劣性遺伝
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AAとaaの相対適応度の差をsとすると以下の表のように表せる[8]

遺伝子型AAAaaa
相対適応度11-hs1-s

hは顕性の程度を表すパラメーターである。顕性の度合いはhの大小によって以下のように区分される。

h=0A 顕性、a 潜性
h=1A 潜性、a 顕性
0<h<1部分顕性、不完全顕性
h=1/2半顕性、共顕性
h<0超顕性
h>1負の超顕性

h=1/2のときは遺伝子の効果が相加的な場合であり半顕性(または共顕性)という。h<0のときはヘテロ接合が最も高い適応度を示し超顕性と呼ぶ。逆にh>1のときはヘテロ接合が最も低い適応度となる負の超顕性である。
量的遺伝学における顕性

量的遺伝学では、遺伝子の効果が相加的な場合を基準とし、そこからのずれを顕性の効果と考える。例えば、イネの収穫量を決めるAとaの対立遺伝子があり、AA>Aa>aaのようにAが増えるほど収穫量が増えるとする。相加的な場合はAが1つ増えるにつれて同じ分だけ収穫量が増える(図Lの直線上の点)。顕性の効果がある場合、Aとaの関係は直線から外れる(図の黒丸)。量的な形質では通常、単一座位だけでなく、多くの座位の効果が累積する。ただし顕性の効果は、座位間の相互作用については考慮しない。座位間の相互作用の効果はエピスタシスと呼ぶ。
異なる遺伝子座の上下関係詳細は「エピスタシス」を参照

顕性は、1つの遺伝子座の対立遺伝子の相互作用によって起きる。これに対して、異なる遺伝子座の対立遺伝子の相互作用をエピスタシス(上位性、epistasis)という。

例えば、ペポカボチャの色には2つの遺伝子座が関与している。1組目の対立遺伝子では黄色(A-)が顕性で、緑色(aa)が潜性である。2組目の対立遺伝子では白色(B-)が顕性となり、潜性(bb)の場合はもう一方の遺伝子座にしたがって黄色か緑色になる[9]。このとき2組目の白色の遺伝子が、1組目の遺伝子の効果を覆い隠している。これを顕性上位(dominant epistasis)と呼ぶ[9]
パネットの方形

パネットの方形(パネットスクエア、: Punnett square)は、遺伝子型の明らかな個体間の交雑で(突然変異を除いて)生じうる子の遺伝子型を以下のような図式で表現したものである[10]。1遺伝子雑種の例として、顕性遺伝子のホモ接合体AAと潜性遺伝子のホモ接合体aaを初代として交雑させるとすると、次のように遺伝する。

1代目から2代目への遺伝aa
AAaAa
AAaAa

2代目から3代目への遺伝Aa
AAAAa
aAaaa

2代目は全て、遺伝型はヘテロAaで表現型は顕性形質となる。3代目からは顕性遺伝子Aを持たないものが出てくるため、潜性形質が現れる。

また、(異なる染色体上の)2遺伝子雑種についても同様の図で表すことができる。形質αを決定する顕性遺伝子A、潜性遺伝子a、形質βを決定する顕性遺伝子B、潜性遺伝子bとすると、各遺伝子を1つずつ持つ個体同士の交雑についてのパネットの方形は以下の通りである。

ABAbaBab
ABAABBAABbAaBBAaBb
AbAABbAAbbAaBbAabb
aBAaBBAaBbaaBBaaBb
abAaBbAabbaaBbaabb

このときの表現型 (α,β) の比は (顕性,顕性):(顕性,潜性):(潜性,顕性):(潜性,潜性) = 9:3:3:1 である。
ヒトの例

単一遺伝子の顕性潜性で決定づけられる典型的な形質は、単一遺伝子疾患である。例を挙げると、顕性遺伝には多発性嚢胞腎、潜性遺伝にはテイ=サックス病がある。

外見で判断できるヒトの一般的な形質のほとんどは、1つの遺伝子座の顕性・潜性では決まらず[11]、複数の遺伝子座や環境が関わる複雑な遺伝形式をとる。単一の遺伝子で決まる数少ない例として、耳垢が湿っているか乾いているかを決める遺伝子がある[12]。耳垢が湿っている方が顕性、乾いている方が潜性である[12]

ヒトの形質が単純な遺伝で決まるという神話が多数流布している[11]。例えば親指が反る・反らない[13]、舌を巻ける・巻けない[14]つむじが右巻き・左巻き[15]、といった形質が単一遺伝子の顕性劣性で決まるとする説があるが、実際にはそのような単純な遺伝形式ではない。髪の色虹彩の色、一重/二重まぶた[16]に関しても同様に単純な遺伝形式ではない。
脚注[脚注の使い方]
注釈^ 例えば、以下の教科書には全てメンデルの法則として「分離の法則」「独立の法則」と記されているが、顕性に関しては「法則」とは書かれていない。

「キャンベル生物学」(2007年)

「遺伝学概説」(1991年)

「ハートウェル遺伝学」(2010年)

「アメリカ版 大学生物学の教科書 分子遺伝学」(2010年)

「遺伝学」(2005年)

^ 「顕性の法則」を法則と呼ぶことの問題点は他にもある。1組の対立遺伝子がある形質に完全顕性を示しても、別の形質に対してはそうとは限らない。例えば豆の丸とシワを決める対立遺伝子は、その遺伝子が生産する酵素の量に注目すれば完全顕性にはなっていない。

出典^ 「「優性」「劣性」用語使わず 日本遺伝学会が言い換え」『日本経済新聞』、2017年9月15日。2020年7月28日閲覧。
^ 「中学理科「優性・劣性」から「顕性・潜性」に。遺伝の用語、2021年度から一斉変更」『ハフポスト』、2021年4月20日。2021年10月3日閲覧。
^ a b ジャン・ドゥーシュ 2015, p. 58.
^ 中村運 2003, p. 41.
^ 武部啓 1993, p. 5.
^ 渡邉淳 2017.
^ Goh 2010.
^ 安田徳一 2007, p. 88.
^ a b Hartwell 2010, p. 60.
^ Urry et al. 2018, pp. 313?316, 1593.
^ a b McDonald, John H (2012-10-29). ⇒“Introduction to the myths”. Myths of Human Genetics (University of Delaware). ⇒http://udel.edu/~mcdonald/mythintro.html 2020年7月29日閲覧。. 
^ a b McDonald, John H (2013-09-16). ⇒“Earwax type”. Myths of Human Genetics (University of Delaware). ⇒http://udel.edu/~mcdonald/mythearwax.html 2020年7月29日閲覧。. 
^ McDonald, John H (2011-12-08). ⇒“Hitchhiker's thumb”. Myths of Human Genetics (University of Delaware). ⇒http://udel.edu/~mcdonald/myththumb.html 2020年7月29日閲覧。. 
^ McDonald, John H (2011-12-08). ⇒“Tongue-rolling”. Myths of Human Genetics (University of Delaware). ⇒http://udel.edu/~mcdonald/mythtongueroll.html 2020年7月29日閲覧。. 
^ McDonald, John H (2011-12-08). ⇒“Hair whorl”. Myths of Human Genetics (University of Delaware). ⇒http://udel.edu/~mcdonald/mythhairwhorl.html 2020年7月29日閲覧。


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