円形脱毛症
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そのため、効果のある治療法としてはステロイドの局所注射や内服ステロイド剤の投与が行われており、内服ステロイド剤は重度の汎発型であっても大幅な改善が見られる(推奨度B:S1以下に用いるべきである[6][3]。また発症半年以内であればステロイドパルス療法などが効果を示すという学術論文があるが、限られた施設で行われるべきである。自己免疫反応を引き起こすリンパ球の産生を押さえるためにステロイド内服をするのであり、ステロイド内服を中止すると再発することが多いがこれはやむを得ぬことである。これは他の自己免疫疾患(膠原病など)と同様である。慢性化した病変部ではリンパ球浸潤が少ない症例も多く、この場合ステロイドは有効ではない。

なお、長期にわたるステロイドの内服は胃潰瘍骨粗鬆症など全身的な副作用のリスクがあるため、定期的な検査を行い、副作用の程度を確認する必要がある。また少量に留めることが多い。
局所免疫療法

局所免疫療法(かぶれ療法)は、スクアレン酸ジブチルエステル(SADBE)、ジフェニルシクロプロペノン(DPCP)などを用いて人工的にかぶれさせ、毛根を攻撃するリンパ球などの免疫反応を変化させる治療法。比較的副作用が少なく小児にも適応となる治療として日本でも徐々に普及してきている(推奨度B:S2以上に用いるべきである[6])。ただしアトピー皮膚炎が併発している場合、悪化する可能性があるほか、ステロイド療法やPUVA療法など他の多くの治療法との併用は出来ない。
免疫抑制剤

免疫抑制剤には、毛根を攻撃するリンパ球を減らす効果が期待されるが、シクロスポリンの効果は有効であるとの報告と無効であるとの報告があり、効果は定まっていない。またタクロリムスの外用は無効である。よって免疫抑制剤の円形脱毛症に対する効果は確立しておらず、円形脱毛症治療ガイドラインでは推奨されていない。
PUVA療法

PUVA療法は紫外線を使った治療方法で、病巣部分にあてる事によって過剰化したリンパ球の抑制に効果がある。入院治療ではステロイドを内服の上、オクソラレン(メトキサレン、8-MOP)を内服し2時間後に紫外線を全身に照射させる方法がメインの治療法としてよく使われており、外来では難しい全身治療で効果を発揮する。現在、浜松医科大学、順天堂大学を中心に行われている。効果の機序は、治療後に末梢血と組織に調節性T細胞が増加するとの学術論文がある。平成22年現在、オクソラレン錠(大正製薬)の市場への販売が停止しており、内服PUVA療法が施行できない状況となっている。その原因として溶解性が一定でないことによるとのことである。
セファランチン

セファランチン健保適用であり、内服ないし静注が行われる。効果の機序は各種報告されているが、はっきりしていないことも多い。日本独自の治療法であり(推奨度C1:治療に併用してもいい[6])、海外ではほとんど採用されていない。
JAK阻害薬【オルミエント】

オルミエント錠(一般名バリシチニブ)4mg・2mgによる治療が2022年6月20日より円形脱毛症の適応となる。ヤヌスキナーゼ(JAK)という酵素を阻害することで、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎や円形脱毛症の病態形成にかかわる、さまざまなサイトカインの働きを抑えることにより、炎症やその症状(関節の痛み、皮膚の湿疹やかゆみ、脱毛など)を改善する。

通常、既存治療で効果不十分な関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)やアトピー性皮膚炎、円形脱毛症(ただし、脱毛部位が広範囲に及ぶ難治の場合に限る)の治療に用いられる。

主な副作用として、上気道感染、帯状疱疹、単純ヘルペス、吐き気、頭痛などが報告されている。異常が認められたら中止する副作用として、感染症、消化管穿孔、間質性肺炎、静脈血栓塞栓症などが報告されています。このような症状に気づいたら、担当の医師または薬剤師に相談してください。
まれに下記のような症状があらわれる場合がある。
[ ]内に示した副作用の初期症状である可能性があるため、下記の様な場合には、使用をやめてすぐに医師の診療を受ける事。

かぜのような症状、体がだるい、発熱、小水疱が帯状に生じる発疹 [感染症]

吐き気、嘔吐、激しい腹痛 [消化管穿孔]

発熱、のどの痛み、貧血 [好中球減少、リンパ球減少、ヘモグロビン減少]

体がだるい、食欲が低下する、白目や皮膚が黄色くなる [肝機能障害、黄疸]

発熱、から咳、呼吸困難 [間質性肺炎]

片方のふくらはぎが赤く腫れたり、ふくらはぎを押すと痛む、急に息苦しく感じたり、胸苦しさを感じる [静脈血栓塞栓症]

その他の治療法

液体窒素療法、ドライアイス療法、塩化カルプロニウム外用などがある。これらは欧米ではほとんど行われておらず、またエビデンスレベルも低いため、ガイドラインでの推奨度は高くない。

精神安定剤、漢方薬療法などは用いないほうがいい(推奨度C2[6])。さらに「波動療法」と言われるオカルト的治療法も存在するが、治験、医学的なエビデンスは全くない。

波動という概念を元にしたホメオパシーも、統計によってプラセボと同等であったため、効果がないと報告されている。
その他

円形脱毛症は、痒みや痛みなど日常生活に障害を及ぼすような影響がないため軽視されがちだが、頭髪や体毛を全て失うというのは本人にとってショックが大きく、引きこもりになったり、他人の視線に恐怖を覚える視線恐怖症対人恐怖症になるケースも多く、それがまたストレスとなり治療の妨げになってしまう事もあり、治療には周囲も気遣う必要がある。

英科学雑誌ネイチャー2010年7月号によると、「円形脱毛症(alopecia areata)の発症に8つの遺伝子が関与していることが明らかにされた。」とある。
疫学

円形脱毛症の年齢分布は、30歳以下で発症する割合が81.8%、特に15歳以下の発症が全体の4分の1を占めているなど若い世代に多いのが特徴。また成長期だけではなく生まれたばかりの幼児でも発症が見られる。

男女比では、やや女性が多い傾向にあり、生理や出産などにより悪化または治癒する事がある。
関連項目

皮膚病

脱毛症

潰瘍性大腸炎

自己免疫疾患

抜毛症

波動 (オカルト)

脚注^ 槇佐知子『日本の古代医術 光源氏が医者にかかるとき』文春新書 (1999年)p.71
^ Alkhalifah A, Alsantali A, Wang E, McElwee KJ, Shapiro J (2010). “Alopecia areata update: part I. Clinical picture, histopathology, and pathogenesis”. J. Am. Acad. Dermatol. 62 (2): 177?88, quiz 189?90. doi:10.1016/j.jaad.2009.10.032. .mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}PMID 20115945. 
^ a b Safavi KH, Muller SA, Suman VJ, Moshell AN, Melton LJ (1995). “Incidence of alopecia areata in Olmsted County, Minnesota, 1975 through 1989”. Mayo Clin. Proc. 70 (7): 628?33. doi:10.1016/S0025-6196(11)63913-X. PMID 7791384. 
^ Madani S, Shapiro J (2000). “Alopecia areata update”. J. Am. Acad. Dermatol. 42 (4): 549?66; quiz 567?70. PMID 10727299. 
^ Olsen E, Hordinsky M, McDonald-Hull S, Price V, Roberts J, Shapiro J, Stenn K (1999). “Alopecia areata investigational assessment guidelines. National Alopecia Areata Foundation”. J. Am. Acad. Dermatol. 40 (2 Pt 1): 242?6. PMID 10025752. 
^ a b c d e 日本皮膚科学会 2010.

参考文献

日本皮膚科学会『日本皮膚科学会 円形脱毛症診療ガイドライン2010』(レポート)、2010年。

日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン2017

外部リンク.mw-parser-output .side-box{margin:4px 0;box-sizing:border-box;border:1px solid #aaa;font-size:88%;line-height:1.25em;background-color:#f9f9f9;display:flow-root}.mw-parser-output .side-box-abovebelow,.mw-parser-output .side-box-text{padding:0.25em 0.9em}.mw-parser-output .side-box-image{padding:2px 0 2px 0.9em;text-align:center}.mw-parser-output .side-box-imageright{padding:2px 0.9em 2px 0;text-align:center}@media(min-width:500px){.mw-parser-output .side-box-flex{display:flex;align-items:center}.mw-parser-output .side-box-text{flex:1}}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .side-box{width:238px}.mw-parser-output .side-box-right{clear:right;float:right;margin-left:1em}.mw-parser-output .side-box-left{margin-right:1em}}ウィキメディア・コモンズには、円形脱毛症に関連するカテゴリがあります。


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