免疫系
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自然免疫系による防御は非特異的であり、病原体に対して包括的な応答を行う[3]。つまり様々な病原体に対して別個に応答するのではなく常に汎用的な方法で対処するがゆえに、効力を発動するまでの時間が短く、いわば常に臨戦態勢にある。反面、獲得免疫系のような免疫記憶が無く、長期にわたって防御する仕組みではない。

自然免疫系は大部分の生物にとって宿主防御の主要な系であり[4]植物菌類昆虫多細胞生物哺乳類などの高等脊椎動物を除く)においては主要な防御システムである。原始的な生命も持っており、進化的に古い防御方法であると考えられている。また、Toll様受容体、Nodタンパク質、RIG-I(病原微生物に対するセンサー)などの研究が20世紀末から進展し、自然免疫が高等動物にも存在するのみならず、獲得免疫が成立する前提として重要なメカニズムである(たとえばマクロファージ樹状細胞が病原体の存在により直接活性化される)ことが明らかとなった。
体液性すなわち化学的防壁
炎症

炎症病原体感染や刺激に対し免疫系が最初に起こす応答の一つである[19]。炎症の徴候は、発赤[20]疼痛、熱感[21]腫脹の4つで、組織に流入する血液の増加によって起こされる。

炎症は傷害や感染を受けた細胞分泌するエイコサノイドサイトカインと呼ばれる特定の化学伝達物質群などの化学的因子によって起こり、感染に対する免疫機構の正常な反応である。エイコサノイドにはプロスタグランジンが含まれ、この物質は炎症に関係した場合、発熱と血管拡張を起こす。また同じくエイコサノイドに含まれるロイコトリエンはある種の白血球(リンパ球)に作用する[22][23]。サイトカインの種類には白血球間の情報伝達に関与するインターロイキン走化性を促してマクロファージなどを呼び寄せるケモカイン、宿主細胞のタンパク質合成を停止させるようなウイルスに対して、抗ウイルス活性をもったインターフェロンなどがある[24]。増殖因子や細胞毒性因子も分泌される場合がある。これらのサイトカインや他の化学物質は免疫細胞を感染部位に動員し、病原体を排除してから損傷を受けたあらゆる組織の修復を促す[25]
補体系詳細は「補体」を参照

補体系は、外来細胞の表面に攻撃を加える、或は他の細胞によって破壊されるよう指標を付けるための抗体能力を補助(補う)する生化学的カスケード(連鎖)である。補体とは、抗体の機能を補助、あるいは補完するたんぱく質である。20以上のタンパク質が関与し、抗体による病原体殺滅を補 強する能力をもつ、という意味で名づけられた。補体は自然免疫応答において主要な体液性要素をなす[26][27]。補体系をもつ種は数多く、哺乳類に限らず、植物魚類無脊椎動物の一部など、ある程度原始的な生物でも持ち合わせている[28]

ヒトではこの応答はこれら微生物に付着した抗体に補体が結合することにより、あるいは微生物の表面の炭水化物に補体タンパク質が結合することにより活性化される。この認識シグナルが、速やかな殺滅応答を発動する[29]。応答のスピードを決めるのは引き続いて起こる補体分子のタンパク質分解の活性化によって起こるシグナル増強の程度である。多くの補体タンパク質はタンパク質分解的切断によって活性化されるとプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)に成る。補体タンパク質が微生物に付着した後、補体自身のタンパク質分解酵素活性が発現し、続いて他の補体タンパク質分解酵素が活性化され、これが連続して起こる。これは触媒反応カスケードを引き起こし、最初のシグナルを正のフィードバックでコントロールしながら増強するものである[30]。補体がこうしてまとわりつくことによって細胞膜は破壊され病原体は殺される[26]。補体の活性化によりしばしば感染細胞の原形質破壊が起こり、それによる感染細胞の細胞溶解、病原体の死を引き起こす。補体機構の最終産物C5b6789は別名細胞膜障害性複合体とも言い、感染した細胞や感染源の細胞膜を破壊することで、サイトリシスや溶菌を起こす。これを免疫溶菌現象、あるいは免疫溶菌反応といい、細菌への防御においては好中球の貪食と並び重要な機構である。カスケードはペプチドを産生して免疫細胞を誘引し、血管の透過性を更新し、病原体の表面をオプソニン化(コート)して破壊できるようマークを付ける。補体系は病原体表面をオプソニン化(或はコーティング)することで、病原体が他の細胞に破壊されるよう札(タグ,tag)を付け、炎症細胞の回復を誘発し、中和された抗原抗体複合体の残骸を除去する。
細胞による防壁正常なヒトの循環血液の、走査型電子顕微鏡(SEM)画像。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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