東ローマ帝国において、貧民に対する食糧支給は大土地所有者である教会によってしばしば行われ、キリスト教の理念の一つである慈善と密接に関係していた。これは市民から教会への寄進によって教会の財産が確立し、その財をもとにして慈善活動が行われたことによる[注釈 3][25]。イスラム世界ではイスラム教の「五行」の一つであるザカートに基づいてワクフが行われ、所得の再分配や社会資本の形成がなされた[26]。 交易は、共同体がその場にない財を獲得するために行われる。大規模な交易は政府または政府に管理された組織が担い、再配分を用いた管理交易または条約交易が運営された。輸入された財の分配と輸出材の徴集が行われ、共同体の間では条約の存在が前提とされた[注釈 4][28]。 再配分は、共同体の内部において市場と結びつくことがあり、そうした市場では食料などの日用品を扱う。古代ギリシアのポリスの再配分には、富裕者の家政(オイコス)を用いた方法、都市国家レベルでの中央集権的な方法、アゴラの市場を用いた方法の3種類があった。アテナイの富裕者だったキモンは古来からの領地にもとづく再配分を行ない、貧困の市民に収穫物を分け与えた。これに対してペリクレスはアゴラの方法を推進し、それまで無料だった法廷の陪審者に報酬を支給し、アゴラで食料を入手できるようにした[29]。 中世ヨーロッパでは領主や教会、のちには都市自治体が食料や日用品の流通を促進させ、必要物資を確保するための市場管理を行った[30]。北アメリカでは植民地時代から19世紀にかけて市場法の伝統があり、都市では食料の高騰や欠乏を防ぐためにパブリック・マーケットが設立された。食料品はパブリック・マーケットを通してのみ購入でき、市場外取引、転売、買占めは禁止された。老人、未亡人、身体障害者、貧困者などは売り場使用料や営業時間制限を免除され、路上での行商が認められた。ニューヨークのように冬が厳しい都市では、食料の他に燃料も管理された[31]。 保険は加入者が掛け金を支払い、それに応じて保険金が支払われる。企業や政府機関に集めた掛け金を加入者に配りなおす制度という点で再配分に含まれる。他の再配分と異なる特徴としてリスクも集められる点がある[注釈 5][33]。介護保険の制度は、若年層からの保険料で親や祖父母の介護を可能とするという点で、扶助原理にもとづく所得再配分を含んだ再配分制度としての面がある[注釈 6][35]。 社会保障のもとになる租税システムをどのように解釈するかで、社会保障と再配分の関係は異なって解釈される。税金を払うことで何らかのサービスを受け取る権利があると主張する場合は再配分よりも交換の概念に近い。税金を払っているのは自分の他にもおり、集められた財の配分を求める場合は交換よりも再配分に近い。このように個人の見通しによって異なる[注釈 7][37]。 インド政府は、カーストによる差別の撤廃と個人の平等を実現するために留保制度 再配分で管理する物資の数量や種類が増えるにつれ、計算や記録も複雑化した。このため再配分システムは、シュメルのトークンとブッラ[42]や、ミケーネ文明の貯蔵制度における線文字B[注釈 9][43]など、初期の文字の発達と関連があるとされている。古代エジプトでエジプト式分数が発達した理由として、再配分による現物経済もあげられている[44]。
交易
市場
保険、社会保障
格差是正
数学と文字「会計史」も参照
出典・脚注[脚注の使い方]
注釈^ 一例として日常生活における時間管理や生活習慣改善(ダイエットなど)。
^ インカにおいては土地の分配、食糧の生産、食糧の貯蔵や分配が管理された。土地は3種類に分類され、太陽信仰のための土地、王の土地、アイユという農村共同体の土地が住民に分配された[18]。
^ キリスト教が4世紀から6世紀にかけて東ローマ帝国で体制化していった経緯は、テオドシウス法典やユスティニアヌス法典などで確認できる[25]。
^ 管理交易では財の交換レート、計測、品質検査、貯蔵、保管、人員などが管理される[27]。
^ 保険の種類によって効果は異なる。リスク細分型の自動車保険では、掛け金の多寡はリスクの高低にもとづいており個人主義的な性格が強い。他方で掛け金をリスクに応じて差異化しない健康保険は、匿名的な相互扶助による富の移転機能がある[32]。
^ 介護保険と同様に所得再配分機能に依拠して設計された制度として年金がある[34]。
^ 福祉国家の体制を持つフィンランドは、予算増大のなかで公的サービスを維持するために市場経済に親和的なケアシステムが模索されている。そうした状況下で、たとえば高齢者ケアにおける緊急通報システムは人的資源が限られるため再配分の論理が強く働いている[36]。
^ 後進集団はその他の後進諸階級