列島改造ブーム
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急激な積極財政・インフレーションオイルショックによる経済の混乱などもあり、首相となった福田による緊縮財政を経て交通網の整備は進まなくなった。

1980年度(昭和55年度)には日本国有鉄道は毎年約一兆円の赤字を生み出すようになり[7]国鉄再建法によって、在来線建設や既存在来線の高速化などが抑制されて特定地方交通線の廃止が実施された。

整備新幹線の着工も長く見送られたものの、高速道路網は再び拡大した。三木武夫が主導した生涯設計計画・大平正芳が主導した田園都市構想鈴木善幸が主導した和の政治・竹下登が主導したふるさと創生事業を背景に、道路建設は主にガソリン税の増税などによって徐々に進み、デフレーション下の国や地方自治体は多額の借金を抱えることとなった。

田中は逮捕起訴されたロッキード事件の影響で自由民主党総裁に立候補できなくなったが、盟主を務める木曜クラブ(田中派)が党内で多数を占めることで、総裁選出のキャスティング・ボートを握り、間接的に時の内閣に影響を与え続け、これらは「田中曽根内閣」「角影内閣」「直角内閣」といった呼び方がなされた。これを背景に、1980年代バブル景気を引き起こしたとされる東京湾横断道路(東京湾アクアライン)などのプロジェクトは中曽根康弘の列島改造論と当時から国会で批判されていた[8]

日本にとって、首都の過密と地方の過疎は、当時よりも一層深刻な問題になっており、少なくとも田中が日本列島改造論を著したのは、こうした状況への問題提起としての意味を持っていた。交通網の整備で様々な課題が解決するという発想は、「土建業一辺倒だ」という批判もある。地方から過密地(特に首都・東京)へ向かう交通網の整備は、大都市が持つ資本・技術・人材・娯楽が、地方にも浸透しやすくなったことは事実であるが、同時に地方の住民・人材・企業もまた大都市に流出しやすくなったことで東京一極集中と地方過疎化をより促進してしまうということが起こった。地方での駅や道路の建設も同様の事象が起こり、駅ナカ駅前郊外へのストロー効果を招き、中心市街地が衰退してしまった。田中が抱いていた理想の未来には不十分で程遠い結果であった。

新幹線や高速道路なども地方と東京を結ぶ路線がほとんどで、地方と地方を結ぶ路線の建設は遅々として進まないのが現状であり、防災と減災のバランス確保による国土強靭化も必要である。こうした道半ばの「均衡ある発展」を背景に、田中が目指した本来の日本列島再生を実現させるべきだという論もある。ちなみに1973年(昭和48年)、田中金権政治に不満を募らせた自民党若手議員により結成された青嵐会は地方選出のメンバーが多かったことから、国土政策の面では『日本列島改造論』の理念である「国土の均衡ある発展」を支持し、工業再配置や高速交通網整備など、政府主導の開発政治を提唱していた[9]

こうして田中が提唱した「工業再配置と交通の全国的ネットワークの形成」は幻となったが、「情報通信の全国的ネットワークの形成」は田中による報道機関への懐柔策もあり、日本電信電話公社によって回線が構築された後、1985年(昭和60年)に実施された公社の民営化に伴う通信自由化電気通信事業法施行)を契機として[10]、ネットワーク事業者の新電電参入が招来された[注釈 4]。続く1990年代基幹放送普及計画に基づく民放テレビ全国四波化パーソナルコンピュータインターネットの世界的な普及が、これを確立させるに至ったのである。
書誌情報

田中角栄『日本列島改造論』日刊工業新聞社、1972年6月20日。ISBN 4-526-03467-3全国書誌番号:70000513NDLJP:11973283。 

『日本列島改造論』自由民主党広報委員会、東京〈学習シリーズ 39〉、1972年9月。 

田中角栄『復刻版 日本列島改造論』日刊工業新聞社、2023年3月18日。
ISBN 9784526082702。 

中国語版

田中角? (1972-09). 日本列?改造?. 秦新 ?. 北京: 商?印?? 

脚注[脚注の使い方]
注釈^ 序文と結び以外を実際に執筆したのは後の通産事務次官・小長啓一やその他のスタッフ[2][3]
^ 当時は物価の上昇もあり、価格景気やインフレ景気とも呼ばれていた。
^ バブル経済に近い好景気(ブーム)だった。
^ 日本電信電話公社自身の提供によるキャプテンシステムは、通信自由化前の1984年11月にスタートしている。


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