市場経済のみでは供給が困難と考えられる不特定多数が利用する社会資本の整備を行うことにより、地域に直接的・間接的な経済効果が期待できるとされている。
失業を削減するために、公共事業を増やして景気を刺激する政策は財政政策に含まれる。公共事業の増加は有効需要を創出する効果がある。ジョン・メイナード・ケインズは1920年代において既に、不況下にて政府が公共事業を用いて失業率を下げたり経済を下支えしたりすることの必要性と有効性を唱えていた[3]。
直接的な経済効果としては、例えば建設需要による資材消費や、公共工事に携わる従事者の雇用を増大させる等のフロー効果があるといわれ、間接的な経済効果としては、例えば交通網が整備されることにより物流が合理化され、あるいは都市基盤が整備されることで企業等の進出を促すなど、整備された社会資本が地域の経済活動の促進につながる等のストック効果が指摘されている。かつてのアメリカでのニューディール政策やドイツでの計画経済など、各地で景気低迷期に景気回復の効果があったこともあり、当時の経済学者の間では経済波及効果が高いといわれてきた。
経済学者の大竹文雄は「租税を使って公共事業・公共サービスを拡充することは、高所得者から失業者に富の再分配を行うという格差縮小策であると同時に、失業という非効率性を解消する政策でもある」と指摘している[4]。大竹は「長期不況の悪循環を止める唯一の方法は、失業者を公共事業・公的サービスで雇用することである。ただし、無駄な財・サービスを作り出しても意味がなく、それなら失業者に直接お金を渡したほうが資源を浪費せずにすむ。生産能力を高めるような公共事業は意味がない」と指摘している[5]。
公共事業は政治家による利益誘導の温床になりやすく、箱物行政と揶揄されるような弊害を引き起こしやすい。費用対効果の見極めが重要である。また、公共事業対象が建設に傾斜しているため、建設業の肥大を招きやすいという批判がある。
UFJ総合研究所調査部は「公共事業拡大による成長率の押し上げ効果は、あくまで一時的なものである」と指摘している[6]。三和総合研究所は「プラス成長を維持するために、公共事業の『バラマキ』を続けても仕事が増えるのは地場の建設業者ぐらいで、『景気へのプラス効果が波及する』と言われても多くの人にとっては実感できるものではない」と指摘している[7]。経済学者の松原聡は「公共事業によって、建設業・セメント業などの業種は潤うが、ほかの業種への波及効果は小さい。また公共事業で使う機械を国外から購入したり、外国人労働者に頼る場合が多いため、国内の景気刺激につながらない」と指摘している[8]。
経済学者の高橋洋一は「政治的な意味では、公共事業より減税のほうが公平である。公共事業は特定の業者に対する利益供与となるが、減税は国民全員に対して行われるからである」と指摘している[9]。
小野善康は「無意味な公共事業と減税は本質的には同じである。穴を掘って埋めるだけや、環境破壊を引き起こすような公共事業をやるくらいなら、失業を放置したほうがまだましである」と指摘している[10]。小野は、満足度を高める公共事業・公的サービスを増やすことで失業を減らすことが、一番の不況対策になるとしている[5]。
経済学者の伊藤元重は「現実の世界では、穴掘りのような無駄な公共事業は不要である。道路建設・研究開発といった社会的に意味のある支出によって、同じ刺激効果が期待できる」と指摘している[11]。
経済学者の岩田規久男は「民間投資誘発型の公共投資は、土木工事関係者の所得を一時的に増やすという単発的効果ではなく、社会資本整備が民間資本と結合し、恒久的な所得を生み出す効果を持っている」と指摘している[12]。 公共事業は、それ自体が需要を増加させるだけでなく、公共事業から所得を得た人が消費し、それがさらなる消費を生むという乗数効果がある[13]。公共事業費には、土地の購入費も含まれており、土地の購入は付加価値を生み出さないためGDPには直接影響を与えない[14]。 森永卓郎は「公共事業の景気拡大効果が落ちてきているのは事実である。現在(2002年)の経済学者たちの検証で明らかになっている。ただし、公共事業が景気対策として即効性があるのは事実である。少なくとも投資総額分の効果はある」と指摘している[15]。 経済学者のポール・クルーグマンは、道路・ダムの建設などの社会資本の整備に使う公共事業の乗数効果は、1.5位あるとしている[16]。 経済学者の原田泰は「マクロ計量モデルによる近年(2009-2014年)の研究結果では、1兆円の公共事業をするとほぼ1兆円のGDPが増えるという結果となる。政府支出を増やせばその分だけGDPが増えるという結果である。これは乗数が1ということであり、乗数というほどの効果はないことになる。さらに、これは金融政策も発動した結果であり、金融政策を発動しない場合には乗数は1以下になってしまう」と指摘している[17]。 大竹文雄は「無駄な公共事業が、景気対策と考えられていたのは、政府の支出は100%便益を高めることになるというGDP計算上の仮定によっていただけである」と指摘している[4]。 経済学者の小野善康は「国民経済計算では、公共事業は所得として計上される。これが誤解を生み、公共事業には所得増大効果があると思われているだけである。公共事業の本当の効果は、できた物の価値だけである。数字上での乗数効果だけが強調され、批判する側も乗数効果が小さいということが問題であるとしている。消費関数は、妥当性が疑問である上、乗数効果という見せかけの効果の根拠となった」と指摘している[18]。 経済学者の小塩隆士は「公共事業の乗数効果が発揮されるためには、いったん引き上げられた公共事業の水準をそれ以降も維持しなければならない。景気が上向きでない段階で公共事業の水準を元に戻してしまうと、公共事業はむしろ景気の押し下げ要因になってしまう」と指摘している[19]。 岩田規久男は「現在の借金によって実施された公共投資が将来のGDPを高めるのであれば、累積残高の対GDP比率を引き下げることができる」と指摘している[20]。 原田泰は「公共事業の実質GDPを引き上げる効果は、予算で決められた名目の支出額を建設の物価指数で割ったものに依存する。建設物価が上がれば、公共事業の効果は削減される。公共事業は、経済の下支えにはならず、経済効率を低下させる。財政赤字を問題にするのなら、公共事業は増やすべきではない」と指摘している[21]。 経済学者の竹中平蔵は「『不況だから公共事業を増やす』ということは言われるが『好況だから公共事業を減らす』ということは言われない。一度政府から仕事をもらうとそれが既得権益化し、公共事業を減らそうとすると強い反発があるからである」と指摘している[22]。 経済学者の高橋洋一は「費用対効果がプラスとなる公共事業については、行う価値がある」と指摘している[23]。高橋は「公共事業については、その後に追加するコスト(費用)と完成した場合の便益を計算する必要がある」と指摘している[24]。 大和総研は「公共事業の役割を軽視し過度な緊縮財政を続ければ、財政は健全化しても社会資本ストックが不足し、国民生活の質・経済の供給力を低下させることになる。公共事業は財政面のみで議論せず、規模の適正・質の向上に着目することが大事である」と指摘している[25]。 みずほ総合研究所は「単なる公共事業の削減は、経済にデフレをもたらすだけである」と指摘している[26]。 国・地方の産業構造を歪める可能性がある、という批判もある。 政府が道路・建物などを建設する際、建設業を中心に雇用機会が創出されるが、これらの公共事業を通じた雇用拡大策は、すでに競争力が弱くなった産業を政府支出によって支えるという側面があるため、経済構造を硬直させるという弊害も指摘されている[27]。 小塩隆士は「政府が公共事業を増やした場合、民間企業の設備投資が抑制されることも考えられる。深刻な不況であるならこうしたケースは考えられないが、建設資材・労働者が不足する場合である」と指摘している[28]。「産業構造の転換」も参照 小野善康は「公共事業の場合、国民は便益を受ける場合は当然と思っても、負担には不満を感じる。公共事業は、受益と負担の関係が明確ではなく、損した気分になりやすい」と指摘している[29]。「受益者負担の原則」および「フリーライダー」も参照
乗数効果
財政とのバランス
産業構造
受益と負担の関係
Size:101 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
担当:undef