免疫系
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最も簡単なのは、上皮の防壁で、細菌ウイルスが生体に侵入するのを防ぐことである。病原体がこの防壁を突破して体内に侵入すると、即座に自然免疫(先天性免疫とも呼ばれる)はそれを感知し非特異的に対応して排除する。自然免疫はあらゆる植物および動物に認められる[4]。しかし病原体が自然免疫もうまく逃れたなら脊椎動物は第3階層の防御反応を繰り出す。これが獲得免疫であり、一度感染源に接触することで自然免疫によって発動される。後天性免疫系は病原体を認識して攻撃するが、感染を受ける間、応答を病原体への認識が改善されるよう適応する。この機構は、病原体が排除された後も免疫記憶として残り、次いで、同一(あるいは非常に似通った)の病原体に遭遇する度に強化される仕組みになっていて、より早く強力な攻撃が加えられる[5]

免疫系の構成要素項目上皮の防壁自然免疫獲得免疫
病原体抗体の反応非特異的 非特異的特異的
接触後最大応答までの時間接触前に排除短い(即座)初回は長い(病原体に適応するための遅延)、2回目以降は短い(即座)
関与する成分細胞性免疫細胞性および体液性免疫
細胞の名称上皮白血球リンパ球
免疫記憶なしなし(免疫記憶#自然免疫記憶)あり
生物界での分布ほとんど全ての生物ほとんど全ての生物顎をもった脊椎動物

上皮の防壁

病原体に曝露された細胞上皮(いわゆる皮膚だけでなく、粘膜腸管などを含む)には生体感染から守る防壁があり、機械的、化学的、生物学的に守っている。表面の防壁(en:Immune system#Surface barriers)とも。
機械的防壁

に見られるワックス性クチクラ昆虫外骨格、産み落とされたの殻や、そして皮膚。これらは機械的防壁の例であって、感染に対する防御ラインの第一線にある[3]。皮膚は上皮、外層、真皮から構成され、ほとんどの感染因子を機械的に遮断する。

しかし、性尿器路など、外界と交通する開口部分を守るのには他の系を作動させる。例えば、肺と気管では、くしゃみの気流と繊毛の動きによって、眼は、性尿器路は尿、(鼻腔や呼吸管などの)呼吸器や、(口腔や胃腸などの)消化器は粘液により微生物を捕らえ絡み取る[6]
化学的防壁

化学的防壁も感染防御に働く。皮膚は、ケラチンを豊富に含む細胞がきっちり密に並んで構成されている。これがを弾き、皮膚を弱酸性に保つため、皮膚はバクテリア増殖を抑える化学的防壁としても働く。皮膚や呼吸管はβ-ディフェンシンのような抗微生物ペプチドを分泌する[7]唾液母乳に含まれるリゾチームホスホリパーゼA2等の酵素抗菌作用がある抗細菌物質である[8][9]膣分泌液初経後のわずかにでも酸性に傾いたとき化学的防壁として働くし、精液病原体殺滅性のあるスペルミンディフェンシン亜鉛を含む[10][11]分泌液として胃液には胃酸が極端な低pHを示すとともに消化酵素タンパク質分解酵素を含んでおり、摂取された病原体に対して強力な化学的防御の働きがある。
生物学的防壁

生殖尿管胃腸管では共生している細菌叢が病原菌養分や繁殖場所をめぐって病原体と競争して生物学的防壁として機能する。この場合、pHや利用できるイオンのような環境を変えることもある[12]。このことは病原体が発症可能な個体数まで増殖できる可能性を減らす。内では、腸内細菌が働いている。ヨーグルトに通常含まれている乳酸菌のような純粋培養によって良性細菌叢を再導入することは、子供たちの腸管感染での微生物集団のバランスを健康なものに保つのを助ける働きがあるという証拠が出されている。これは細菌性胃腸炎炎症性腸疾患尿路感染症、術後感染の研究の予備的データに希望を与えている[13][14][15]

細菌性の感染症に対してはしばしば抗生物質が用いられるが、大部分の抗生物質は病原体となる細菌と正常な細菌の両方に非特異的に作用するし、カビには効かないので、抗生物質の経口投与によって、真菌を異常に増殖させ、膣カンジダ症のような真菌症を引き起こす場合がある[16]
自然免疫「自然免疫系」も参照

病原体上皮での防壁を突破し、微生物毒性物質が生体内にうまく侵入できると、続いて生体内の自然免疫系(先天性免疫系)と対峙する。これは体液的・化学的・細胞的な防壁による宿主の保護機構である。白血球やリンパ球などの細胞や機構が動員されて宿主を守り、その際に通常は炎症反応が起きる。この自然免疫応答は普通生体が微生物を構造パターン認識受容体で感知するときに発動する。この構造パターンは広い範囲の微生物グループの間で保存されている[17]。あるいは細胞は障害を受けると警戒シグナルを出す。それらの全てではないが多くは病原体を認識する同じ受容体によって感知される[18]。自然免疫系による防御は非特異的であり、病原体に対して包括的な応答を行う[3]。つまり様々な病原体に対して別個に応答するのではなく常に汎用的な方法で対処するがゆえに、効力を発動するまでの時間が短く、いわば常に臨戦態勢にある。反面、獲得免疫系のような免疫記憶が無く、長期にわたって防御する仕組みではない。

自然免疫系は大部分の生物にとって宿主防御の主要な系であり[4]植物菌類昆虫多細胞生物哺乳類などの高等脊椎動物を除く)においては主要な防御システムである。原始的な生命も持っており、進化的に古い防御方法であると考えられている。また、Toll様受容体、Nodタンパク質、RIG-I(病原微生物に対するセンサー)などの研究が20世紀末から進展し、自然免疫が高等動物にも存在するのみならず、獲得免疫が成立する前提として重要なメカニズムである(たとえばマクロファージ樹状細胞が病原体の存在により直接活性化される)ことが明らかとなった。
体液性すなわち化学的防壁
炎症

炎症病原体感染や刺激に対し免疫系が最初に起こす応答の一つである[19]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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