[Wikipedia|▼Menu]
中世ヨーロッパにおける両刃の剣(そのレプリカ)インドタルワール / 1806年のもの。19世紀フランス海軍将校用サーベル

剣による戦闘(白兵戦)では、相手も剣を備えて攻撃に用いるため、これを防ぐ防具としての側面があり、この戦闘で手を守る機能を備える剣も多い。剣は個人対個人が戦う上では、基本的な装備の1つとなる。しかし、刀剣類のうちでも両手剣は扱いに腕力と技術を必要とした[22]。白兵戦のうちでも携帯性に優れた刀剣は主に他の武器の補助として使い[23]、相手に対し距離を置いて対処できる槍や弓矢などが使えず[23]、槍などの長柄武器が壊れた際の護身用[23]や敵味方が入り乱れる長柄武器が使いづらい乱戦で槍などを捨てて護身用に利用された[23]。しかし、世界的に見てあまり一般的ではなかったとされるものの刀剣を主武器とする兵科はあった[24][25]

前近代の戦争において槍や弓を主武器とする場合も、刀剣を帯び、乱戦になってそれを抜いて戦うことはよくある光景であった[26][27][28]

古代においては、古王国、中王国時代のエジプト人とギリシア人は剣を完全な補助武器とみなしていたが、ローマ人とケルト人は剣を武器として重要視していた[29][30][31]。新王国時代になってからエジプト人は剣と兜と鎧を重視するようになった[32]。サブウェポンとしても、ギリシア人は斧や棍棒といった武器を蛮族視しているのみならず、その後のヨーロッパのファランクスなどの槍を中心とした密集隊形の中ではそれらの武器が使いづらかったことから剣の方が主流であった[33]ローマ人も斧や棍棒を蛮族視しており、ローマの密集隊形では槍や長剣といった長い武器が乱戦で使いづらかったがために小振りな剣であるグラディウスが主力武器であった[34]

白兵戦を好む中世の騎士の戦いにおいては乱戦になることがほとんどであり、その場合の武器は槍やランスではなく、剣や斧、メイスなどであった[35]

こと中世から近世の戦争で、一般から招集される民兵は補助的武器のものであり、歩兵はまずを基本的な戦闘単位として考え、これらの補助として剣を装備していた。ただ人類の歴史で、有史以降いずれの国家でも戦争に対する備えとして平時より生産と保有が行われたことから、弓や斧に比べ扱い易い[15]剣にも一定の信頼性が保たれていたことがうかがえる。

日本では打刀の原型・初見は12世紀初頭から見られ、当時は短く「刺刀(さすが)」とも呼ばれていた。南北朝時代に長大な刀剣が流行するに従い、刺刀も大型化し打刀や脇差になったとされる。

南北朝時代あたりまでは短刀と同じく平造りが主流であったが、それ以降は太刀と同じ鎬造りとなる。刃渡りは室町時代前半までは約40cmから50cmであり、室町時代後半からは60cm以上の長寸のものが現れだした[36]。それと同時に打刀と短めの打刀(脇差)の同時携帯が身分・階層問わず流行し、帯刀が身分不問で成人男子の象徴になっていった[37]

ただし、戦国時代に代表される乱世の頃の剣と、後世や平時での護身用の剣との間には明確な隔たりが存在する。前者は切れ味よりも耐久性が求められ、ここに前述の鈍器としての剣や、あるいは腰に吊って日常的に持ち歩くことを前提としないことから肉厚で重量のある剣が利用され、また装飾などの意匠性を求められることも少なかった。後世の剣は対人でも一人ないし数人を傷付けひるませたり撃退することができれば用を成したのとは異なる。こういった変化は、日本刀でも戦国時代のものと後世のそれとで明確な差異も見られる。また、西欧でもショートソードのような歩兵装備としての剣や扱いに技能を必要とするツーハンデッドソード(双手剣)などが戦争に使われた。大半の歩兵用の剣は扱いやすいものであったが、両手剣の使用には腕力と技術を要した[38]。しかし、火器の発達と共に戦場での活躍は少なくなってゆき、次第に装飾的、象徴的な用途で扱うのみになっていった。同時に実用的な剣術も多くの指南書を残しながらも人々の記憶から消えていった。中世暗黒時代の間、剣は重要な武器であり、北欧では特にその傾向が強かった[39]。暗黒時代のアングロサクソン人やフランク人にとって剣と鎖帷子は高価で富裕な者にしか手に入らない武装であり、一般の兵士は槍や斧、スクラマサクスという鉈などで代用していた[40]。だが、ヴァイキングにとっては剣と鎖帷子は広く普及していた[41][42]。10?15世紀の中世盛期後期ヨーロッパにおいては鎧の発達により、剣や槍ではダメージを与えづらくなり、メイスなどの打撃武器の需要が高まっていった[43]。それでも10?12世紀の鎖帷子を主な防具とした時代ならば剣で斬れなくとも叩き付けることによりかなりの打撲傷を負わせられたが[44]、13世紀以降は板金鎧の発達により、剣などの斬撃もメイスなどの打撃も重装甲の敵にはほとんど通用しなくなり、ダガーなどによる刺突が有効となったが、軽装備の敵には打撃と刺突が有効で、鎧なしの敵には斬撃も打撃も刺突も有効だった[45]。剣は武器として優れていたが、当時の鉄や特に鋼鉄が希少価値を持っていたがために中々手に入らない武器でもあった[46]。中世の鋳造技術は低かったために、戦いに参加すれば剣は簡単に折れてしまい、当時作られた剣で現代に完全な形で残っている物がほとんどないのは、使っているうちに折れてしまい、短剣として作り直されたからであり、ダガーと呼ばれる先の尖った両刃短剣が普及したのもこの頃である[46]。騎士は14世紀になるまでは短剣をあまり使用しなかったが、全身板金鎧の普及に伴い、鎧の隙間から突き刺すために多用するようになった[47]。騎士はメイスを非常によく使用したが、頑丈な甲冑を着ている敵に衝撃で中身にダメージを与えられるメイスは、なまくらな剣よりもよほど役にたった[48]。剣は鎧にそれほど効果がないが、携帯性が高く、身分の象徴となるため、予備の武器や飾りとして馬上の騎士に携帯されていた[49]。また、騎士にも多々使われたが、安価なファルシオンやメッサーといった鉈は兵士には特に好まれていた[50]。貫通力の高い細長い槍身を持った短槍アールシェピースや同じく貫通力の高いロングソードの一種であるエストックも鎧の隙間を貫くために中世ではかなり一般的であった[16]。中世の剣は重く鈍器に近いものであったとよく言われるが、剣というよりも武器全般ができる限り軽量に作られていた。それは戦闘で重い武器は態勢が立て直しにくく、不利になり、疲れやすくなるので軽量の武器が好まれ、多く作られた[51]。しかし、それでも中世西欧の直剣は中世の東欧や北アフリカや東洋の湾曲した曲剣よりは重く、敵を鎧もろとも叩き斬ったり、殴って衝撃を与えて降伏させることができ[18]、斧やメイスなどの打撃武器の方が効果的ではあったが、直剣もまた騎士や騎兵に好んで使用される武器の一つではあった[52][53]。それに対し、イスラム教徒などが好んだ直剣よりも軽い曲剣は鎖帷子の騎士より防備の軽い兵士など軽装備の敵を素早く攻撃するのに適していた[54]。インドからアフリカは熱いため、鎧があまり発達しなかった面もあり、切れ味の鋭い曲刀が多い[55]。中東では防具の重装化が速かったために古代から斧とメイスとウォーピックが好まれたが[56][57]、中世の中東の兵は騎士の重い鎖帷子よりも軽い鎖帷子で武装した軽騎兵と重騎兵が中心となっていた[58][59]。中世の騎士や兵士にとって剣は主に補助武器として重要であった[60]。鎖帷子ならばジャストミートすれば剣で断ち切ることはでき、刃こぼれすれば今度は殴り倒すこととなった[61]。時代が進むにつれ、剣が一般的なサブウェポンとなっていったが、冶金術の進歩により、長い剣身を長持ちさせることは難しいことではなくなり、同時に高価でもなくなっていき、万能ではないが、持ち運びのしやすさを考えれば申し分のない武器となった[62]

剣は板金鎧の時代には主に軽装の弓兵に斬りつけるのに用いられたが、全身装甲の騎士に対しても脇の下がむき出しになっていたり、面頬が上がっている場合には剣の切っ先も有効であった[63]。はっきり増えたのはメイスやハンマーといった打撃武器、そして力のこもった一撃を与えるために両手で振るえる長柄斧といった長柄武器であった[63]

しかし、鎖帷子の上にコートオブプレートを着込んだスタイル、およびプレートアーマーの重装備には斬撃だけではなく、打撃もほぼ通用せず、刺突が有効だとする説もある[45]

また、片手剣とバックラーのコンビは、中世で最も一般的な武装だったという説もある。戦場では多くの一般兵が剣とバックラーを装備していたし、平時でも若者が剣とバックラーを装備して歩き回り、血の気の多いグループが喧嘩で斬り合う事はよくある光景だった。このため、剣とバックラー(に代表される武術)は、しばしば施政者から治安悪化の原因と見なされ、武術を教える道場や教室は法律で厳しく統制されたほどである[64]

14?15世紀には剣術は人々の生活にごく普通に溶け込んでいた[65]

16世紀前半の歩兵と騎兵は火器が多く使われるようになっても部分的な鎧をまだ使用しており[66]、とても重く高価で銃弾にも耐えられる鎧を用意できたのはほとんどが騎兵であった[66]。またこの時期の歩兵にとっての主な脅威は火縄銃ではなく矛と刀剣類であった[66]。16世紀後半になると主な脅威は剣などよりも銃になるが[67]、近世になっても騎兵にとっては剣は相変わらず重要な武器であった[68][69]。レイピアはどちらかといえば決闘で多く利用されたが、戦場でも利用された[70]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:166 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef