共同謀議
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だからイデオロギーに由来する犯罪は除外された」[21]と説明している[22][23]

パレルモ条約がテロ対策を目的とすることの論拠として、国連安保理決議第2195号(2014年)[24][25]及び同決議に基づく国連事務総長報告(2015年5月)[26]FATF勧告[27]が引き合いに出されることがあるが、これらの決議や報告は、テロ資金対策としてパレルモ条約を締結する等、テロ組織が国際組織犯罪集団から資金(利益)を得ること及びテロ組織自体が組織犯罪に直接関与し資金(利益)を得ることを防ぐための対処を各国に要請するものであり、これらの決議や報告の文面からは、実利を目的としないテロ行為自体を取り締まる枠組みにパレルモ条約が変化したと主張する内容であると解することはできない[28]

適用される団体や組織の定義の問題

従来より組織犯罪処罰法第2条(#条文)の定義する団体はさまざまな形態をとりうる組織犯罪集団をカバーするべく、その実質から団体や組織を認定するよう広範な形で定義されていて、政府案における共謀罪の対象となる団体や組織はその形式がそのまま踏襲されている。

これまでの組織犯罪処罰法においては、限定列挙された少数の犯罪について、しかも既遂のものについての加重処罰を定める範囲としてこうした定義を用いてきたが、共謀罪政府案では広範な犯罪についての共謀段階についても同じ定義を用いたため、適用団体や組織の範囲が論点となった。
反対派の意見


労働組合の闘争計画の立案や市民団体の各種抗議行動の立案などが組織的な威力業務妨害の共謀とされるなどして集会結社表現の自由を制約してしまう。あるいは居酒屋でそりの合わない上司を叩きのめしてやりたいなどと冗談を言って憂さを晴らせば組織的な傷害の共謀とされるなどして私生活上の自由を制約してしまう。また、著作権法により著作権や著作隣接権、著作者人格権の侵害が対象となることから、ネット上でのファンクラブ活動やゲームのユーザグループの活動において私的使用目的の改変のための情報交換が、権利侵害の証拠なしに共謀罪とみなされうるといった萎縮効果がおこりうる。

共謀罪の対象となる団体についての構成要件それ自体を法的に分析すれば、とくに与党修正案の場合は居酒屋での冗談程度のものは排除されるという点については賛同説のいうとおりとも考えられるが、捜査というものは捜査機関にとって事実関係が不明であるからこそ行われることを考えると、居酒屋での冗談であっても、関係者が被疑者と目されて捜査の対象となり、捜索差押を受けるとか逮捕されるといった種々の権利・自由の制約を受けたり、あるいは社会的評価の低下に見舞われる危険が常に残る。また、本来正当な目的の活動の団体や企業が犯罪目的の団体と化する場合と、正当な目的の活動の団体がたまたま対象犯罪にあたる内容を共謀したが違法性に気がついて着手せず取り止めた場合の区別も、政府案や当初の与党修正案においてはできていない(この点については与党再修正案では一定の前進が見られる)。その危険は、ある程度までは運用により回避できるであろうが、運用の妙に依存するのでは独裁者の慈悲にすがるのと同じであり、根本的な解決とはならない。

パレルモ条約では「組織的犯罪集団」の定義に「金銭的利益その他の物質的利益を直接又は間接に得るため」との文言が入っており、定義自体からも、組織犯罪集団はマフィアや暴力団など専ら金銭的利益を目的とした犯罪だけを目的としている団体のことを指し、通常の会社や市民団体、労働組合などを含まないことがわかるが、従前からの共謀罪法案及び今回のテロ等準備罪法案における「組織的犯罪集団」の定義には、「金銭的、物質的な利益を得る目的」であることを必要とする限定が見られず、この点は政治・宗教目的の行為などを規制対象から除外する上で重要なものであるにもかかわらず無視されているとの意見がある[29]

巧妙化し無差別化するテロ行為を未然に防止するための法整備は確かに必要であるが、テロ犯罪は通常、政治的・宗教的・信条的などの理由に基づいて行われるものであって、利得を主たる目的とするものでなく、しかも単独で行われることがあることから、テロ対策立法は、テロ対策を目的としていないパレルモ条約[17][18][19]の批准のため組織犯罪対策立法とは別個のものとして考えるべきであるとし、テロ対策立法については、フランス刑法の「テロ行為罪」のように、厳格な構成要件によって規定されるべきであり、また、検挙の対象とする準備行為についても、生命・身体に対する重大な侵害等の行為を具体的に規定すべきであるとする一方、今回のテロ等準備罪法案における「準備行為」の解釈に関しては拡張解釈を許すものであり、「刑罰法規の明確性」が要求される罪刑法定主義の基本原則に照らして適当でないとする意見がある[30]。なお、テロ集団が資金集めなど、金銭的利益のために行った犯罪については、組織犯罪対策立法の処罰対象となり得る。また、フランス刑法では、テロ犯罪の処罰に関する条項において、テロ集団の資金洗浄(マネー・ロンダリング)に対して罰則を設けている[31]

賛成派の意見


そもそも、正当な争議行為・合法な市民運動は刑法35条によって違法性が阻却され処罰されない。民主党修正案では、共謀罪の適用団体を極めて限定的に規定しており、通常の労働組合や市民団体が犯罪実行を「主たる目的」としていないのは明白であるのに、反対派は法案の文言を無視して、市民団体への適用可能性に拘っている。

居酒屋の「冗談」は共謀罪に言う「共謀」にあたらないのは明白である。そもそも「捜査」の対象になるであろうという推測自体が疑わしい。捜索、差押えには裁判所が発行する「令状」が必要だが、そもそも明白に適用除外される「居酒屋での冗談」に犯罪の嫌疑があると認定されるわけもなく、令状が発行される可能性は極めて低い。正当な目的の活動団体が、たまたま犯罪行為を共謀し、検討の結果違法と判明した事例について、自民党の中間案に問題があったのは反対論の言うとおりだが、自民党自体がその非を認めて、民主党案に賛成している。議論が古い。

共謀の定義の問題

共謀罪における共謀とは具体的には何か、ということも論点となっている。政府見解は、共謀罪における共謀と共謀共同正犯における共謀が同じものであるとする。それを前提として、既遂の犯罪における共謀共同正犯の認定と同様に実行行為の伴わない共謀を認定することがはたして妥当か、という議論でもある。
反対派の意見


共謀共同正犯については謀議が存在すらしない場合にも成立するとされるように拡大解釈がすすみ、共謀の概念が広がりすぎている。
わいせつ画像の投稿が行われた画像掲示板の管理者が通りすがりの投稿者との具体的なやりとりがないにもかかわらずわいせつ物公然陳列の共謀共同正犯であるとして有罪とされた下級審判例が存在し、また2003年の最高裁判例において暴力団組長について、武装護衛の組員の銃刀法違反に関して目配せすらないのに黙示の共謀が認められ共謀共同正犯が成立したとされる最高裁判例が存在する。共謀罪においてもこうした共謀概念の拡大はそのまま踏襲されることとなり、国会審議においても、目配せやまばたきが共謀となるとの政府答弁があった。このため、嘘の供述をもとに作られたストーリーで冤罪が起きる危険があり、それは犯罪行為が行われていない前提の共謀罪ではより深刻なものとなる。

賛成派の意見


共謀罪の基礎には昭和三十年代の暴力団紛争において(後に、映画化され極道映画ブームの元になった一連の抗争事件)、犯罪実行に自ら加わらない暴力団の組長など「黒幕」処罰を目的として確立された共謀共同正犯という判例理論があり、当時、学会から、拡大処罰の可能性がある、連座制の復活だ、近代刑法の基本原則たる個人責任を没却する、との批判があったが、半世紀後の今日にわたるまで、そのほとんどが暴力団にのみ適用されてきている。


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