劇場
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舞台の延長として観客席を貫く「花道」は、役者主義の演劇でありサービス精神旺盛な歌舞伎にとって重要な装置であり、大坂では承応前期までに見られ、江戸でも延宝5年に創設され[4]、独特の発達をとげた。花道は舞台の下手(客席から舞台に向って左側)よりに設けられ、演目によっては上手側にも「仮花道」が設けられるようになった。花道の客席側の突き当たりには「鳥屋(とや)」と呼ばれる小部屋があり、ここから役者がチャリンといった独特の音をたてて開く「揚幕(あげまく)」をくぐって花道へ出入する。

舞台中央には、舞台の一部を回転させて場面転換を容易にし、かつそれを見せ場にすることが可能な廻り舞台が設けられている。廻り舞台はその形状から「盆」とも呼ばれ、歌舞伎を発祥とする日本発の舞台機構である。

舞台にはまた「迫り(せり)」と呼ばれる昇降装置が何か所かに設けられている。迫りには大道具を上下させる「大迫り(おおぜり)」と役者を上下させる「小迫り(こぜり)」があり、いずれも人力で昇降させていた。また迫りはその位置によって「前迫り」「中迫り」などと呼ばれる。後代になると複数の大迫り・小迫りが廻り舞台の中に設けられたり、大迫りを分割して昇降させることが可能になったりして、舞台機構は飛躍的に複雑なものとなった[5]。また花道の舞台寄り七三には人が一人入れるほどの小迫りが設けられているが、これが「すっぽん」と呼ばれる、妖怪変化の役どころの不気味な出の演出には欠かせない装置である。

これら「廻り舞台」「迫り」のほか、能舞台の破風の名残りの「大臣柱の撤去」「宙乗り」はいずれも大坂・道頓堀にて並木正三(なみきしょうざ)により考案・実演された。[4]

この他、「鳴り物」と呼ばれる音曲や効果音の奏者たちが位置する「黒御簾(くろみす)」あるいは「下座(げざ)」と呼ばれる小部屋があり、下座の2階部分も義太夫節が奏でられる小部屋になっている場合もある。

舞台の最前面には「定式幕」と呼ばれる引き幕がある。かつて定式幕は江戸三座でそれぞれ異なるものを使用していた。現在、かつて中村座が使った「黒・柿色・白」の定式幕は平成中村座が、かつて市村座が使った「黒・柿色・萌葱」の定式幕は国立劇場が、そしてかつて森田座(守田座)が使った「萌葱・柿色・黒」の定式幕は歌舞伎座が、それぞれ踏襲して使用している。三代目歌川豊国 画『踊形容江戸繪榮』(おどり けいよう えどえの さかえ)

芝居小屋の内部は時を経るにつれて飛躍的な発達を遂げる。左の錦絵猿若町に移転後の安政年間(1854?1859年)の市村座を大判三枚続物で描いたもので、そこには枡席で仕切られた中央の「平土間(ひらどま)」[6]、花道・仮花道で区切られたその両側には一段高くなった「高土間(たかどま)」[7]、さらにその外側の格子の奥には「鶉(うずら)」[8]、そしてその上に場内をコの字に囲む2階席の「桟敷(さじき)」が見える。舞台から最も遠くに位置する2階正面の桟敷(この錦絵の視点)は特に「向桟敷(むこうさじき)」[9]と呼ばれた。そこに陣取って舞台に掛け声をかける常連客が大向うである。さらに舞台下手奧(この錦絵の左の継ぎ目あたり)にも客席が設けられ、その1階部分を「羅漢台(らかんだい)」[10]、2階部分を「吉野(よしの)」[11]といった。
プロセニアム型チェスキー・クルムロフ城にあるバロック劇場の舞台

プロセニアム・シアターと呼ばれるこの形式の劇場では、舞台と客席とがプロセニアムまたはプロセニアム・アーチと呼ばれる額縁状の構造物によって明確に区切られている。額縁部分には、装飾を施してある場合がしばしば見受けられる。プロセニアムのあるラインには、緞帳と呼ばれる大きな化粧幕を上げ下ろし出来るようになっていることがある。

典型的なプロセニアム・シアターでは、観客はプロセニアムに対して正面を向くように設置された座席に腰掛け、観劇する。開幕の言葉通り、劇の始まりと終わりや途中休憩の際には緞帳が開閉するが、演目や演出によっては全く緞帳を使わない場合もある。この形式はリヒャルト・ワーグナーによるバイロイト祝祭劇場によって完成され、18世紀以降、市民社会の発展と共に広まっていき、現在最も一般的な劇場スタイルとして認知されるに至った。

収容人数は劇場の大きさによってかなり異なる。

舞台の両端は、大道具を隠すことが可能なスペースが確保されている。また舞台の天井は、バトンと呼ばれる棒が何本も渡されており、舞台外から手動もしくは電動で上げ下げできるようになっている。これらの機構を活かした、スペクタクルな舞台演出が可能なのも、このような舞台構造の特徴と言える。

舞台となる領域が額縁で区切られているため、舞台の内側と外側を明確に分けてしまう。そのため、観客との間に心理的な距離が生まれてしまうことがある。これを解消する目的や、演出上の目的のために、舞台前面に仮設の舞台を付け足す場合がある。これを張り出し舞台、もしくは単に張り出しと呼ぶ。
張り出し舞台型

このタイプは、舞台が観客席に向かって突き出し、複数の方向から観客が舞台を囲う形式の劇場である。歴史は古く、古代ギリシアの劇場や、シェイクスピアが現役で活躍していた英国エリザベス朝の演劇なども、このような劇場で上演されていた。広義には、能舞台や、花道のある歌舞伎の劇場もこれ含まれる。

舞台が観客席に進出していることで、観客と俳優の心理的・物理的距離を縮め、舞台上の出来事をより身近に感じさせる効果がある。西欧における張り出し舞台の劇場では、観客席が急斜面になっていることが多い。これは、劇場内のどの客席にいても、俳優への距離を近く感じられるような効果を狙ってのものである。

収容人数は劇場の大きさによってかなり異なるが、あまり大きくなってしまうと、最後列の観客は舞台との一体感を損なうことになり、この形状であることの利点を失ってしまう。よって、100人以下から1000人規模程度までの劇場が多い。

またストリップ劇場には、デベソと呼ばれる張り出し舞台が組まれていることが多い。

欧米での代表的な張り出し型舞台の劇場には、アメリカ合衆国ミネソタ州ミネアポリスの、タイロン・ガスリー劇場などがある。同劇場は七方から舞台を囲う構造になっている。
アリーナ型「アリーナ」も参照

観客が舞台を囲むこのタイプの劇場は、ヴィンヤード型コンサートホールと呼ばれ、クラシック専用のコンサートホールでよく見られる。客席を舞台の奥に用意することで、観客は指揮者の指揮を楽しむことが出来る。構造上、舞台上にはあまり込み入った機構を組み込むことができない。また、大がかりな舞台装置を設置するのにも通常はあまり向いていないとされる。逆に言えば、コストを抑えた舞台製作が可能な形式である。日本におけるヴィンヤード型コンサートホールの代表的なものとして、サントリーホール大ホールやミューザ川崎シンフォニーホールなどがある。


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