制限行為能力者
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一部歴史学者は妻の行為無能力を独法系の明治民法特有の特徴として挙げる[3]が、起草者説明によると、明治23年旧民法を継承したもので(人事編第68条、第一草案第104条)、妻の行為能力原則肯定・例外否定の英・独法系を退け、原則否定・例外肯定の仏法系(正確にはイタリア民法[4])を採用したものと説明[5]されている。また夫の同意無き行為が不可能なわけではなく、取消事由になるに留まる(同2項、16条)[6]。つまり実際上大きな支障が無いばかりか、不都合な契約がなされた場合に同意の不存在を理由に取り消しうるという意味で、現代的な男女平等理念にこそ反するものの、消費者保護の観点からはむしろ妻に有利な規定であった[7]。旧民法人事編原案起草者熊野敏三によれば、子を含む家族全体の利益保護を目的とし、一家の浮沈を左右する行為につき夫婦の意見不一致のときの最終的な決定権を夫に与えて紛争防止を図るか、訴訟増加を甘受するかの選択につきやむをえず前者を採ったものと説明されている[8]

無能力者とされたのはあくまで「妻」(婚姻中の女性)であり、未婚の女性や夫と離別・死別した女性は行為能力が認められていた[注釈 5]。妻を無能力者とする条項は当時からおおむね不評であり、1927年(昭和2年)の臨時法制審議会では政府の諮問に対し廃止も含めた答申を出している。明治23年民法をめぐる民法典論争における保守的延期派の代表格とみなされる江木衷[9]も、時代遅れな規定として批判[10]している。昭和22年の民法改正により妻を無能力者とする規定は削除された。
成年後見制度へ

1999年(平成11年)の民法改正前には、制限行為能力者と同種の法律用語として、「無能力者」あるいは「行為無能力者」という用語が用いられていた。しかし、「無能力」という言葉は字義通り「能無し」の意味に受け取られ、差別的であまり良いイメージではないため、同じく差別的な「禁治産者」「準禁治産者」などの用語も一掃し、制度の内容もプライバシーの保護や自己決定の尊重などを重視して大幅に変更した。

このとき新たに作られた制度が成年後見制度であり、従来の「無能力者」は「制限能力者」に表現が改められた。さらに、民法の現代語化を主な目的とする2004年(平成16年)の民法の一部改正法の施行により、2005年(平成17年)4月から、さらに「制限行為能力者」という表現に改められた。

なお、この民法の改正に合わせて任意後見契約に関する法律が施行され、任意後見人の制度が発足した。同時に、後見登記等に関する法律により、後見、補佐及び補助に関する登記、任意後見契約に関する登記がされることとなった。
制限行為能力者の類型
未成年者

民法は「年齢十八歳をもって、成年とする。」と規定しており(4条)、この反対解釈から民法上の未成年者とは18歳に達しない者をいう。ただし、未成年者が婚姻をした場合は、18歳に満たない場合でも成年に達したものとみなされる(753条 - 婚姻による成年擬制)。

未成年者は制限行為能力者であり(20条)、未成年者の財産行為には原則として法定代理人の同意を要することになる(5条1項本文)。未成年者の法定代理人は、通常は親である(親権者)が、親権者がいない場合は、未成年後見人が選任される(839条、840条)。なお、未成年後見人は一人でなければならないとする規定があったが(旧842条)、平成23年改正により842条は削除され、複数の未成年後見人や法人後見も可能になった。

前述のように未成年者が法律行為をするには、原則として、その法定代理人の同意を得なければならない(5条1項本文)。法定代理人の同意が必要な行為で未成年者が法定代理人の同意を得ずに単独で行った法律行為については取消すことができる(5条2項)。

ただし、単に利益を得たり、義務を免れる法律行為については法定代理人の同意を得なくともよい(5条第1項但書)。また、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産についてはその目的の範囲内において処分する場合や、目的を定めないで処分を許した財産を処分するときには未成年者は自由に処分しうる(5条3項)。さらに、一種または数種の営業を許された未成年者はその営業に関しては成年者と同一の行為能力を有するので、許可された営業の範囲で営業を行う場合には法定代理人の同意は不要である(6条1項)。以上の法定代理人の同意が不要な行為については未成年者が法定代理人の同意なく単独でなしたことを理由として取り消すことはできない。

親権の行使について未成年者と親権者で利益が相反する行為であるときには家庭裁判所に特別代理人の選任を請求しなければならない(826条)。

なお、未成年者が他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足る知能を備えていない時は、その行為について賠償責任を負わない(712条)が、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は賠償責任を負う(714条)。
成年被後見人

精神上の障害により、事理を弁識する能力を欠く常況にある者(=行為の結果を弁識するに足るだけの精神能力を欠くのが普通の状態の者)として、後見開始の審判を受けた者のことをいう(7条、8条)が、その行為能力の目安は大体7歳未満の未成年者程度である。成年後見制度を導入する前の「禁治産者」に相当する(民法附則(平成11年12月8日法律第149号)3条1項)。

成年被後見人には成年後見人が付され(8条)、成年後見人は、成年被後見人の財産に関する法律行為につき成年被後見人の法定代理人としての地位を有する(859条1項)。「成年後見制度#成年後見」も参照

成年被後見人は制限行為能力者であるから(20条)、成年被後見人が成年後見人の代理によらず単独で行った法律行為については取消しすることができる(9条本文)。
ただし、成年被後見人の自己決定の尊重の観点から、問題となる法律行為が「日用品の購入その他日常生活に関する行為」である場合は取り消すことができない(9条但書)。

成年被後見人が会社取締役に就任するには、その成年後見人が成年被後見人の同意を得た上で、成年被後見人に代わって就任の承諾をしなければならない(会社法331条。同法に定める監査役執行役清算人についても同様)。なお2019年の会社法改正までは、成年被後見人は会社の取締役になることができず、すでに就任している取締役が成年被後見人となると当然にその職を失うとされていた。2013年6月30日以前に公示・告示される選挙について、選挙権被選挙権を失っていた。2019年の法改正までは、国家公務員地方公務員や各種の国家資格で成年被後見人であることが欠格事由として挙げられていた。
被保佐人

精神上の障害により、事理を弁識する能力が著しく不十分である者として、保佐開始の審判を受けた者のことをいう(11条、12条)が、その行為能力は、大体やや成長した未成年者程度である。


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