これら以外の事業であっても内閣総理大臣は、国会の承認を経て、業務の停廃が国民経済を著しく阻害し、又は公衆の日常生活を著しく危くする事業を、1年以内の期間を限り、公益事業として指定することができる(第8条2項)。内閣総理大臣は、第2項の規定によって公益事業の指定をしたときは、遅滞なくその旨を、官報に告示するの外、新聞、ラジオ等適宜の方法により、公表しなければならない(第8条3項)。第8条に列挙された公益事業を営むものであってその業務中公衆の日常生活に欠くことのできない部分とそうでない部分とが区別することができない場合は、その両部分を合わせたものを公益事業として取扱って差支えないが、乗合自動車事業で一般公衆バスと遊覧バスを兼営して従業員を両職場に交替勤務させているような場合には、両部分を分けることができるものと解する。第8条の公益事業には、その事業に附帯していてもいなくても、その業務を行うのに欠くことのできない修理保全の業務を含むものである(昭和22年5月15日労発第263号)。港湾運送業は、本来の公益事業たる運輸事業及び小運送業と一体をなすもののみが公益事業と認められる。小運送業(小運送業法に依るもの)は公益事業である(昭和22年2月6日労発第53号)。 本法は、労働関係の当事者が、直接の協議や団体交渉によって、労働条件その他労働関係に関する事項を定め、又は労働関係に関する主張の不一致を調整することを妨げるものでないとともに、又、労働関係の当事者が、かかる努力をする責務を免除するものではない(第4条)。また、労働関係の当事者は、互に労働関係を適正化するように、労働協約中に、常に労働関係の調整を図るための正規の機関の設置及びその運営に関する事項を定めるように、かつ労働争議が発生したときは、誠意をもって自主的にこれを解決するように、特に努力しなければならない(第2条)。政府は、労働関係に関する主張が一致しない場合に、労働関係の当事者が、これを自主的に調整することに対し助力を与え、これによって争議行為をできるだけ防止することに努めなければならない(第3条)。 この法律によって労働関係の調整をなす場合には、当事者及び労働委員会その他の関係機関は、できるだけ適宜の方法を講じて、事件の迅速な処理を図らなければならない(第5条)。 争議行為が発生したときは、その当事者は、直ちにその旨を労働委員会又は都道府県知事に届け出なければならない(第9条)。 公益事業に関する事件につき関係当事者が争議行為をするには、その争議行為をしようとする日の少なくとも10日前までに、労働委員会及び厚生労働大臣又は都道府県知事にその旨を通知しなければならない(第37条1項)。この通知は、争議行為をなす日時及び場所並びにその争議行為の概要を記載した文書によってなさなければならない(施行令第10条の4第3項)。 工場事業場における安全保持の施設の正常な維持又は運行を停廃し、又はこれを妨げる行為は、争議行為としてでもこれをなすことはできない(第36条)。
義務・努力義務・制限
本法による労働関係の調整は第2条?第4条に於て明らかな如く関係当事者の自主的努力によって之をなすことを本旨とし、政府及本法の諸措置はかかる努力に対して援助を与えようとするものであるから、本法の運用に当っては、これらの根本精神に基き、本法の活用を奨励しても、苟も弾圧干渉等に亘ることのないよう、当事者が本法による諸措置に頼って自主的努力を怠ることのないよう充分配慮すること(昭和21年10月14日厚生省発労第44号)。
本法の運用に当っては、事の性質上、迅速処理を図ることが重要であるので、関係機関に於ては、文書の形式等些細な事項に拘泥することなく専ら実質に重きを置き、第5条の精神を充分に活かすよう、特に末端機関に此の趣旨を徹底せしめること(昭和21年10月14日厚生省発労第44号)。
争議行為の届出・通知
第9条の労働委員会又は行政官庁は争議行為届出受理簿を備え付け、関係当事者よりの届出又は関係機関よりの報告又は通知があったときは、直ちに之を記入し整理して置くこと。争議行為を伴わない場合であっても、管下の労働争議全般につき常に的確なる情報の把握蒐集に努め、上級官庁に対する行政官庁の情報は迅速的確に且つ出来るだけ具体的に之を為すこと。特に第8条の公益事業及び第18条1項5号の公益事業に準ずる事業については、国民の日常生活に対する影響極めて大であり、実情によっては、強制調停に出づる必要もある訳であるので、その労働関係の動向については常に的確なる把握に努力すること。この受理簿には少くとも左記事項を記載すること(昭和21年10月14日厚生省発労第44号)。
届出受理年月日
争議行為発生年月日
当事者名
事業の種類
争議行為発生の事業場名及所在地
参加人員
争議行為の種類
昭和27年の改正により、公益事業に関する争議行為については、従来の所謂冷却期間制度(調停前置を含む30日間)が廃止され、予告制度に置き替えられたのであるが、これは、公益事業については抜打ストを禁じて、公衆の利益を保護せんとするものであり、争議行為の予告は、公衆に周知されなければならない。かかる見地から、その通知については、政令において、文書によって行うこととし、その文書には争議行為をなす日時及び場所並びにその争議行為の概要を記載しなければならないこととしているから、この点労働組合に十分周知徹底せしめられたい。通知があったときは、厚生労働大臣又は都道府県知事は、公衆に対し、いつ、どこで、いかなる争議行為が行われるか明瞭にわかるような方法で公表しなければならない(昭和27年8月1日労発第133号)。厚生労働大臣のなすべき公表は、平成28年1月4日からは従来行ってきた官報告示を廃止し、原則として厚生労働省公式ウェブサイトにおいて行うこととする。ただし、争議行為の規模及び公衆への影響度を勘案して、記者会見・記者発表、新聞広告、テレビ・ラジオ放送(広告を含む)等の方法を併用することがある(昭和27年9月15日労発第167号、平成27年12月18日政労発1218第1号)。
第37条の通知は、その争議行為が一の都道府県の区域内のみに係るものであるときは、当該都道府県の都道府県労働委員会及び都道府県知事の双方に対してなし、その争議行為が二以上の都道府県にわたるものであるとき、又は全国的に重要な問題に係るものであるときは、中央労働委員会及び厚生労働大臣の双方に対してなさなければならない(施行令第10条の4第1項)。いずれか一方に通知しただけでは、通知があったことにはならない。通知は、「争議行為をしようとする日の少なくとも10日前までに」しなければならない。この期間計算については、民法に定める期間の計算方法による。したがって通知があった日及び争議行為をなす日はこれを算入せず満10日間を間に挟んでいなければならない。例えば10月15日に同盟罷業をやる場合には、10月4日までにその旨の通知がなされていなければならないことになる。通知があった日には、通知をなすべき相手方に通知の文書が到達した日であって、当事者が文書を発送した日ではない(昭和27年9月15日労発第167号)。
通知には、事件、争議行為をしようとする日時、場所及びその争議行為の概要が明らかにされなければならない(昭和27年9月15日労発第167号)。
事件 - 第37条には「公益事業に関する事件につき関係当事者が争議行為をするには・・・・」とあるから、何の事件についての争議行為の通知であるかが明確にされなければならない。したがって、その通知に係る争議行為の目的その他によってどの事件であるかが明らかにされる必要がある。例えば、賃金問題について争議行為の通知をした後について、その問題についてでなく、他の問題、例えば解雇問題で争議行為をしようとする場合には、別個の事件についての争議行為であるから、改めて解雇問題について争議行為をなす旨の通知をなさなければならない。
日時 - 日時についてはできるだけ具体的に、できれば「何月何日何時から何月何日何時まで」というように記載すべきである。しかしながら10日以上前に通知するのであるから、確定的なことは記載できないこともあろうが、その場合にも「何月何日何時から何時まで、ただし状況いかんによっては何月何日何時から何時までに変更することもある。」とか「何月何日以降何月何日までの間において何時間ストを行う」というように、できる限り具体的に記載するのが至当である。要するに、公衆がいつ争議行為が行われる予定であるかを判断し得ることが目的であるから、事情の許す限り明確にすべきである。
場所 - 争議行為の通知は、公衆にその争議行為によって受ける影響を知らせることが趣旨であるから、争議行為の場所は、例えば私鉄でいえば、何々鉄道の何々線というように記載するのが至当である。10日前に争議行為を行う事業場が具体的になっていない場合でも、一応「全事業場」を通知しておくというのではなく、大体予想し得る事業場を挙げ、かつ、変更される可能性がある場合には、これを書き加えるようにできる限り具体的にしておくことが至当である。
概要 - 争議行為の種類、規模等を1.、2.との関連において通知するわけである。例えば同盟罷業を行うのか、怠業を行うのかというような争議行為の種類、どの程度の規模で行われるかについて明らかにし、その他の事項についても、それによって公衆が当該争議行為による被害を具体的に知り得るように記載することが至当である。10日前にまだ具体的に明確に定めていないときでも、できる限り具体的に記載するようにすべきことは、日時、場所の場合と同様である。
公益事業において使用者がロックアウトをする場合にも予告は必要である。ロックアウトがすでに第37条の予告にもとづいてなされた争議行為に対抗するためになされる場合であっても、使用者は改めて予告を行う必要がある(昭和41年5月23日労働法規課長内翰)。
第36条に規定する争議行為の禁止は、人命保護を目的としたもので、安全保持の施設の関係労働者の組合加入や労働争議に参加することを禁止するものではない(昭和23年12月7日労発535号)。
第36条にいう「安全保持の施設」とは、一般に人命に対する危害予防若しくは衛生上必要な施設をいうものと解されるが、如何なる施設がこれに該当するかは、当該事業場の具体的事情によって判断されるものである。因より第36条に該当しないものはすべて正当な争議手段とされるという訳のものでないことは当然であって、争議手段の正当、不当は、結局健全な社会通念に従って判断されるべきであり、第36条の規定は、健全な社会通念に照して正当ならざる争議手段のうち、顕著な一例を示した趣旨と考えられる(昭和30年8月31日労収第1517号)。