日本の教育界では貨殖や金儲けを卑しむ道徳観によって、子供にお金について教えることを忌避する風潮があった[5]。また、日本の学生は「寄らば大樹の陰」意識により生涯にわたり企業や官公庁に雇用されること (「就社」とも言われる ) を希望する者が多く、米国や台湾と比較すると起業を目指す若者が少ない。資金調達が主に銀行などの間接金融が中心であったり、経験のない個人には資金の調達が難しかったり、大量資本のために借金して経営に失敗すると個人として多額の借金を負う社会環境があること等に原因があるともいわれるが、起業家(アントレプレナー)があらわれなければ、制度的、経営的に起業容易な社会環境が整えられたとしても、起業が活発になることはない[11]。
日本の学校教育では、戦中の旧国民学校高等科、さらに戦後しばらくの間、義務教育(中学校)の課程において職業教育(実業教育)が行われていた時期もあった(戦前は実業科、戦後は職業科という教科)。しかし、旧文部省は義務教育における実業教育を課程から削除したため、実業教育は、職業高等学校や実業学科を置く一部の大学のみに委ねられることとなり、起業を含めた実業に関する理解を深める機会がほとんど無いまま社会に出される若者が大量に現れるようになった。
この現状に対して、起業家教育を再び行われる動きが生まれた。1980年代「起業家育成」は主に企業内で取り組まれており、「社内起業家育成」と表現された[12]。しかし、2000年代あたりから「社内起業家育成」ではなく「学内起業家育成」という表現が生まれ、起業は大学の役割のひとつであるという認識が現れた[12]。この認識を受けて、大学内に起業家育成の発想が入り込み、大学院生や学部生、さらに初等中等教育にも起業家育成が広まった[12]。なお、教育界における起業家育成は「起業家教育」と表現される[12]。
起業に関する講座を開設したり、アントレプレナーコース(起業家養成コース) などの専門課程を大学院に開設する大学も出ている。文部科学省の調査によれば、起業家育成のための授業を新たに開設した大学は、国立30大学、公立12大学、私立97大学が数えられており、開設講座数は合計で330科目 になっており、今後の教育成果に期待される[13]。また、九州大学では、大学公認部活動として「起業部」があり、2018年1月には部員が実際に会社を設立した[14]。
脚注[脚注の使い方]
注釈^ 財団法人ベンチャーエンタープライズセンターの定義による。
^ 日本商工会議所による「創業塾」、地方公共団体主催による起業セミナー、その他民間主催の起業向けの講習などがある。
出典^ a b c d e f g h i “ベンチャー有識者会議とりまとめ