制限行為能力者
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なお、122条但書は「追認によって第三者の権利を害することはできない」と定めてはいるが、通説によれば表意者と第三者との優劣関係は対抗問題として決すべき問題とされる[16][17]取消の項目を参照)。
法定追認

124条により追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について追認権者に次に掲げる事実があったときは追認をしたものとみなされる(125条本文)。これを法定追認という。ただし、異議をとどめたときは追認したものとはみなされない(125条但書)。
全部または一部の履行

履行の請求

更改

担保の供与

取り消すことができる行為によって取得した権利の全部または一部の譲渡

強制執行

取消権の消滅

取消権者が取消した場合や追認した場合(法定追認を含む)には取消権は消滅する(前者の場合には法律行為が遡って無効となるため取消権は消滅し、後者の場合には法律行為の有効が確定して取消権は消滅する)。このほか取消権の行使には期間が定められており、取消権者が追認をすることができる時から5年間取消権を行使しないとき、当該行為の時から20年を経過したときには消滅する(126条)。なお、取消権の発生原因が同じである場合には、取消権者の一人につき取消し・追認・126条の期間制限などにより取消権が消滅すれば、すべての者の取消権が消滅するものと解されている[18]
制限行為能力者の相手方保護
相手方の催告権

制限行為能力者の行為は取消されることがあり、そのため、その行為の相手方は不安定な立場に置かれることになる。そこで、次の場合には追認したものとして制限行為能力者の相手方を保護する。
制限行為能力者の相手方は、その制限行為能力者が行為能力者(行為能力の制限を受けない者)となった後、その者に対し1ヶ月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができ、そのものがその期間内に確答を発しない時は、その行為を追認したものとみなされる(20条第1項)。

制限行為能力者の相手方が、制限行為能力者が行為能力者とならない間に、その法定代理人保佐人、又は補助人に対し、その権限内の行為について1ヶ月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができ、その者がその期間内に確答を発しない時は、その行為を追認したものとみなされる(20条第2項)。なお、後見人(保佐人・補助人)が複数選任されている場合、第三者の意思表示はそのうちの一人に対してすれば足りるとされている(857条の2、859条の2)。

但し、次の場合は、取り消したものとみなされる。
特別な方式を要する行為については、上記の期間内にその方式を具備した旨の通知を発しない時は、その行為を取消したものとみなされる(20条第3項)。

制限行為能力者の相手方が、被保佐人又は被補助人に対して、その行為について1ヶ月以上の期間を定めて、その期間内に、その保佐人又は補助人の追認を得るべき旨の催告をすることができ、その被保佐人又は被補助人がその期間内にその追認を得た旨の通知を発しない時は、その行為を取り消したものとみなされる(20条第4項)。

制限行為能力者の詐術による取消権の否定

制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない(21条)。

無能力者(当時)であると偽るだけでなく、無能力者と認めた上で法定代理人または保佐人の同意を得たことを信じさせるために詐術を用いた場合にも、本条の規定を適用する(妻の事例につき、大判大12.8.2)。

「詐術」とは、偽造文書を用いたり、他人に偽証させる等の不正手段を弄するとかのような、積極的な手段を用いることを必要とする(大判大5.12.6)。その後判例は「詐術」の範囲を広く解釈する傾向を示し、単に無能力者であることを黙秘したというだけでは詐術にはあたらないが「ふつうに人を欺くに足りる言動を用いて相手方の誤信を誘起し、または誤信を強めた場合」は詐術に含まれるとされる(準禁治産者の事例につき、最判昭44.2.13)。

脚注[脚注の使い方]
注釈^ 被補助人のうち・代理権付与の審判のみを受けた被補助人は、制限行為能力者に含まれない。同意権付与の審判を受けていない被補助人は、行為能力が制限されないからである。
^ 意思能力を欠く法律行為は無効である旨は判例法理で確立していたが(大判明治38年5月11日)、2020年の改正法施行により民法の本則に組み込まれた(第3条の2)。
^ 2000年の法改正時に、経過措置として、禁治産者を成年被後見人に、心神耗弱者たる準禁治産者を被保佐人とみなす旨の規定が設けられた。
^ 「第十二条第一項一号乃至第六号ニ掲ゲタル行為」とは、現行民法第13条1項(保佐人の同意を得なければいけない行為)1~6号とほぼ同趣旨である。
^ 大判昭和9年12月22日では、「夫の許可を得ずにした法律行為に対する取消権は、婚姻関係が継続する間のみ存在し婚姻解消とともに失われる」と示している。

出典^ 近江幸治著 『民法講義T 民法総則 第5版』 成文堂、2005年3月、39頁
^ 川井健著 『民法概論1 民法総則 第4版』 有斐閣、2008年3月、26頁
^ 笠原一男『詳説日本史研究』山川出版社、1977年、344頁
^ 川出孝雄編『家族制度全集史論篇 第四巻 家』河出書房、1938年116頁(石田文次郎)
^ 富井政章『民法原論第一巻總論上』訂正増補17版、有斐閣書房、1922年、169頁
^ 梅謙次郎『民法要義 巻之一總則編』訂正増補24版、私立法政大學ほか、1905年、38、42頁
^ 大村敦志『民法改正を考える』岩波書店、2011年、14頁
^ 熊野敏三・岸本辰雄合著『民法正義 人事編巻之壹』新法註釈會、1890年、287-291頁(熊野)
^ 星野通『民法典論争史』日本評論社、1947年68頁
^ 江木衷『江木冷灰全集第二巻』、冷灰全集刊行會、1927年、233頁
^ 我妻栄著『新訂 民法総則』87頁?88頁、岩波書店、1965年
^ 金子宏・新堂幸司・平井宜雄編『法律学小辞典(第4版)』有斐閣、2008年、709頁より。
^ 川井健著 『民法概論1 民法総則 第4版』 有斐閣、2008年3月、36頁


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