F1では1980年代までは主にアメリカ合衆国を中心に多くの公道コースがシリーズに組み込まれていたが、上記のような安全性確保の問題などから、一時公道コースは減少する傾向にあった。しかし近年は技術の進歩により、公道コースでもコンピュータシミュレーションなどを駆使して常設サーキットと同等の安全性が確保できるようになったことなどから、主にチャンプカー・ワールド・シリーズなどが積極的に公道コースを使ったレースを開催している。
2014年から始まったフォーミュラEはプロモーションの都合上からほぼ全戦が市街地コースという珍しいレースであり、マシンの全幅はどの世代も同時代のF3マシンと比べて短く、狭い市街地コースでの追い抜きをしやすくなっている。
F1でも観客の利便性や盛り上がりを優先した結果、21世紀以降は公道コースを使ったレース数が増加する傾向にある。
2020年9月、日本初の公道コースによるレースとして、島根県江津市にて「A1市街地グランプリ」が開催された。但し、最高速度を60km/h程度に制限しての開催であった。日本では交通事故や住民の生活環境の悪化に厳しい目が向けられ、警察が公道レースの許可を出さないことから、公道コースでのレース実現は難しいとされていたが、2024年よりフォーミュラEの東京 E-Prixが東京ビッグサイト周辺の公道を使用してレースを開催している。
主なコースシンガポール市街地コースマン島TTレース
自動車レース
アデレード市街地コース(ヴァージン・オーストラリア・スーパーカー・チャンピオンシップ(VASC)など。 1985年から1995年までF1オーストラリアグランプリが開催されていた。)
アルバートパークサーキット(F1・オーストラリアグランプリ)
モンテカルロ市街地コース(F1・モナコグランプリ、モナコF3)
ロングビーチ市街地コース(F1・アメリカ西グランプリ、インディカー・シリーズ)
フェニックス市街地コース(F1・アメリカグランプリ)
デトロイト市街地コース(F1・アメリカグランプリ)
セントピーターズバーグ市街地コース(インディカー・シリーズ)
バレンシア市街地コース(F1・ヨーロッパグランプリ)
シンガポール市街地コース(F1・シンガポールグランプリ)
バクー市街地コース(F1・アゼルバイジャングランプリ)
ラスベガス・ストリート・サーキット(F1・ラスベガスグランプリ)
ギア・サーキット(F3・マカオグランプリ、世界ツーリングカー選手権)
サルト・サーキット(ル・マン24時間)
ポー市街地コース
本来、一般交通を目的としている公道を競走路とすることには下記のような問題点がある。
交通の遮断
これは程度の差こそあれすべての競技に対して言えることである。レース開催期間中はもちろんのこと、競技によってはレースの前後各1週間程度はコース内の交通規制が行われる上に陸上競技、自転車競技では歩道などでの観戦者も多く、当該道路利用者やコース隣接居住者または隣接施設利用者にとっては不便が発生する。周回路として閉鎖される場合には競技中コース内外の連絡交通はほぼ不可能となる。
危険な道路設備
自転車競技では、常設された道路鋲が走行の障害となる。中でも大型のチャッターバーに乗り上げれば単独転倒のみならず集団落車を発生させるほど危険である。
特にモータースポーツにおいて公道コースは、常設されるサーキット等と比べた場合、下記のような問題点も存在する。
安全設備
公道コースではフェンス等が仮設のものにならざるを得ないほか、エスケープゾーン等を設ける場所が物理的に確保できないこともある。そのためクラッシュ時等の安全性の確保が常設サーキットに比べ難しいとされる。
グリップ不足
常設サーキットではタイヤのグリップを上げるためにわざと目の粗い舗装を行っている場合が多いのに対し、公道コースでは通常の道路同様の舗装であるため、常設サーキットに比べタイヤと路面の間の摩擦係数が低下してしまう。このため通常のサーキット用と比較してさらに柔らかいタイヤを必要とする場合が多い。また道路上に引かれている白線や道路上のマンホール等がマシンの挙動に影響をもたらすこともある。
また公道コースではピット・パドックなどの付帯設備や観客席の確保といった問題も発生するが、モンテカルロ市街地コース等のようにこれらの付帯設備のみを常設とするケースや、そもそも常設のサーキットと公道を組み合わせたコース設定を行い、付帯設備は常設のサーキットのものを使用する(サルト・サーキットがブガッティ・サーキットの設備を利用している例など)といったパターンが多い。
しかし一方では下記のような利点もある。
本来の姿
公道を使用したレースは競走種目の古典的な形態であり、陸上競技、自転車競技はもとより、陸上モータースポーツもその発祥はロードレースでによる。その為、道路使用許可が取得し難い関係から開催が希少な公道レースは、参加者に「本物のロードレースに出ている」という大きな満足感を与える。
観客の利便性
常設サーキットの多くは用地確保や騒音問題等の兼ね合いから比較的田舎に立地することが多く、周辺道路等の交通インフラの問題から大きなレースの際は渋滞などが発生することが珍しくないが、公道コースは交通の便の良い街の中心部に設けられることが多いため、観客の利便性が向上する。