則天文字
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人に必ず名があるのは、思いを述べて自らのことを記し、(それによって)尊敬の念をもって天と人とに仕えるからであると。……今、朕は神々を祀り安んじ、天帝の命に答えその心を民に広く知らしめた。天地人の三霊が朕を慈しんで恵みを垂れ、万国の使者が来朝してきている。(今こそ)正しき名分の決まりに応じて、政の道義をあまねく広めるのにふさわしい。(よって)朕は?と名乗ることにする。……古の帝王の徳化に返ることを思い、末世の風習を改めようと望んではいるが、習俗は非常に長い時が経ってしまっているので、すぐに改めることは非常に難しい。(そこで)独自に文字12字を作り、諸侯百官に模範を示すことにする。(これは)古代の字体によりつつも、新たな文字に改めることで、長く続くべき基礎を保持することを願い、古の醇朴な精神に戻ることを表明することにほかならない。……」

これ以後、武則天は武?と改名し、「?」の字は避諱とし、他人が使用するのを禁じ、以前の「照」の文字も使用が禁止された。当時退位させられていた中宗の長男(武則天の孫)である李重照は、名を李重潤と改めさせられた。載初元年正月8日(西暦689年12月25日)、則天文字は正式に公布された。

なお『旧唐書経籍志には「『字海』一百巻 大聖天后撰」、『新唐書』芸文志には「武后『字海』一百巻」の記述がある。
文字の伝播と新たな文字の制定

載初元年(690年)7月、聖母神皇(即位前に武則天が自身をこう呼ばせた)の武則天は、仏典『大雲経』の中に「弥勒降生」「女子為王」といったことが書かれていたことを利用して、洛陽白馬寺住持薛懐義に命じて注釈書『大雲経疏』を書かせ、その中で「武則天が皇位に就く事は仏典に定められていることだ」と宣伝させた。この本は全国各地に頒布され、この本と共に、則天文字も全国に広まった。なお、懐義は武則天の愛人であるとされている。

同年9月9日の重陽の日に、武則天は正式に皇位に付き、年号天授に改めた。天授年間、授の字が[15]に変えられた(天の字はすでにに変えられている)。695年、元号を證聖に改めると、證(証)の字は[16]に、聖の字は[17]に改められた。同年6月下旬、國(国)の字が(=圀に同じ)に改められた。聖暦年間(698年)、人の字に代わって[18]が登場した。

則天文字は、以上の17字と考えられている。時に21字と言われることもあるが、これは昔[いつ?]の学者が唱えた説が未だに信じられているためである。
使用の廃止

則天文字は、武則天が皇位に就いていた[19]15年間(690年 - 705年)には広く使用されており、石碑や仏典などに盛んに記された。現存する武周期(武則天の治世)の碑銘、墓誌銘によく現されている。

武則天は705年に中宗に皇位を譲ると、まもなく他界した。中宗は全ての制度を昔の高宗永淳時代に戻すように命じ、併せて則天文字も廃止された。これに対して武則天の親戚の武三思らは、韋皇后や女官の上官婉児と結託して、張柬之ら重臣5名を追放し、権勢をふるった。これを機会に、時任左補闕の権若訥は中宗に奏上し「則天文字を復活させることが他界した母親への孝行である」と提案した[20]。中宗はおおむね権若の指示に従っていたが、則天文字の復活だけは認めなかった。文宗の治世となっていた開成2年(837年)10月、則天文字を元の文字に直すことを命じる詔書が改めて頒布された[21]。これは逆にいえば、この時まで則天文字が使われていたことを意味し、150年間通用していたことになる。
解説

原字新字新字拡大Unicode字義
照曌U+66CC「照」。武則天の名を表す。則天文字で最も有名なものの1つ。「日」と「月」と「空」を合わせたもので(異説もある)、武則天があまねく世界を照らしていることを意味する。日は陽の象徴、月は陰の象徴であり、武則天が陰陽調和し、男帝を含めた全ての皇帝の中で最も優れていることを示唆している。武則天はこの字を名にすることで、自らの正当性を主張した。
照瞾U+77BE「照」。「?」の異体字と考えられている[22]。あるいは字書の作者が「?」の字を避諱して(武則天は諱を照といった)あえて間違った字を書いたとも言われている。
天.mw-parser-output .cjkext{font-family:"源ノ角ゴシック JP Normal","Noto Sans CJK JP DemiLight","ヒラギノ角ゴ 簡体中文 W3","ヒラギノ角ゴ 簡体中文","Hiragino Sans GB W3","Hiragino Sans GB","STHeiti SC","STHeitiSC-Medium","Microsoft YaHei","Droid Sans Fallback","Han-Nom Gothic","SimSun-ExtB","BabelStone Han","Nom Na Tong","WenQuanYi Zen Hei","和田研中丸ゴシック2004絵文字","和田研細丸ゴシック2004絵文字","YOzFont","DFSongStd","HAN NOM A","Sun-ExtA","Code2000","HAN NOM B","Sun-ExtB","花園明朝 A Regular",HanaMinAX,"花園明朝 B Regular","花園明朝 C Regular","花園明朝 C",HanaMinBX,"花園明朝A","花園明朝B",HanaMinA,HanaMinB}.mw-parser-output .cjkext-A{font-family:"源ノ角ゴシック","Noto Sans CJK JP","STHeiti SC","STHeitiSC-Medium","Microsoft YaHei","BabelStone Han","Droid Sans Fallback","Adobe Heiti Std R","Adobe Heiti Std","Han-Nom Gothic","DFSongStd","WenQuanYi Zen Hei","HAN NOM A","Sun-ExtA","Code2000","花園明朝 A Regular","花園明朝 A",HanaMinAX,"FZKaiS-Extended","CJK統合漢字拡張A","花園明朝A",HanaMinA}.mw-parser-output .cjkext-B{font-family:"SimSun-ExtB","HAN NOM B","Sun-ExtB","BabelStone Han","花園明朝 B Regular","花園明朝 B",HanaMinBX,"FZKaiS-Extended(SIP)","CJK統合漢字拡張B","花園明朝B",HanaMinB}.mw-parser-output .cjkext-C{font-family:"花園明朝 C Regular","花園明朝 C","CJK統合漢字拡張C",gw061889,"Sun-ExtB","花園明朝 B Regular","花園明朝 B",HanaMinBX,"和田研中丸ゴシック2004絵文字",WadaLabChuMaruGo2004Emoji,"和田研細丸ゴシック2004絵文字",WadaLabMaruGo2004Emoji,"BabelStone Han","FZKaiS-Extended(SIP)","UKai-ExtC","花園明朝B",HanaMinB}.mw-parser-output .cjkext-D{font-family:"花園明朝 C Regular","花園明朝 C","BabelStone Han","UCS-ALL-EXTD",gw936381,"花園明朝 B Regular","花園明朝 B",HanaMinBX,"Sun-ExtB","FZKaiS-Extended(SIP)","花園明朝B",HanaMinB}.mw-parser-output .cjkext-E{font-family:"花園明朝 C Regular","花園明朝 C","UCS-ALL-EXTE",gw1289725,"花園明朝B","HanaMinB","BabelStone Han"}.mw-parser-output .cjkext-F{font-family:"花園明朝 C Regular","花園明朝 C","UCS-ALL-EXTF","花園明朝B","HanaMinB","BabelStone Han"}.mw-parser-output .cjkext-G{font-family:"UCS-ALL-EXTF","BabelStone Han"}.mw-parser-output .cjkext-stroke{font-family:"源ノ角ゴシック JP Normal","Noto Sans CJK JP DemiLight","和田研中丸ゴシック2004絵文字","和田研細丸ゴシック2004絵文字","BabelStone Han","MingLiU","MingLiU_HKSCS",Code2000,"Sun-ExtA","花園明朝 A Regular","花園明朝 A",HanaMinAX,"花園明朝A",HanaMinA}.mw-parser-output .cjkext-radical{font-family:"源ノ角ゴシック JP Normal","Noto Sans CJK JP DemiLight","ヒラギノ角ゴ 簡体中文 W3","ヒラギノ角ゴ 簡体中文","Hiragino Sans GB W3","Hiragino Sans GB","BabelStone Han","Nom Na Tong","HAN NOM A","Sun-ExtA","花園明朝 A Regular","花園明朝 A",HanaMinAX,"YOzFont","和田研中丸ゴシック2004絵文字","和田研細丸ゴシック2004絵文字",Code2000,"花園明朝A","HanaMinA","FZKaiS-Extended"}.mw-parser-output .cjkext-ci{font-family:"源ノ角ゴシック JP Normal","Noto Sans CJK JP DemiLight","Droid Sans Fallback","Arial Unicode MS","BabelStone Han","DFSongStd","花園明朝 A Regular","花園明朝 A",HanaMinAX,Code2000,"CJK互換漢字","花園明朝A",HanaMinA}.mw-parser-output .cjkext-cis{font-family:"HAN NOM B","CJK互換漢字補助","Sun-ExtB","花園明朝 B Regular","花園明朝 B",HanaMinBX,"花園明朝A",HanaMinA}.mw-parser-output .cjkext-20bb7{font-family:"源真ゴシック Regular","源ノ角ゴシック Normal","源ノ角ゴシック JP Normal","Noto Sans CJK JP DemiLight","ヒラギノ角ゴ Pro W3","ヒラギノ角ゴ Pro","Hiragino Kaku Gothic Pro","メイリオ","Meiryo UI","A-OTF 新ゴ Pr5 R","A-OTF 新ゴ Pr6N R","小塚ゴシック Pr6N M","小塚ゴシック Pro M","VL Pゴシック","Migu 1P","IPAmj明朝","BabelStone Han","HAN NOM B","和田研中丸ゴシック2004ARIB","和田研中丸ゴシック2004絵文字","和田研細丸ゴシック2004ARIB","和田研細丸ゴシック2004絵文字","YOzFont","Sun-ExtB","花園明朝 B Regular",HanaMinBX}𠑺U+2047A「天」。詳細は次項で。
天𠀑U+20011「天」。天の字の篆書体をさらに活字体にしたものとみられる[23]も手書きにすると同じ「」であり、活字彫刻者の違いと見られる。
地埊U+57CA「地」。「山、水、土」の3字を合わせたもので、「山」の「水」が「土」に到達する所、すなわち大地を意味する。ただし、この字は則天文字以前にも例がある[24]
日𡆠U+211A0「日」。この字は、中国神話中の太陽神鳥金烏を意味している[25]。「口」は手書きでは「○」になるので、実際には「」として使われており、この字も活字作者によって○が口に直されたものとみられる。
月囝U+56DD「月」。口は満月の輪郭を表し、「子」は中国神話に言う月のウサギか金の蛙を意味していると見られる[26]。「口」は満月を表しているので、次の「」よりも好字の印象がある。現代中国では「仔」の異体字とされる。
月𠥱U+20971「月」。「匚」は三ヶ月を表しており、「出」の字は中国神話に出てくる金のヒキガエルを意味している[27]。一説によると、「」(則天文字の「生」)の異体字である。


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