冪乗
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底(英語版) b および冪指数 e をもつ冪は、底の右肩に冪指数を乗せて be のように書かれる。 b n = b × ⋯ × b ⏟ n  個 {\displaystyle b^{n}=\underbrace {b\times \cdots \times b} _{n{\text{ 個}}}}

であり、bn は b の n-乗や、n-次の b-冪などと呼ばれる。

特定の冪指数に対して、固有の名前が付けられている。例えば、冪指数が 2 である冪(2 乗) b2 は「b の平方 (square of b)」または「b-自乗 (b-squared)」と呼ばれ、冪指数が 3 である冪(3 乗) b3 は「b の立方 (cube of b, b-cubed)」と呼ばれる。それ以降は 4 乗、5 乗、… というように「n 乗」という言い方が一般的である。

冪指数が ?1 である冪 b−1 は 1/b であり、「b の逆数」(または乗法逆元)と呼ばれる。一般に冪指数が負の整数 n である冪 bn は、bn × bm = bn + m という性質を保つように、底 b が 0 でないとき bn := 1/b?n と定義される。

冪乗は、任意の実数または複素数を冪指数とするように定義を拡張することができる。底および冪指数が実数である冪において、底を固定して冪指数を変数と見なせば指数函数であり、冪指数を固定して底を変数と見なせば冪函数である。整数乗の冪に限れば、行列などを含めた多種多様な代数的対象に対してもそれを底とする冪を定義することができる。冪指数まで同種の対象に拡張すると、その上で定義された自然指数函数と自然対数函数をもつ完備ノルム環(例えば実数全体 R や複素数全体 C など)を想定するのが自然である。
歴史

歴史上に冪が現れたのは非常に古く、B.C.16世紀ごろに作成された粘土板には平方数表、平方根表、立方根表や三平方の定理について書かれており[1]、エジプト、インド、ギリシアなどでも冪の概念は明示されている。一方で、指数法則に言明する文献は見当たらず「指数概念」には未だ到達していないと考えるべきであるが、冪を意味する英単語 "power" はギリシアの数学者エウクレイデス(ユークリッド)が直線の平方を表すのに用いた語に起源がある[2]。また、「原論」において指数法則 am × an = am+n に相当する命題に言及している[1]が、この時代には算式は発明されておらず、すべて言葉で表現していた[1]
記法

アルキメデスは 10 の冪を扱うために必要となる指数法則 10a • 10b = 10a + b を発見し、証明した(『砂粒を数えるもの』を参照)。9世紀に、ペルシアの数学者アル?フワーリズミは平方を mal, 立方を kab で表した。これを後に中世イスラムの数学者がそれぞれ m, k で表す記法として用いていることが、15世紀ごろのアル?カラサディ(英語版)の仕事に見ることができる[3]

16世紀後半、ヨスト・ビュルギは冪指数をローマ数字を用いて表した[4]

17世紀初頭、今日用いられる現代的な冪記法の最初の形は、ルネ・デカルトが著書 La Geometrie の一巻において導入した[5]

アイザック・ニュートンなど一部の数学者は冪指数は 2 乗よりも大きな冪に対してだけ用い、平方は反復積として書き表した。例えば、多項式を ax + bxx + cx3 + d のように書いた。
用語

15世紀にニコラ・ショケ(英語版)は冪記法の一種を用い、それは後の16世紀にハインリヒ・シュライベル(英語版)およびミハエル・スティーフェル(英語版)が用いている。

16世紀にロバート・レコードは、square(二次), cube(三次), zenzizenzic(四次), sursolid(五次), zenzicube(六次), second sursolid(七次), zenzizenzizenzic(八次(英語版))の語を用いた[6]。4 乗については biquadrate(複二次)の語も用いられた。

歴史的には involution が冪の同義語として用いられていた[7]が現在では稀であり、別の意味(対合)で用いられているので混同すべきではない。
冪指数

冪の肩に書かれる数のことを冪指数と呼ぶ[8]が、冪指数を意味する用語として、英語ではしばしば exponent と index が同義語として用いられる。この用語選定は18世紀、19世紀を通じて極めて曖昧で個人の嗜好に委ねられていた[9]。しかし、ガウスは、その著書 Disquisitiones Arithmeticae において通常の冪指数と数論的な指数を峻別する必要性から exponens は通常の冪指数、index は数論的な指数を表すものとして明確に区別し使い分けて解説に使用しており、この使い分けはディリクレ、デデキント、ヒルベルトを通じて数論の世界での標準となった[9]

もとをたどれば、1544年にミハエル・スティーフェルがラテン語: "exponens" を造語し[10][11]、対して1586年にラザルス・シェーナーが数学者ペトルス・ラムスの書籍への補注としてラテン語: "index" を(スティーフェルが exponens と呼んだものと同じものを指す意味で)用いた[12]のがそれぞれの語源と考えられる。exponent と index はこれらの英語翻訳であり、例えば index はサミュエル・ジーク(英語版)が1696年に導入した[2]

exponent と index の微妙な使い分けと併用の時代はここから始まり、その併用のされ方は国と時代だけでなく個人によっても異なった。イギリスは当初 index が優勢であり、これは聖バーソロミューの大虐殺で殉死したラムスの著作がプロテスタント諸国で非常に人気を集めたからだとの指摘がある[13]
日本語「冪」ウィクショナリーに関連の辞書項目があります。冪

『冪』の字義は「覆う、覆うもの」であって、『』と同音同義である。江戸時代和算家は「冪」の略字として「巾」を用いていた[14]

第二次世界大戦後の漢字制限政策のもと、これらの字は常用漢字当用漢字に含まれず、1950年代以降の学習参考書などの出版物では仮名書きで「べき乗」または「累乗」への書き換えが進められ、結果として初等数学の教科書ではもっぱら「累乗」が用いられた。

冪集合」、「冪級数」などの高等学校以下で扱われない多くの概念に対しては、「冪」の部分が置き換えられることはなく、例えば「べき乗集合」や「累乗集合」などといった表現はあまり生じていない。
定義
自然数乗冪

実数(または積 × {\displaystyle \times } の定義された、より一般には半群)において、元 x と自然数 n に対してxn を x n = x × ⋯ × x ⏟ n   個 {\displaystyle x^{n}=\underbrace {x\times \cdots \times x} _{n\ {\text{個}}}}

で定義する(厳密には再帰的に定義する)。上付きの n が書けない場合には、 x^n という表記を用いることが多い。

この操作を「x の n 乗を取る」などといい、特に n を固定して x を入力とする関数(特に実数 x の函数)と見るときは、冪関数という。x の 2乗、3乗は特に、それぞれ x の平方 (へいほう、 : square)、立方 (りっぽう、 : cube) と呼ばれ、2乗を特に自乗という場合もある。

冪 xn において、x を底(てい、: base、 基数)と呼び、n を冪数、冪指数または単に指数(しすう、 : exponent) と呼ぶ[注釈 1]。必ずしも冪指数とは限らない添字 n をその基準となる文字 x の右肩に乗せる添字記法を指数表記・冪記法などとよぶ場合もある。

厳密には、x の n 乗冪は
x1 = x,

xn+1 = xn × x   (n ? 1)

によって再帰的に定義される。
負の整数乗冪

帰納的定義を見れば下のように拡張するのが自然である。

有理数の範囲で2の冪を例に取ると:

24 = 16

23 = 8

22 = 4

21 = 2

20 = 1

2−1 = 1/2

2−2 = 1/4

2−3 = 1/8

2−4 = 1/16

ただし、底が 0 の場合は「0 で割れない」などの理由から定義しないか、または 00 については 1 と定義するのが一般的である。詳細は「0の0乗」を参照
有理数乗冪詳細は「冪根」を参照

自然数 m に対し、x の m 乗根すなわち m 乗して x になるような数 y がただ一つあるならば、その y を x1/m とし、自然数または整数 n に対しxn/m = (x1/m)n


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