1980年前後の東映は、角川映画や劇場アニメ、買い取り作品がプログラムに乗ることが増え[11][12]、東映の自社製作映画はめっきり減った[13]。東映伝統のヤクザ映画も1980年、1981年と1本も公開されない状況[14]。岡田茂東映社長は1982年2月の『映画ジャーナル』のインタビューで「やくざ映画は今はむつかしいですね。やっぱり時代劇と同じように構えた大作で社会的な話題を投げかけるような仕掛けの出来る題材を選ばなくちゃ出来ないと思いますね。役者も昔のやくざ映画に登場したような匂いを消すぐらい、まったくフレッシュな顔ぶれで作るとか、そういう方向を目指すべきでしょうね。何年かぶりにこの種の題材の一つとして『制覇』を準備中ですが、秋の11月、営業の方で是非やりたいと言って来ているので、話題大作に仕上がる内容が固まればGOをかけたいと考えてます」と述べている[14]。「なめたらいかんぜよ!」の流行語を生んだ『鬼龍院花子の生涯』のヒットに気をよくし、再び任侠映画に色気を見せ始めたとされ[7][15]、岡田茂は夏目雅子に惚れ込み[16][17]、かつての"藤純子の夢をもう一度と、夏目主演で女の目から見た任侠道を描く任侠路線を復活させようと[16][17]、夏目に本作の主演をオファーしたが、あっさり断られていた[17]。田〇一雄が1981年7月23日に亡くなって四代目跡目問題が激化すると読んで[5]、企画が立案され、秘密裏に準備を進めた[5]。総製作費10億円(キャスト費だけで2億円)[15][18]。この年夏の『鬼龍院花子の生涯』の大ヒットで[15]、東映社員の士気も上がっていた[15]。
「任侠映画で東映の黄金時代を築いた俊藤浩滋プロデューサーが、再び口説き落とされて駆り出された」と書かれた文献があることから[6]、企画は俊藤ではなく、東映のプロデューサーの誰かで、プロデューサーとして田岡満が入っているとはいえ、山〇組を破門になる俊藤の親友・菅谷政雄(演:若山富三郎)の出番も多く、現在進行中の映画でもあり、万全を期して俊藤にプロデューサーを頼んだものと見られる。俊藤は「組長の奥さん、息子、娘さんの生活も密着取材して組長の死後、一家がどう生きているか、疎外されたヤクザの世界と、その周辺に生きる人たちのロマンを作りたい。最近、芸術的評価を気にして、ワケの分からん映画を作りすぎだ。ミーちゃん、ハーちゃんも楽しめる理屈抜きで面白い映画を作るよ」などと話し[6]、俊藤、中島監督とも「準備に一年かけた」と話している[6]。 撮影中の1982年7月29日、東京プリンスホテルで製作発表記者会見があり[19]、三船敏郎、岡田茉莉子他、大物スターが勢揃いする豪華な記者会見となった[19]。席上、久しぶりに製作するヤクザ映画に、岡田東映社長のボルテージも上がり、「乾坤一擲の勝負作、任侠・ヤクザ映画の決定版にする」などと力説した[19][20]。中島貞夫監督は「大人の鑑賞に耐えられるような映画です。暴力の世界に生きる人間たちの愛憎、怒り、死を見つめる人間ドラマにしたい」などと責任の重大さに緊張気味に話した[19]。 本作は同じ中島監督の1979年『総長の首』の取っ掛かりと同じ、ベラミ事件であるが[9][21]、当時は渦中だったので、そのままでは撮れなかったが、本作の製作当時はもう収まっていたため、問題はなかった、と中島は話している[22]。川内弘(演:岸田森)が射殺されるのが喫茶店ではなく組事務所だったり、幾らか変更点はあるが、抗争の大筋は事実に即したもので、『仁義なき戦い』のように、登場人物の役名が実名をモジった名前となっており、誰かすぐに分かる。若山富三郎扮する人物の名前は、モデル・菅谷政雄の通称“ボンノ”をモジった“ゴンノ”である。1977年の『北陸代理戦争』以降は、フィクショナルな実録映画が続いたが、本作は実録度は高いものとなっている。俊藤は「『日本の首領』より『制覇』の方が三代目周辺の出来事をいろいろ細かく取り扱っているけど、というて実録では決してない。私としては現実をネタに壮大なフィクションをこしらえた。そもそもこのシャシンはやくざの世界を題材にしているというても、ポイントは人間ドラマ、家族のドラマにある。全国制覇を推し進めつつあるドンが急死したら、その嫁はんはいったいどんな境遇に立たされるんだろう。ドンの娘はどうするやろう。そこを描いたら面白いのではないかと。任侠映画はひとことでいって『男の映画』だ。このことに間違いはない。だけど、私の手掛けてきた任侠映画はたとえ男が主人公になっていても、女を描かんものはなかったはずや。やっぱり映画は男と女を描かなくては」などと述べている[21]。一般人である家族の描写は、田〇一雄に子供が3人いたり、田岡〇伎の結婚相手が喜多郎ではなく、新聞記者だったりする。田岡満に嫁いだ東映の女優・中村英子(演:秋吉久美子)が自宅で自殺するのは映画の通りだが、自殺理由はあまり語られないが、本作では理由が語られる。
製作会見
脚本