再配分
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狩猟採集集団から中央集権国家に至るまでの人類史における如何なる共同体においても再配分が行われることがあり、それを繰り返して行くうちに徴収と分配に関する意思決定を専門とする組織である政府が出現する[7]。現代の国民国家を例に挙げると、政府が主に徴税国債などの手段によって資源を集約し、福祉産業育成などの手段を通して生産者へ適切に分配することを繰り返してより効率的に生産を行うことを志向する[8]。それは最終的に功を奏して社会保障制度のような成果を生み出すこともあれば、資本家官僚などごく一部の階層にさらに富が集中するような失敗例もある[5]

再配分される過程を集中と放散という二つの物理的な動きとして抽象的に捉えることもできる[9]。資源や富、人材など被配分品の動きを中央に向かう矢と中央から出ていく矢で繋げて表すとしばしば多数の角を持つ星状の図表になる[10]

再配分の範囲が明確な中心と境界をもつ単一の共同体に限定されず、強い権威を持つ中心的存在の介入なしで行われる場合もある[11]こうした営為を再配分に含めるかについては見解が分かれており定かではない[12]互酬交易など共同体の範疇に囚われない経済活動をこのような再配分の一種と見なす考えもある[13]
人類学的な視点

政策としての富の再分配または所得再分配は、富の格差を是正して公平な分配を達成しようとする国民国家の政策を指す。経済学的な視点では累進課税社会保障制度などがこれにあたり、現代における再配分は基本的に貨幣を媒介とする[14]。これに対して人類学的な視点では必ずしも国民国家や貨幣の存在を再配分の前提とせず、家庭内での食物寄託、祝い事などでの饗宴公共建築物の建設、そして暴力行為とそれに伴う収奪などでさえ再配分の性格を持つとされる[14]
再配分の形態
家政

小規模な集団でも家政として再配分が行われた。古代ローマファミリア先秦時代中国宗族中世ゲルマン人ムント、中央アフリカのクラール、スラヴ人ザドルガなどがこれにあたる。家政は集団にとっての食糧調達も指し、ギリシア語のオイコノミア、ドイツ語のハウスハルトゥングがこれにあたる[15]。ガーナのダゴンバ地域では大家族の家の主(yidana)が世帯の再配分の中心となる[16]。家の主は同居家族を食べさせる規範があり、それによって能力が評価される[17]
大規模貯蔵制度

古代メソポタミアシュメルバビロニア帝国エジプト新王国中国の歴代王朝、南アメリカのインカ帝国[注釈 2]など中央集権的な国家が大規模な貯蔵制度による再配分を行った[19][20][18]
祭礼

@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}アフリカではダホメ王国の貢祖大祭、モシ人収穫祭であるバスガなどがその例である[21][要説明]。太平洋のトロブリアンド諸島で交易用カヌーが進水すると行うサガリは、カヌーの建造に関わった人々に食物を配分する儀式である[22]。アメリカ大陸北西部のポトラッチのように、裕福な者からの贈与は再配分と関係を持つ[23]。ニューギニアのツェンバガ(英語版)によるカイコ(kaiko)という祭礼のように、徴収先と分配先が異なる部族共同体である場合も存在する[24]
慈善、喜捨

東ローマ帝国において、貧民に対する食糧支給は大土地所有者である教会によってしばしば行われ、キリスト教の理念の一つである慈善と密接に関係していた。これは市民から教会への寄進によって教会の財産が確立し、その財をもとにして慈善活動が行われたことによる[注釈 3][25]イスラム世界ではイスラム教の「五行」の一つであるザカートに基づいてワクフが行われ、所得の再分配や社会資本の形成がなされた[26]
交易

交易は、共同体がその場にない財を獲得するために行われる。大規模な交易は政府または政府に管理された組織が担い、再配分を用いた管理交易または条約交易が運営された。輸入された財の分配と輸出材の徴集が行われ、共同体の間では条約の存在が前提とされた[注釈 4][28]
市場

再配分は、共同体の内部において市場と結びつくことがあり、そうした市場では食料などの日用品を扱う。古代ギリシアのポリスの再配分には、富裕者の家政(オイコス)を用いた方法、都市国家レベルでの中央集権的な方法、アゴラの市場を用いた方法の3種類があった。アテナイの富裕者だったキモンは古来からの領地にもとづく再配分を行ない、貧困の市民に収穫物を分け与えた。これに対してペリクレスはアゴラの方法を推進し、それまで無料だった法廷の陪審者に報酬を支給し、アゴラで食料を入手できるようにした[29]

中世ヨーロッパでは領主や教会、のちには都市自治体が食料や日用品の流通を促進させ、必要物資を確保するための市場管理を行った[30]。北アメリカでは植民地時代から19世紀にかけて市場法の伝統があり、都市では食料の高騰や欠乏を防ぐためにパブリック・マーケットが設立された。食料品はパブリック・マーケットを通してのみ購入でき、市場外取引、転売、買占めは禁止された。老人、未亡人、身体障害者、貧困者などは売り場使用料や営業時間制限を免除され、路上での行商が認められた。ニューヨークのように冬が厳しい都市では、食料の他に燃料も管理された[31]
保険、社会保障

保険は加入者が掛け金を支払い、それに応じて保険金が支払われる。企業や政府機関に集めた掛け金を加入者に配りなおす制度という点で再配分に含まれる。他の再配分と異なる特徴としてリスクも集められる点がある[注釈 5][33]介護保険の制度は、若年層からの保険料で親や祖父母の介護を可能とするという点で、扶助原理にもとづく所得再配分を含んだ再配分制度としての面がある[注釈 6][35]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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