1880年代以降では、大衆向け出版物の増大や文盲率の低下を背景に、産業革命により台頭してきた新しい大衆層が新しい読み物を求め始め、情報とセンセーショナルな内容、異国情緒や恐怖が求められたことによる[4]。コナン・ドイルによる歴史小説も、教条主義的な騎士道小説というだけでない、陽気で個性的な登場人物によって冒険小説としても高く評価された[4]。また19世紀に至るまでのグランドツアーの流行と、19世紀後半からの新たな庶民階層のマスツーリズムのブームは、H・R・ハガードやカール・マイの異国趣味溢れる秘境冒険小説が読者の興味をそそった[4]。19世紀末のイギリスでは、マリー・コレリやアンソニー・ホープも冒険物で高い人気を得た作家だった[4]。そして19世紀には多くの科学技術の知識を盛り込んだ冒険小説によってジュール・ヴェルヌが成功を収めた[4]。
20世紀に入ると、バロネス・オルツィ、ラファエル・サバチニが騎士道型ヒーローによる冒険小説を書いたが、第一次世界大戦後に書かれたサバチニ『スカラムーシュ』(1921年)では自己懐疑的な近代的人物像による物語へと推移していき、ジェームズ・ヒルトン『鎧なき騎士』(1933年)もまた、この戦争により騎士道精神という行動規範を失った男の物語となっている[4]。
冒険小説は、アメリカの革新主義時代から1950年代までのパルプ雑誌でポピュラーなものだった[5]。多くのパルプ雑誌『アーゴシー』『Adventure』『ayanansari』『Top-Notch Magazine』『Short Stories (magazine)』など多くの雑誌がこの専門誌となった。この頃の有名な冒険作家としては、E.R.バローズ、タルボット・マンディ、セオドア・ロスコー、ジョンストン・マッカレー、アーサー・O.フリエル、ハロルド・ラム、カール・ジャコビ、ジョージ・F・ウォーツ[5]、ジョルジュ・サーデズ、H・ベッドフォード=ジョーンズ、J.アラン・ダンなどがいる[6]。1894年に起きたドレフュス事件により、スパイの存在への関心が高まり、アースキン・チルダーズ、ジョゼフ・コンラッド、ジョン・バカンなどが、冒険小説の要素を持ったスパイ小説を執筆し、エリック・アンブラーは否応無しにスパイ活動をせざるを得なくなる「巻き込まれ型」のスパイ小説で、この時代の不安と疑惑を表現して、このジャンルを「高度な現代小説の一主流に引き上げた」[7]とされる[4]。
第二次世界大戦後は、アリステア・マクリーンの作品では、「弱さを抱えた無名の男たち」の極限状況におけるドラマを描いた。