通勤途中で知人から殺されたような場合は業務に起因するものとはいえず対象外とされている。また戦争内乱なども同様である。

特別加入者(海外派遣者を除く)の場合は、業務等の範囲を確定させることが通常困難であることから、厚生労働省労働基準局長が定める基準によって認定を行う。具体的には、以下のような場合には業務遂行性は認められない。

事業主本来の業務を行う場合(株主総会や役員会への出席、銀行等に融資を受けるために赴く場合等)

建設業の一人親方が自宅の補修を行う場合

個人タクシー営業者が家族を一定場所まで送る場合

通勤災害の定義

労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡を通勤災害という(労働者災害補償保険法第7条1項2号)。通勤災害は、直接には使用者に補償責任はないが、勤務との関連が強いという判断の元、昭和48年の法改正により労災保険の適用が認められた。

通勤」とは、労働者が就業に関し以下に掲げる移動を合理的な経路及び方法により、往復することをいい、業務の性質を有するものを除く。
住居と就業場所との往復「住居」として、労働者が居住して日常生活の用に供している場所と認められれば、単身赴任先の住居が認められ、さらに反復性や継続性(おおむね月1回以上の往復行為又は移動がある場合。以下同じ)が認められれば単身赴任先と帰省先の双方が住居として認められうる。また、長時間残業・新規赴任・転勤等の勤務上の事情や、交通事情、自然現象等の不可抗力的な事情により一時的に通常の住所以外の場所に宿泊するような場合には、やむをえない事情で就業のために一時的に住居を移していると認められるので(昭和48年11月22日基発第644号)、ホテル病院、親族宅も住居として認められうる。逆に例えば、友人宅で麻雀をし、翌朝そこから直接出勤する場合等は、就業の拠点となっていないので、「住居」とは認められない。「往復」とは、不特定多数の者の通行を予定している場所での往復をいう。したがって住居の敷地内又は専有部分内は対象とならない。例として、通勤時の玄関先での転倒による負傷が私有地内での事故を理由に不支給とされたものがある。派遣労働者については、派遣元事業主または派遣先事業主の指揮命令により業務を開始し、または終了する場所が「就業の場所」となる。したがって、派遣労働者の住居と派遣元事業場または派遣先事業場との間の往復の行為は、一般に通勤となる(昭和61年6月30日基発383号)。

厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動「厚生労働省令で定める就業の場所」とは、適用事業・暫定適用事業に係る就業の場所、特別加入者(通勤災害が適用されない者を除く)に係る就業の場所、及びこれらに類する就業の場所をいう。具体的な「就業の場所」とは、本来の業務を行う場所のほか、得意先から直接帰宅する場合の当該得意先、全員参加で出勤扱いとなる会社主催の運動会会場などが該当する。外勤労働者で特定区域を担当し区域内の数カ所の用務先を受け持って自宅との間を往復している場合、最初の用務先が業務開始の場所で、最期の用務先が業務終了の場所となる。「他の就業の場所」(移動の終点となる就業の場所)は、労災保険の通勤災害保護制度の対象となる事業場に限る。これは、通勤災害に関する保険関係の処理は、終点たる事業場の保険関係で行うこととされるためである。「他の就業の場所」から「厚生労働省令で定める就業の場所」への移動は、必ずしも「通勤」に該当するとは限らない。

1.の往復に先行し、又は後続する住居間の移動であって所定の要件に該当するもの転勤に伴い、やむをえない事情により配偶者、子、要介護状態にある父母・親族等と別居することとなった場合に、帰省先への移動に反復性や継続性が認められれば、単身赴任先と帰省先との間の移動が通勤と認められうる(平成18年3月31日基発0331042号)。実態等を踏まえ、就業日当日の移動、あるいは出勤前日・退勤翌日の移動は就業との関連を認めて差し支えないが、前々日以前・翌々日以後に行われた移動は交通機関の状況の合理的理由がある場合に限り就業との関連を認められる。

「通勤による」とは、通勤と相当因果関係があること、すなわち、通勤に通常伴う危険が具体化したことをいう。具体的には、通勤の途中で自動車にひかれた場合、電車が急停車したため転倒して受傷した場合、駅の階段から転落した場合、歩行中にビルの建設現場から落下してきた物体によって負傷した場合、転倒したタンクローリーから流れ出す有害物質により急性中毒にかかった場合等は該当する。一方、自殺や、被災者の故意による場合、怨恨をもって喧嘩を仕掛けるといった行為は通勤に通常伴う危険とは認められない(平成18年3月31日基発0331042号)。

「就業に関し」とは、移動行為が業務に就くため又は業務が終わったために行われるものであることをいう。所定の就業日に所定の就業場所で作業を行うことはもちろん、本来の業務でなくても全職員に参加が命じられ出勤扱いとなる会社主催の行事に参加する場合、事業主の命を受け得意先を接待する場合等も該当する。また、所定の就業時刻をめどに住居を出て就業場所に向かう場合はもちろん、早出、遅刻、早退、一時帰宅の場合でも対象となるが、私生活上の必要等で往復した場合は対象とならない。また労働組合活動等で、就業と通勤との関連性を失わせると認められるほど長時間(おおむね2時間超)の早出勤・遅退社も対象とならない。なお、日々雇用される者については、継続して同一の事業に就業しているような場合は、就業することが確実であり、その際の出勤は就業との関連が認められるし、また公共職業安定所等でその日の紹介を受けた後に紹介先へ向かう場合で、その場所で就業することが見込まれるときも、就業との関連を認めることができる。しかし公共職業安定所等でその日の紹介を受けるために住居から公共職業安定所等まで行く行為は、いまだ就職できるかどうか確実でない段階であるから、就業のための出勤行為であると言えない。

「合理的な経路及び方法」とは、社会通念上一般に通行するであろう経路、是認されるであろう手段をいう。会社に申請している通勤方法と異なる通勤方法であっても、それが通常の労働者が用いる方法であれば問題はない。通常利用することが考えられる経路が二、三ある場合は、そのいずれもが「合理的な経路」となる。他に子を監護する者のいない共稼ぎ労働者が託児所、親戚宅等へ子を預けるためにとる経路などは、そのような立場の労働者であれば当然就業のためにとらざるを得ない経路であるから、「合理的な経路」となる。一方、特段の合理的な理由のない著しい遠回りは「合理的な経路」とはならない。また経路は手段と併せて合理的なものであることを要し、交通禁止区域の通行、自動車運転免許を一度も取得したことのない者の自動車の運転、泥酔した状態での自動車の運転は「合理的」とは認められない。飲酒運転や、単なる免許証不携帯、免許証更新忘れ等による無免許運転は必ずしも合理性を欠くものとして取り扱う必要はないが、この場合においては諸般の事情を勘案し給付の支給制限が行われることは当然である(平成18年3月31日基発0331042号)。

なお、通勤経路の途中で通勤とは関係ない目的で合理的な経路を逸れた(「逸脱」)場合や、通勤とは関係のない行為を行った(「中断」)場合は、ささいな行為を行うにすぎない場合(トイレ、休憩、ごく短時間の飲食等)を除き、その時点で通勤とは認められなくなる(「逸脱・中断」から合理的経路・手段に戻ったとしても認められない)。ただし、逸脱・中断が日常生活上必要な行為で厚生労働省令に定められているものである場合又はやむをえない事由により行うための最小限度のものである場合は、逸脱・中断の「後」について通勤災害として認められうる。なお、逸脱・中断の「間」における事故は、いかなる場合でも通勤災害にならない。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:73 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef