時代的比較では、死刑が廃止された国での廃止前・廃止後を比較する試みがされる。しかし様々な制度や文化、教育、経済など様々な社会環境の変化も伴うため、分析者によってさまざまな結論が導き出されており、それだけを取り出して検討するのは困難である。ただし現段階においては、廃止後に劇的に犯罪が増加・凶悪化した例はこれまでにはなく、また劇的に犯罪が減少した例もない。
精神科医・作家の加賀乙彦は著書『死刑囚と無期囚の心理』の中で、確定死刑囚44人を調査した結果、犯行前や犯行中に自分が犯している殺人行為によって死刑になるかどうかを考えた者はいなかったと報告している。この結果を見て、犯行後に死刑を回避するため目撃者さえ殺害したものまでいたため、無我夢中に殺人をしたものに対する犯罪抑止力はほとんど期待できないと結論付けた。ただし、死刑の可能性を考慮して殺人行為を思い止まった者は、当然、死刑囚にはならないので、死刑の抑止力が働かなかった者だけを例にあげて死刑の抑止力がないと主張するのは無理がある。
自分自身の生命すら省みない自暴自棄な者や、行政機構による自身の殺害を望む自殺志願者、殺人による快楽のみを追い求める自己中心的な、いわゆる「シリアルキラー」には抑止力が働かない例がある。アメリカでは、死刑制度のある州でわざわざ無差別に殺人を犯す者、死刑廃止州で終身刑で服役している囚人が死刑存置州で引き起こした殺人事件を告白し自ら望んで死刑になる者が存在する。例えば、死刑制度のないミシガン州から死刑存置州のイリノイ州に転居して8人を殺害したリチャード・スペックや、死刑廃止州のミネソタ州と死刑存置州のアイオワ州の双方で殺人を犯したチャールズ・ケリーやチャールズ・ブラウンはいずれもアイオワ州で裁判を希望して死刑を受け入れたという。また、死刑執行直前になってもアルバート・フィッシュは「最高のスリル」と待望していたとの説があるが、彼のようなシリアルキラーは他人の生命ばかりか自身の生命の保持すら関心がないので、死刑になることを恐れないなど、自己保身のために犯行を躊躇することはない。アメリカのシリアルキラーのみについていえば死刑の威嚇効果は期待できない[25]。
作家石川達三は、著書『青春の蹉跌』の中で死刑存続論の論拠として
「人を殺した者は、彼も亦生命を奪われねばならない」という応報的法的確信
威嚇的効果の期待
犯罪者の完全隔離
を揚げ、「(死刑は)当然廃止せられるべき」であるが「直ちにこれを廃止するためには、社会の実情がなお整っていない」と主人公に言わせている。
死刑の方法詳細は「刑罰の一覧」を参照
2022年時点で、事実上廃止国を除いた55カ国の死刑存置国で行われている、処刑方法は以下の通り。 日本、韓国、北朝鮮、 マレーシア、エジプト、イラン、ヨルダン、イラク、パキスタン、バングラデシュ、シンガポール他 韓国は、1997年12月30日に23人を死刑執行してから行われておらず、事実上死刑廃止国として扱われている。 米国アラバマ州、フロリダ州、サウスカロライナ州、アーカンソー州、ケンタッキー州、テネシー州、オクラホマ州、ミシシッピ州。 ただし、州によって条件が異なり、アラバマ州、フロリダ州、サウスカロライナ州は処刑対象者が薬殺刑を選択できるが、アーカンソー州(1983年7月3日)、ケンタッキー州(1998年3月30日)、テネシー州(1999年[26])、ミシシッピ州(1984年6月30日)の場合は、死刑判決がカッコ内の年月日以前に受けた場合でないと、選択できない。 更にオクラホマ州は、薬殺刑の執行が不可能な場合にのみ銃殺か電気処刑の選択が出来るように運用されている。 そして、ネブラスカ州は、かつて電気処刑による死刑執行が行われたが、2008年2月に同州最高裁判所が憲法違反判決を出したため、翌年に、薬物注射による死刑に切り替えている[27]。 米国アリゾナ州、カリフォルニア州、ミズーリ州、ノースカロライナ州。ただし処刑対象者が薬殺刑を選択できる。 コロラド州、メリーランド州は、かつてガス殺刑も選択すれば執行できたが、前者は2013年に、後者は2020年に死刑が廃止された。 またミシシッピ州もガス殺刑を選択できたが、1998年に選択から削除されている[27]。 そしてアメリカ国内で、1977年の死刑再開以降、ガス殺刑で執行されたのは11件であり、1999年3月3日のアリゾナ州でのドイツ国籍を有するウォルター・ラグランド 中華人民共和国(主に経済犯罪に対して。但し、以下の北京を始めとした一部地域では、罪種問わず。)、タイ王国、ベトナム、米国の連邦・軍・死刑制度存置州 中華人民共和国において、2020年12月時点で、昆明・長沙・成都・北京・深?・上海・広州・南京・重慶・杭州・瀋陽・大連・鞍山・平頂山・焦作市・武漢・黒竜江省・ウルムチで薬殺刑が完全導入されており、大部分は都市である。そして、地方人民法院によって、死刑執行方法の運用が異なり、財政支援がないことや無用なトラブルを避けることを理由に薬殺刑に消極的になっている所がある。その為、同じ汚職の罪で、ある者は銃殺刑により施行され、別の者は北京で執行された為、薬殺刑となったケースが生じ、不公平さを露呈している[28]。 米国・アラバマ州で2024年1月に世界で初めて執行された。マスクを通して高重度の窒素ガスを体内に最長15分間送り込まれ、低酸素症を誘発させ死亡させるものとなっており、薬殺刑に用いる薬剤の入手が困難になったための代替の処刑方法として、アラバマ州、オクラホマ州、ミシシッピ州の3州で死刑執行方法として認められている[29]。 初めて執行された当該死刑囚は2022年に薬物注射による処刑に失敗していたため、今回窒素ガスによる処刑が試みられることとなったが、一部の医療専門家や国連の人権高等弁務官側から「死刑囚が激しく痙攣したり、死に至らずに植物状態になったりするなど、さまざまな悲惨な事態を引き起こす恐れがある」「国際人権法が禁止する拷問やその他の残虐で非人道的な処遇、または尊厳を傷つける処遇に当たる可能性がある」と処刑の停止を求めていた。死刑囚側が起こした執行の差し止めを連邦最高裁が却下したため、2024年1月25日、アラバマ州アトモアのホルマン矯正施設で初の窒素ガス吸入による死刑が執行された。窒素ガス吸引後、死刑囚は身をよじらせ、呼吸が荒い状態が約5分間続き、死に至ったとされる[30]。 ベラルーシ、中華人民共和国(主に一般犯罪に対して。但し、北京を始めとした一部地域は、罪種問わず薬殺刑)、キューバ、北朝鮮、ソマリア、インドネシア、イラン、イエメン、アフガニスタン・アメリカ合衆国ユタ州・オクラホマ州・ミシシッピ州・サウスカロライナ州[31]、死刑を実施するすべての国で死刑囚の身分が現役軍人の場合。 日本でも戦前には陸軍や海軍の軍法会議[32]で適用される場合があった。
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窒素ガス吸入
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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