凝固・線溶系
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それゆえ血友病AおよびBは先天性の凝固障害でも特に重篤な物となる。またX染色体上にマップされており、染色体の末端にも近いことから、他の凝固障害に比べて罹患率が高く、新規に発生する突然変異も無視できない頻度で存在する。


第X因子(スチュアート・ブラウアー因子)第13染色体長腕末端近く(第VII因子に隣接する13q34領域)にマップされたF10遺伝子 ⇒[3]によりコードされる分子量約35000の糖タンパク質で、主に肝でビタミンK依存的に合成され血流に放出される。

第XI因子(血漿トロンボプラスチン前駆物質)第4染色体長腕末端近く(4q35領域)にマップされたF11遺伝子 ⇒[4]によりコードされる80kDaのタンパク質で,S-S結合した二量体を形成し、さらに高分子量キニノゲンと1:1で結合している。

第XII因子(ハーゲマン因子)

第XIII因子:フィブリンの安定化。

プレカリクレイン


高分子キニノゲン(Fitzgerald因子)

検査所見

血液凝固障害における検査所見 ( - 話)状態プロトロンビン時間活性化部分トロンボプラスチン時間出血時間血小板数
ビタミンK欠乏 or ワルファリン延長変化なし または やや延長変化なし変化なし
播種性血管内凝固症候群延長延長延長減少
ヴォン・ヴィレブランド病変化なし延長 or 変化なし延長変化なし
血友病変化なし延長変化なし変化なし
アスピリン変化なし変化なし延長変化なし
血小板減少症変化なし変化なし延長減少
急性肝不全延長変化なし変化なし変化なし
末期肝不全延長延長延長減少
尿毒症変化なし変化なし延長変化なし
無フィブリノーゲン血症延長延長延長変化なし
第V因子欠乏延長延長変化なし変化なし
第X因子欠乏延長延長変化なし変化なし
血小板無力症変化なし変化なし延長変化なし
ベルナール・スリエ症候群変化なし変化なし延長減少 または 変化なし
第XII因子欠乏変化なし延長変化なし変化なし
遺伝性血管浮腫変化なし短縮変化なし変化なし

凝固阻止物質

アンチトロンビンIII(AT3):分子量65000のタンパク質で、肝および血管内皮細胞で発現して血流中に放出される。第Xa因子やトロンビンの作用を阻害する。アロステリック部位へのヘパリンの結合により活性が1000倍にもなる。[1][2]

ヘパリン:多糖類であり、アンチトロンビンIIIを活性化させる。また低分子量ヘパリンはフォン・ウィルブランド因子の活性をも低下させ、血小板との反応を抑制する。

プロテインC:トロンビンにより分解され活性化プロテインC(Activated Protein C; APC)となり、補酵素であるプロテインSと結合する。活性型第V因子や活性型第VIII因子に結合し抑制する。

プロテインS:活性型プロテインC(APC)の補酵素であり、APCと結合し抗凝固作用を示す。


エチレンジアミン四酢酸(EDTA)・クエン酸は血漿中の遊離Ca++イオンをキレート化することでトロンビンの形成を阻止する。両者とも採血した血液の凝固を阻止するために使用される。クエン酸は体内成分でもあり、体内では速やかに代謝されて凝固活性が問題にならない濃度になるため、体外循環回路内や輸血用保存血液の凝固阻止にも使用される。一方、EDTAはヒトの体の成分ではなく、体内では代謝されず二価金属イオンをキレートしたまま尿中へ排泄されるため、抗凝固作用を利用した後人体へ戻されることはない。

アスピリンヒトの体の成分ではなく、シクロオキシゲナーゼを阻害し、血小板のアラキドン酸からプロスタグランジン、トロンボキサンA2(英語版)の生合成を阻害することにより抗血小板作用を発揮する医薬品である。採血した血液に直接加えても、凝固を阻止しない。[3]

ワルファリンヒトの体の成分ではなく血栓形成を抑制する目的で使用される医薬品である。内服すると、肝で血液凝固因子が生合成される際にCa結合部位であるγ-カルボキシグルタミン酸の生成を阻害して血液凝固因子の機能を損なうことにより、血液凝固を阻害する。採血した血液に加えても凝固を阻止しない。[4]

エドキサバンヒトの体の成分ではなく血栓形成を抑制する目的で使用される医薬品である。内服すると、第Xa因子を競合的かつ選択的に阻害し、血液凝固を抑制する。[5]

線溶系線溶系の図(単純化)。青矢印は促進因子、赤矢印は阻害因子を示す。

凝固した血餅は生体にとっては異物であり、組織の修復とともに除去されねばならない。このために存在するのが線溶系である。

血漿中のプラスミノゲンが組織型プラスミノゲン活性化因子(t-PA)もしくはウロキナーゼ(u-PA)によって活性化され、プラスミンになる。

プラスミンは凝固したフィブリンを分解し、D-ダイマーその他の分解産物に変化させる。

線溶阻止物質

プラスミノゲン活性化阻止物質

α1-アンチトリプシン:第14染色体長腕末端(14q32)にマップされたSERPINA1遺伝子によりコードされる分子量約51000の糖タンパク質で、活性化されたプラスミンの作用を阻害する。この欠損によりCOPD(慢性閉塞性肺疾患)を発病する確率が上がることが知られているが、機序は不明である。

α2-アンチプラスミン:第17染色体短腕末端(17p13)にマップされたSERPINF1とSERPINF2遺伝子によりコードされる分子量59000の糖タンパクで、肝で合成され血流に放出される。血漿電気泳動ではα2グロブリンに属し、線溶阻止に果たす役割は上記のα1アンチトリプシンよりも大きい。

トロンビン活性化性線溶阻止物質

線溶系の異常

そもそも侵襲を受けていない血管壁でも血栓の形成と線溶は絶えず繰り返されており、このバランスが崩れると様々な疾患を引き起こす。

多発外傷では組織因子が血液内に流入して凝固系を発動し、また敗血症によるエンドトキシンなどは炎症性メディエイターの誘導を介して血管内皮細胞の抗血小板作用を減弱させるため、身体各部で血栓が形成されて凝固因子が消費され、ついには凝固因子の枯渇に至る。同時に血栓による循環不全を解消すべく線溶系が亢進する結果、止血ができなくなる。これが播種性血管内凝固症候群(DIC)である。DICの治療にはヘパリンを用いるが、AT3が枯渇している場合は効果がないのでAT3も同時に投与する。また凝固因子と線溶系の因子の多く(第II、VII、IX、XI、XIII因子、プラスミン)はセリンプロテアーゼが進化した物であるから、セリンプロテアーゼ阻害薬であるメシル酸ナファモスタットやメシル酸ガベキサートを投与する。
参考文献

Ferguson JJ. et al. "Safe use of platelet GP IIb/IIIa inhibitors." Eur Heart J. 19 Suppl D:D40-51.;1998 Apr ⇒Entrez PubMed
出典^ ノイアート静注用 添付文書 2023年4月改訂第1版, 日本血液製剤機構
^ アンスロビンP注射用 添付文書 2022年4月改訂第25版, KMバイオロジクス/CSLベーリング
^ アスピリン「バイエル」 添付文書 2017年5月改訂第6版, バイエル薬品
^ ワーファリン錠 添付文書 2019年7月改訂第1版, エーザイ
^ リクシアナOD錠 添付文書 2022年10月改訂第4版, 第一三共

関連項目.mw-parser-output .side-box{margin:4px 0;box-sizing:border-box;border:1px solid #aaa;font-size:88%;line-height:1.25em;background-color:#f9f9f9;display:flow-root}.mw-parser-output .side-box-abovebelow,.mw-parser-output .side-box-text{padding:0.25em 0.9em}.mw-parser-output .side-box-image{padding:2px 0 2px 0.9em;text-align:center}.mw-parser-output .side-box-imageright{padding:2px 0.9em 2px 0;text-align:center}@media(min-width:500px){.mw-parser-output .side-box-flex{display:flex;align-items:center}.mw-parser-output .side-box-text{flex:1}}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .side-box{width:238px}.mw-parser-output .side-box-right{clear:right;float:right;margin-left:1em}.mw-parser-output .side-box-left{margin-right:1em}}ウィキメディア・コモンズには、凝固・線溶系に関連するカテゴリがあります。

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