刺青
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前漢の将軍・英布(黥布)は若い頃に顔に罰として入れ墨を施されたことから、逆に自ら黥を名乗ったと伝えられている。

日本書紀』中にも、履中天皇元年四月に住吉仲皇子の反乱に加担した阿曇連浜子に、『即日黥』(その日に罰として黥面をさせた)との記述[16]がある。この記述は海人の安曇部の入れ墨の風習を、中国の刑罰と結びつけて説いた起源説話とされている。阿曇連は漁民でもある海部(あまべ)を統括する氏族であり、河内飼部は馬の飼育にかかわる河内馬飼部(うまかいべ)のことで、また鳥の飼育をするのが鳥養部(鳥飼部)である。これらは生き物を飼う職能集団であるという共通性がみられる。飼育している生き物からの危害を避け威嚇する意味も含めて、こうした呪術的意味を含み黥面をしていたと推側する研究者もいる。このことから、こうした記述は入れ墨の風習が廃れ、刑罰として用いられるようになってからの部分改変である可能性が指摘されている[17]

また『日本書紀』雄略天皇10年10月には宮廷で飼われていた鳥が犬にかみ殺されたため、犬の飼い主に黥面して鳥飼部(とりかいべ)としたとの記述[18]がある。

江戸時代には、左腕の上腕部を一周する1本ないし2本の線(単色)の入れ墨を施す刑罰が科せられた。施される入れ墨の模様は地域によって異なり、額に入れ墨をして、段階的に「一」「ナ」「大」「犬」という字を入れ、五度目は死罪になるという地方もあった。
ファッション

米国における入れ墨は、1960年代末に世界的に流行したヒッピー文化に取り入れられ成長したため、その図案や表示するメッセージなどにおいて両者は不可分の関係にあり、ドラッグ・カルチャーとの関連から、ヒッピー達が好んだヒンドゥー教チベット仏教に由来する梵字[19]オカルト的な図案が多く好まれていた。

江戸時代では、博徒・火消し・鳶・飛脚など肌を露出する職業は、入れ墨は粋であり入れ墨がない方が恥であった。また、遊女の顧客が遊女への思いを入れた「入黒子」などの文化もある[20]

日本では、ヒッピー文化の影響を受けた両親を持つ団塊ジュニア世代以降の第2世代ヒッピーが、ファッションとしての意味合いで入れ墨を施すことが流行した。こうした「入れ墨のファッション化」と日本国内のサブカルチャーの影響により、アニメのキャラクターやアイドルなどを入れ墨する事例も現れている[21][22]。入れ墨といえば前述の反社会性ばかりが取沙汰された時代があったが、歌手の安室奈美恵が自らの亡き母親や息子の名前を入れ墨にしている事例からも解るように、一部の人たちは「愛する対象との同一化」や「憧れの対象との同一化」を図るための、自己表現の為の装飾道具に変化しつつあると主張している。

ナチスのシンボル等のタトゥーを入れる者もおり、アメリカではユダヤ人医師に不快感を与えたり[23]、ドイツでは地方議員が起訴されるなど、社会問題になっている[24]
美容用途ヘナを用いて手に文様を描く印僑女性: シンガポール

女性の眉や唇などに針の深度を浅くしたアートメイク・タトゥー(英語版)(数年で薄くなるが完全に消えはしない)を施すほか、南アジアやアフリカの女性が施すヘナ(植物性の染料)を用いて手に模様を描く(染料なので消える)ことが行われている。TATsと呼ばれるエアブラシを用いて皮膚表面に色素を定着させ、針を使った入れ墨に近い描画を可能とした技法も存在する。この手法では一度描いた文様を油性溶剤を用いて消し去り、新たに描き直すことも可能であるため、一般的な入れ墨では忌避されるような図案であっても大胆に描くことが可能。入れ墨を入れる前に図案が自分に合うかどうか事前に確認する用途にも用いることができる。また、神社の祭礼時の出店などで良く売られている、模様の印刷された極薄のフィルムに超微粒子の顔料を使用した、プラモデルの耐水デカールの様に肌に転写する「タトゥーシール」や、タトゥーのスタイルを取り入れたタトゥーストッキングもあり、ファッションの一部として用いられているが、こうした“消せるタトゥー(入れ墨)”の存在が「入れ墨は消せないが、タトゥーは消せる」といった誤った認識を一般人の間で蔓延させる要因ともなっている(ただし針を浅く入れるライトタトゥーをおこなえば、数年で消えてしまうようにする事も可能である)。美容用途の入れ墨は人間以外に対しても行われており、色素が薄い白毛の犬などの鼻部に生じてしまう白斑を隠すために黒色の入れ墨を施し、ドッグショーでの評価を上げるケースなどが知られている。
性的装飾

主に性的サービス業に従事する女性が、男性の性的興奮を高める性的装飾として入れ墨を施す文化が各国に存在しており、女性器の周辺を装飾している場合も多い。東南アジアの一部の国においては、適齢期に婚期を逃した独身女性が眉部に太幅の眉毛の形状(ちょうど日本のバブル期に流行した眉毛の形である)に入れ墨を施すことで、特定の男性に限定されずに幅広く恋愛を行う意思(=夜這いへの誘い)を示すサインとする習俗がある。
組織帰属の証

日本の暴力団や中華系のなど、反社会的組織の構成員の多くが入れ墨を入れている。欧米においても、ロシアマフィアや米国の白人至上主義団体が入れ墨を構成員の象徴として用いている。日本の暴力団関係者が入れ墨をする理由としては、社会からの離脱と帰属組織への忠誠を表し、痛みに耐えて消えない刻印を背負うことによる覚悟、また「彫り物をしている」と流布することで周囲を威圧するなどが挙げられる。その図案は日本の伝統的な題材を描いたいわゆる「和彫り」が主流である[注釈 3]。特定の犯罪組織への帰属を示す入れ墨の存在により、当該犯罪組織からの離脱が困難になる場合があるため、米国においては自発的な犯罪組織脱退者に対して入れ墨除去手術の費用を公的に負担する場合がある。反社会的な組織に限らず、近代国家においても国家への帰属意識・忠誠の確認として入れ墨を入れた例がある。朝鮮戦争において中華人民共和国が義勇軍の名目で参戦した時、実際にはその名に反して多くの者が国民党軍から寝返ったばかりの兵士であり、人海戦術の使い捨ての駒とされた。そのため少なからぬ数の兵士が自ら国連軍に投降し、そうでなくても捕虜となった義勇軍兵士たちは、中華人民共和国への帰参を望まなかった。中国義勇軍の捕虜たちの3分の2を占める1万4000人が大陸ではなく、台湾への渡航を希望した。台湾への渡航を希望する者は、自らの意思で、あるいは半ば強制されて、国民党への忠誠・反共を表す文言を入れ墨として入れた。
医療関係入れ墨による色調再建(左乳輪)
乳頭・乳輪の再建
形成外科領域では、乳頭・乳輪の再建のために入れ墨の技術を用いることがある。「乳房再建#乳頭・乳輪の再建」も参照
メディカル・アラート・タトゥー
意識を失っている状態やその緊急搬送時などの、自身の身体情報や病歴を伝達できない状況の想定下で、持病やアレルギーや検視では判別が難しい内臓の異常を、医療従事者などに迅速に知らせる目的のタトゥーのこと。脈拍を検べるときに発見しやすい手首の内側に入れる人が多い[25]。緊急性はないが、見た目で判別がつきにくいことで他者から誤解されやすいため、片耳に聴覚障害を知らせるタトゥーを施した例もある[25]
傷跡隠し
家庭内暴力や暴行、自傷の傷跡を隠すためのタトゥー。[25]
入れ墨の技術

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独自研究が含まれているおそれがあります。(2022年6月)


雑多な内容が羅列されています。(2022年6月)


手ぬぐいを噛んで痛さに耐え恋人の名を刻む江戸時代の女郎。『風俗三十二相月岡芳年、1888年

器具を使ったから「洋彫り」、手で彫ったから「和彫り」とは一概に分類できず、絵の画風や全体の様子で判断する。和風の絵でも筋は器具でぼかしは手彫りで行うなど、手法は彫師により千差万別である。現在は機械彫りが主流であるが、暴力団などの間では手彫りが一種のステータスとなっている。一般的に、伝統的な手彫りの方が痛みが少なく傷の治りが早い。現在では技術の進化、向上により肌へのダメージが最小限に抑えられていて、彫師の技術はそこで判断することもできる。手彫り・機械彫り共に、彫師の技術や作風によって所要時間に開きがある。
手法及び用語
手彫り(テボリ)
柄の先で針を束ね、手を動かして肌に墨を入れる。
羽彫り(ハネボリ)
手彫りの技術。針を皮膚に刺した後、針先を跳ね上げることで穿孔が広がり色素が多く入る。
突き彫り(ツキボリ)
手彫りの技術。
隠し彫り(カクシボリ)
腋下・内股など他人には見られにくい場所に、花びらなどで隠れた名前や言葉、淫靡な絵を彫る。
毛彫り(ケボリ)
人物や動物の毛の部分を彫ること。通常よりも細い針で彫ることが多い。
筋彫り(スジボリ)
下書きとしてボカシの前に全体の輪郭を彫る。
ボカシ(あけぼの)
墨の濃淡や各色を用いて、全体を彫っていく。
ツブシ
塗りつぶすこと。
シャッキ
手彫りの音。
マシーン彫りの様子
機械彫り(キカイ・マシーンボリ)
磁石の磁力またはモーターの回転運動を用い、機械の上下運動により肌に針を刺す。束ねられた針には浸透圧により墨が蓄えられる構造。
ライナー・マシーン
ライン(筋彫り)を行うための「ライナー」と呼ばれる入れ墨器具。
シェーダーマシーン
シェーディングを行うための「シェーダー」と呼ばれる入れ墨器具。シェーディングとは、ツブシやボカシ、カラー等の施術を指す意味の用語。
半端彫り(ハンパボリ)
彫りの痛みに耐えられない、費用が続かないなどの理由により、入れ墨が途中で終わっていること。
白粉彫り(オシロイボリ)
血行が盛んになると浮き出ると言われている彫り物のこと。


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