刺青
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日本の伝統的な入れ墨を和彫りと呼ぶのに対して、欧米における入れ墨の呼び名であるタトゥー (tattoo) [55]を洋彫りと呼び分けている場合もあるが、両者に本質的な違いはなく図案や描画の技法に違いがあるのみである。
日本社会における取り扱い
法的・社会的規制
被施術者側2007年の三社祭では都迷惑防止条例違反の疑いで逮捕者を出した

入れ墨に対する法的規制は、敗戦後の1948年(昭和23年)、軽犯罪法の公布とともに解かれた(それまでは警察犯処罰令で処罰対象だった。人権侵害の疑いがあることからGHQにより入れ墨禁止が条文より外された)ため、現在の日本では入れ墨そのものに対する法的規制は存在しない。明治以降の法規制の結果、入れ墨に対する規制が生じるものとなっている。
社会にみる規制行為

入場制限

入れ墨を入れた者は公衆浴場法で定められた浴場を除いた非認可入浴施設[注釈 7][56][57]温泉大浴場サウナスーパー銭湯健康ランドなど)や遊園地、プール海水浴場ジムゴルフ場などへの入場を断られることがあるが、これは各施設の規則によるものであり法的な制限はない。施設管理者に逆らった場合は建造物侵入罪(刑法130条前段)の構成要件に該当し、入れ墨をした者が退場を求められても従わなかった場合は不退去罪(刑法130条後段)の構成要件に該当する。しかし最近では外国人も多くいるため、入場を規制しない施設や入れ墨をシールで隠す対応を取れば入場を可能とする施設が出てきている[58]。ただし、公衆浴場法では入浴を拒む理由として入れ墨が認められていないために、公衆浴場法で定められた公衆浴場では入れ墨を入れた者も入浴が可能である。全国の公衆浴場で構成している全国公衆浴場業生活衛生同業組合連合会(全浴連)も、「入れ墨のある人の入浴を認めており、拒否することはできない」との見解を出している[59]。愛媛県の道後温泉など温泉でありながら公衆浴場である場合などは入れ墨を入れたものの入浴を認めている場合がある。

2010年1月、「入れ墨お断り」の看板を無視して入浴施設に入ったとして建造物侵入罪に問われた裁判で、被告に懲役7か月の実刑判決(求刑・懲役1年)が言い渡された[60]

神戸市の須磨海岸では、「須磨海岸を守り育てる条例」によって、「入れ墨その他これに類する外観を有するものを公然と公衆の目に触れさせること」が禁止されている。

三社祭では地元暴力団「浅草高橋組」が介入する例が度々確認されており、逮捕者も出ている[61]

雇用

就職採用に当たり身体検査のある企業への就職には制限がある。公務員では自衛官など一部の職種において、入れ墨も「身体上の不具合」として採用していない[62]

入れ墨が原因で懲戒解雇されるか、もしくはマイナス評価を与えられたり、コンプライアンスの観点から雇用契約を破棄されたりと、社会生活上様々なリスクを負ったケースも報告されていた。

2012年2月の大阪市の事例では、児童福祉施設で働く30代の市役所職員が子どもたちに入れ墨を見せて脅していたという件で、大阪市長橋下徹は全職員を対象にアンケート調査を行い、入れ墨が他者の目に触れる可能性のある職員に関しては、直接市民と接することのない部署への配置転換を行った[63]。大阪市による入れ墨調査について回答を拒否した職員に対しては戒告処分となったが、最高裁判所はこの訓告処分を合法とした[64]
スポーツ界

全日本柔道連盟2016年12月に、入れ墨をした選手を2018年4月以降、高校生以下の全柔連主催大会で出場禁止にすることを決定。この年、入れ墨をした中学生選手が出場してから対応を検討してきた[65]Jリーグでは各クラブが厳重注意という形で通達をしている[66]プロ野球ではアレックス・カブレラのような例がある。プロボクシングではライセンス取得のために、皮膚移植やレーザー除去した選手もいる[67]。2014年時点で日本ボクシングコミッション(JBC)のルールブック「試合出場ボクサー」の項には、入れ墨に関する記述があった[68]日本相撲協会では2019年2月に相撲規則の力士(競技者)規定を改定し、これまで部屋の師匠が口頭で伝えてきた入れ墨(他、伸びた爪や過度な験担ぎによるひげ)禁止を明文化、力士会で関取衆にも伝えた[69]
生命保険

生命保険に加入する際は、告知書において入れ墨の有無を申告させられるため、それをもって生命保険の加入を拒絶されることがある。また、入れ墨は皮膚がんの発生リスクを高めるほか、病気の発見が遅れる原因にもなるため、疾病の状態によっては不担保となり、保険金が支払われないことがある。
施術者
医師法

暴力団員、またその関係者に対する逮捕を主な目的とするために、平成時代では医師法を適用することでの取り締まりを行おうとした。

2018年11月の大阪高裁の判決では、タトゥーは歴史や現代社会で美術的な意義や社会的風俗という実態があることを踏まえ、「医師の業務とは根本的に異なる」として医行為には当たらず、医師免許は必要ではないとした[70]。これは厚生労働省の通達と異なる判断であることや、草野耕一裁判長が補足意見として「タトゥーの施術による保健衛生上の危険を防ぐため法律の規制を加えるのであれば、新たな立法によって行うべきだ」と述べたほか、誤解を解くためとして「被施術者の身体を傷つける行為であるから、施術の内容や方法等によっては傷害罪が成立し得る」と述べたことから[71]、入れ墨を取り締まる新法が登場する可能性もある[70]。彫り師の団体である一般社団法人日本タトゥーイスト協会では、衛生上の問題は資格制度により対処すべきだとしている[72]
その他


暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴力団対策法)24条で、指定暴力団員が未成年者に入れ墨を施す行為などを禁止している。

一部の地方自治体では、青少年保護育成条例などによって、未成年者に入れ墨を施す行為が禁止されており、違反して入れ墨を施術すると処罰される[73](強要でなくても処罰される)。

蝦夷・アイヌ・琉球の入れ墨口元に入れ墨をしたアイヌ女性

蝦夷アイヌ民族奄美・琉球の領域では、それぞれ独自の入れ墨文化が存在した。

5世紀頃と比定される日本書紀の記事中には、武内宿禰の「日高見國[74]からの帰還報告として、蝦夷の男女が文身していたことが記されている(景行27年2月条)[75]

アイヌ民族の入れ墨は成人女性が手や口の周りに施すものが知られており、1871年(明治4年)以降禁止されたが隠れて行なわれることも多かったとされ、文化的に重要な位置を占めていたとされる。また、現代のアイヌ女性が重要な儀式に際して口の周りを黒く塗るのは、かつての習俗の名残とされる。沖縄県地域のハジチ奄美群島のハジチ

奄美・琉球では「ハジチ(針突・ハドゥチ・パリツク・ピッツギ)」と呼ばれる入れ墨文化があった。ハジチは女性のみが行い、奄美・琉球人であることを示すことで日本本土や中国の人攫いから身を守る役割があったとされる[76]。さらに、魔よけや後生(死後の世界)への手形とする民間信仰、成人儀礼としての意味もあり、美しさの象徴ともされた[76]

笹森儀助宮古島では11, 13歳に施す成女儀礼であり、またそれがないと後生(グソー)に行けないと著作に記されているため、かなり強制力があったようである。沖縄本島では14歳くらいから施し始め、少しずつ文様を増やしていく。文様には地方によって微妙な違いがあり[77]、両手に23の文様を彫りこんで完成とし、その頃が結婚適齢期とされていた。文様のそれぞれには太陽や矢といったさまざまな意味がこめられていた。宮古島の場合は手背や前腕に彫り、文様が多彩で、人頭税下、貧困にあえいでいた島であるので、米のご飯をたべる女性に育って欲しいという文様(食器、箸など)もある[78]

琉球王国が沖縄県として日本に併合された後もしばらくこの旧習は維持されたが、1899年(明治32年)10月21日に沖縄県にもハジチ(入れ墨)禁止令が出されたことで、差別の対象となった[76]


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