党議拘束
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また、党内意思決定機関で党の意思が最終確認された後にも党内の反対派に造反のおそれがある場合には、本会議の採決には党議拘束がかかっていることを強調することで党内の反対派の動きの牽制が図られることもある[5]

日本の国会では殆どの案件で党議拘束がかかることから、衆議院過半数を占める与党の党議拘束がかかった場合、与党と利害が反する議員立法の法案は成立することはない(「少数与党」の状態はあり得ないため)。五十嵐敬喜は『政策決定プロセスにおける(行政府)官僚支配を決定的にしているのが国会審議における党議拘束であり、(行政府)官僚はこれがあるかぎり与党(与党議員)とだけ調整していればよいのである』と分析しており、党議拘束は国会改革における重要な議題の一つとしている[6]

国会議員への党議拘束は日本国憲法第51条の「両議院の議員は、議院で行った演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない」から違憲とする意見があるが、院外の公権力によって議院内の活動に対して議員に責任を問うことを禁止しているのであって、党所属の国会議員を政党内部において政党の処罰をすることは禁止されていないとする観点より、合憲とする説が有力である。
イギリス

イギリスの議会では原則として予算案の議決には下院与党の党議拘束がかけられ、非常に党派性のつよい二大政党制が実施されている。これはマニフェスト選挙とともにイギリスの半代表制議会制度を象徴しており、国民有権者の投票の結果としての契約(マニフェスト)に対して忠実であるべき下院の伝統とされている。一方で議員の自由委任に関わる反論も根強く、若手議員(バックベンチャー)を中心とした造反がしばしばみられる。上院では党議拘束は下院にくらべて少なく、これは上院が貴族院であるという事情が背景にあり民主的正当性がないことが影響しており、国民の目から「議員としての正当性ある者」として見られることが大きな焦点となることが影響している。イギリスではソールズベリー・ドクトリンの伝統から政権選択選挙(下院選挙)の争点として明確に掲げられた政策課題については、原則として下院の決定を上院が覆すことはないため、上院は下院より詳細な審議をおこない年間3000-4000の修正をおこなうことで、下院党派とはことなる見識を議会に提供している[7]。なお、このようなソールズベリー・ドクトリンを絶対視する理解は、実態を見た場合誤りであるという指摘もある。小堀眞裕によれば、ブレア政権のIDカード法案に関しては、それがマニフェストでも明記されていたにもかかわらず、貴族院で強力な抵抗にあい、政府法案は12回も敗北させられた。実際に、上下両院で合意されている内容は、マニフェスト関連法案の本質を崩さない限り、時間の許す限り修正することができるという合意であり、マニフェストに書かれたものであれば、政府法案は盤石で上院を通過できるという理解は誤りである[8]

イギリスの議会においては、「投票指示」という形で3レベルの党議拘束がかけられている。投票内容について議員に明示的な指示を行うことは議会特権を侵す恐れがあることから、党の要求は明確に、しかし間接的に提示される。党議拘束は院内総務 (whipという)が毎週、所属議員に対して送付する、向こう2週間の議事と投票日時の見込みを記した登院命令書(これも whip という)により行われる[9]。採決が行われる日に「貴殿の登院は絶対不可欠である (Your attendance is absolutely essential)」といった文が付されたうえで、拘束の厳しさが1本から3本の下線で提示される。

一本線(single-line whip):登院要請。党の方針についてのガイドであり、採決が予想される日を通知するもの。登院または投票は拘束されない。

二本線(two-line whip または double-line whip):登院命令。党の立場に応じて投票を部分的に拘束し、院内総務による事前の許可がない限り登院必須とされる。

三本線(three-line whip):登院厳重命令。投票は党の立場に完全に拘束され、院内総務は相当な理由がない限り欠席を許可しない。造反は重大な規律違反として取り扱われ、党内派閥あるいは党からの除名もありうる。通常は不信任決議や予算など、重要事案の採決に限って指示される。取り扱いや懲罰の厳しさは政党や議院によっても異なる。

アメリカ合衆国

アメリカ合衆国議会では法案に対してほとんど党議拘束がかけられていないため、議案ごとに個々の与野党議員が是々非々で交差投票(クロスボーティング)を行う。委員長選出などの議事運営上での選任投票など党派色の強い案件を除き、党議拘束は緩く法案ごとに同調する議員をまとめている[10]。これは大統領を頂点とする行政府に権力を付与するために議会において党議拘束が求められる必要がないということが大きい。

政党規律が弱く利益団体(圧力団体)が個々の議員の表決に影響力を行使しやすい政治構造ということもありロビー活動が特に活発となっているが[11]、利益集団の数が著しく増加するとともに利益集団政治が政党の衰退の一因となっているという指摘もある[12]。政党のリーダーとたとえば地元選挙区の意見や利害が衝突した場合には、議員は政党の拘束よりも地元の利害に基づいて判断し、議会での投票行動をおこなう[13]。下院を通過する法案の数が提出法案全体の1割程度と極めて低いが[14]、所属政党の決定とは関係なく議員は個人で法案提出が可能であるために法案提出が個々の議員の政治的意見の主張や選挙区や利害団体へのアピールのために行われている背景があるとの指摘がある[15]
脚注
注釈

出典
^ a b 久保文明 編, アメリカの政治, p. 79 
^ 久保文明 編, アメリカの政治, p. 160 
^ 堀本武功 編, 現代アメリカ入門, p. 63 
^民主・前原氏「一任取り付け」宣言 党内手続き打ち切り 朝日新聞2012年6月19日
^首相、造反阻止に「最後まで責任果たす」 衆院特別委 朝日新聞2012年6月25日
^ 「政策決定プロセスの再検討」五十嵐敬喜(日本公共政策学界年報1998) ⇒[1]P.13(PDF-P.13)
^ 「参議院憲法調査会における海外派遣調査の概要」参議院憲法調査会(H17.4)[2]P.116(PDF-P.122)およびP.192(PDF-P.198)
^ 小堀眞裕『国会改造論』(文春新書)
^ 宮畑建志、2011年12月、「英国保守党の組織と党内ガバナンス ―キャメロン党首下の保守党を中心に―」 (pdf) 、『レファレンス』(731)、国立国会図書館
^ 「参議院憲法調査会における海外派遣調査の概要」参議院憲法調査会(H17.4)[3]P.6(PDF-P.12)
^ 久保文明 編, アメリカの政治, pp. 160-161 
^ 堀本武功 編, 現代アメリカ入門, pp. 63-64 
^ 「参議院憲法調査会における海外派遣調査の概要」参議院憲法調査会(H17.4)[4]P.39(PDF-P.45)
^ 久保文明 編, アメリカの政治, p. 89 
^ 久保文明 編, アメリカの政治, p. 88 

関連項目

強行採決

多数決

数の論理

最小勝利連合


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