共有結合
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結合に関する英語の「covalence」という用語は1919年にアーヴィング・ラングミュア米国化学会誌に発表した『The Arrangement of Electrons in Atoms and Molecules』と題された論文で初めて使用された[6]

共有結合の着想は1919年の数年前のギルバート・N・ルイスに遡ることができる。ルイスは1916年に原子間の電子対の共有について記述した[7]。ルイスは、外殻の価電子が原子記号の周りの点で表現される「ルイス式」を発表した。原子間に位置する電子の対は共有結合を表わす。複数の電子対は二重結合三重結合といった多重結合を表わす。

ルイスは、原子が十分な共有結合を形成すると外殻が満たされる(閉じる)、と提唱した。ここに示しているメタンの概略図では、炭素原子は4の原子価を持ち、したがって、自分自身からの4電子と結合した水素原子からの4電子の計8電子に囲まれている(オクテット則)。それぞれの水素は1の原子価を持ち、2つの電子によって囲まれている(デュエット則)。電子の数は原子の量子論における満たされた殻に対応する。炭素原子の外殻は n=2殻であり、8電子を収容できる。しかし水素原子の外殻(唯一の殻)はn=1殻であり、2電子しか収容できない。

電子対が共有されるという考え方は共有結合に効果的な定性的描像を与えたものの、これらの結合の性質を理解し、単純な分子の構造および特性を予測するには量子力学の確立を待たねばならなかった。ヴァルター・ハイトラーフリッツ・ロンドンは1927年に化学結合(水素分子)の量子力学的説明に初めて成功したことで高い評価を得ている[8]。彼らの研究は原子価結合モデルに基いている。このモデルは、関与する原子の原子軌道の間に十分な重なりが存在する時に化学結合が形成されると想定する。
共有結合の種類

s軌道を除く原子軌道は特有の方向特性を持つため、異なる種類の共有結合がもたらされる。σ結合は最も強い共有結合であり、2つの異なる原子上の軌道の正面からの重なり合いによって形成される。単結合は通常σ結合である。π結合はσ結合より弱く、p(あるいはd)軌道間の側面からの重なり合いによって形成される。2つの任意の原子間の二重結合は1つのσ結合と1つのπ結合から成り、三重結合は1つのσ結合と2つのπ結合から成る。

共有結合は連結した原子の電気陰性度によっても影響され、これが結合の極性を決定する。等しい電気陰性度を持つ2つの原子は非極性共有結合を作る(例えばH-H)。電気陰性度に差がある場合、 極性共有結合が作られる(例えばH-Cl)。

一般に、π結合はσ結合より結合エンタルピーがやや低い。また、σ結合は結合軸に対して電子軌道が回転対称を持つため、立体配座が結合軸で自由回転できる。一方、π結合は回転対称を持たないため、結合軸で自由回転することが出来ず、立体配座は固定的となり立体異性体を生じることがある。
共有結合構造

共有結合性物質の構造には、個別の分子、分子の構造、高分子構造、巨大な共有結合構造などいくつかの種類が存在する。個別の分子では原子間に強い結合力がはたらいているが、分子間の引力は無視できる程度である。この種の共有結合性物質は大抵気体(例えばHClSO2CO2CH4)である。分子の構造では弱い分子間引力が存在する。この種の共有結合性物質は(エタノールといった)低沸点液体や(ヨウ素、固体二酸化炭素といった)低融点固体である。高分子構造の中では多数の原子が共有結合で連結して鎖状構造を取っている。高分子構造の例は、ポリエチレンナイロンといった合成高分子、タンパク質でんぷんといった生体高分子である。ネットワーク共有結合構造(巨大な共有結合構造)は(グラファイトといった)シート状、あるいは(ダイヤモンド水晶といった)3次元構造状に連結した多くの原子を含む。これらの物質は高い融点と沸点を有し、砕けやすく、高い電気抵抗率を持つ傾向がある。高い電気陰性度と3あるいは4つの電子対結合を形成する能力のある元素は、しばしば大きな高分子構造を形成する[9]
1電子結合と3電子結合通常の共有結合結合と3電子結合の電子構造の比較

1あるいは3電子を持つ結合はラジカル種において見ることができる。1電子結合の最も単純な例は、水素分子イオン(H2+)において見られる。1電子結合はしばしば2電子結合のおよそ半分の結合エネルギーを持ち、したがって「半結合」と呼ばれる。しかしながら、例外も存在する。二リチウムの場合は、2電子結合のLi2よりも1電子結合のLi2+ の方が実際に結合は強い。この例外は混成と内殻効果の観点から説明することができる[10]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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