刺身
[Wikipedia|▼Menu]
料理としての刺身は、江戸時代に江戸の地で一気に花開いた。そもそも京都は、のような淡水魚を除けば新鮮な魚介類が得られにくいため、いわゆる江戸前の新鮮な魚介類が豊富に手に入る江戸で、刺身のような鮮度のよい魚介類を必要とする料理が発達するのは当然のことであった。

もう一つの理由は、調味料として醤油が入手しやすくなったことである。江戸時代中期、生魚の生臭さを抑える濃口醤油が江戸に近い野田で大量生産されるようになり、需要を賄った。後述の通り、魚を生食する文化は日本以外にも存在するが、特定の種類の魚の調理法に限定されている。江戸時代の江戸で生まれた、多種多様な魚介類を刺身として生食する習慣は、まさしく醤油という生の魚と相性が抜群によい調味料あってこそのものであった。

また醤油の普及は、生の魚とを即席であわせて醤油をつけて食す料理、握り寿司につながった。

また刺身の普及によって、カツオマグロのような、塩漬や加熱調理した場合に食味が落ちる魚についても、美味しく食べられるようになった。マグロは江戸時代中期までは塩漬したものを煮るか焼くかで食すのが普通であり、あまり美味とはみなされず、それゆえに安価な魚であった。江戸時代後期から、醤油漬けにしたマグロを生食するようになり、これが美味であるとして人気が高まった。

歌川豊国の『当世娘評判記』には、大皿に刺身とつまを盛ったものがかかれている[10]。こういった状況を喜多川守貞著『守貞漫稿1853年では次のように記している。.mw-parser-output .templatequote{overflow:hidden;margin:1em 0;padding:0 40px}.mw-parser-output .templatequote .templatequotecite{line-height:1.5em;text-align:left;padding-left:1.6em;margin-top:0}鯛・ひらめには辛味噌あるひはわさび醤油を用ひ、まぐろ・鰹等には大根おろしの醤油を好しとす。夏は血水底に溜まる故に、江戸にては、葭簀あるひは硝子簾を敷きて、その上にさしみを盛る。江戸、刺身添へ物、三、四種を加ふ。糸切大根、同うど、生紫海苔、生防風、姫。粗なる物には、黄菊、うご、大根おろし等を専らとす

幕末には、京阪四季に関係なくタイばかりを使用している上、切り方から盛り付けまで乱雑である(『守貞漫稿』)と批判されるほどにまで差がついていた。

『守貞漫稿』には屋台の「刺身屋」が登場し、これは江戸前のカツオとマグロが主であり、大変に繁盛したとされている。また、皿に好みの刺身を盛ってもらう「刺身盛り合わせ」の形式が誕生した。魚を薄く精巧に切った「平作り」(「斬目正しく」)などについて次のように記述している。「京坂にては四時及び料理の精粗を択ばず専ら鯛を用ひ 他魚は用ふを甚だ略とす 京坂惣ての作り身斬目正しからず斬肉を乱に盛る 京坂にては鮪を下碑の食として中以上及び饗応にはこれを用ひず 又鮪を作り身にせず 江戸は大禮の時は鯛を用ひ 平日これを用ひるを稀とす 平日は鮪を専らとす 包丁甚だ精巧にして斬目正しく 斬肉の正列に盛るを良しとす」
近代?現代

近代に入ると、流通の発達や冷蔵設備の普及、冷凍技術の発達に伴い、日本全国津々浦々で新鮮な刺身が食べられるようになった。

特にマグロに関しては、近世までは醤油漬が江戸で食されたに過ぎないが、冷蔵技術の進歩により、全くの生の状態で日本中に流通するようになった。またサケや一部のイカのように、寄生虫を持つために従来は生食に適さなかった魚も、冷凍処理で寄生虫を殺す事で生食できるようになった。もっとも、大正時代頃まで刺身といえばヒラメタイのような身の透き通った魚を使ったものに限られ、例外のカツオを除いた「色物」の刺身は下魚として蔑まれていた経緯がある[11]
調理法

魚の刺身の調理法は、以下のようなものである。
水洗い

魚のうろこうろこ引き出刃包丁で魚の尾から頭に向かってかき取る。えらぶたから、えらを切り取り、腹を開いて内臓を取り出し、水でよく洗う[3]。なお、海水魚に良く見られる食中毒の原因菌として腸炎ビブリオが知られている。この腸炎ビブリオは真水の中では増殖できないため、海水魚はよく真水で洗っておくと良いとされる。
おろす

頭を切り落とし、背骨から身を切り離す。三枚おろし五枚おろし、大名おろしなどの方法がある[3]。おろした身から、腹骨や血合い骨を取り除き、皮を包丁で引いて取り、さくどりをする[2]
造る

さくどりした身を刺身包丁で切って造る。包丁を直角にし右から切っていく平造り、包丁を寝かせて左から切っていくそぎ造りが基本とされる[2]。皿につまとともに盛り付ける。その際、奥を高く、手前を低く風景のように盛り付けるのが基本とされている。このような盛り方を山水盛りという[12]
種類ヒラマサの姿造りカツオたたきとイカ刺身フグの刺身(フグ刺し)

刺身とする食品は、一般的にはタイやヒラメ、マグロやブリなどの魚類に加えて、イカや貝類エビなど、魚介類全般が用いられるが、魚以外の野菜や馬肉牛肉等を生食する場合にも刺身と称する場合がある。

調味料も食品に応じて様々で生醤油の他に、煎り酒、土佐醤油、ポン酢酢味噌、古くはなど用いる[3]

刺身には、切り方や盛り付けで、多種多様な造り方(作り方)がある。刺身を作る際に考慮されるのが、美しさと、その食品の特性である。魚であっても白身魚赤身魚では食感に大きな違いがあり、故に刺身の切り方にも違いが出てくる。

平造り
さくどりした身の薄い方を手前に置き、右側から包丁を直角にあて、一度に引き切る。この工程を「引き造り」とも言い、引き造りで切り離した身を右に寄せてを平造りとする。また、刺身に厚みが出る。平造りは主にマグロやカツオの赤身、ブリなどの青魚に用いられる。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:57 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef