傷病手当金
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受給中に保険者を異動し同一の傷病について新たに加入した保険者から傷病手当金の支給を受ける場合、当該新たに加入した保険者において再度傷病手当金の額を算定し直す。同一の保険者で同一の傷病に関し、一度傷病手当金の額が決定すれば、その金額で固定され、その後定時決定等で標準報酬月額が変更されても、傷病手当金の金額は変更されない。なお直近の継続した12か月以内において被保険者の所属していた健康保険組合に合併・分割・解散があった場合は、当該事象が発生する前に定められた標準報酬月額は平均の算定に加えてよい。

健康保険組合の場合、付加給付として(第53条)、規約で定めるところにより、支給額の上乗せや支給期間の延長がなされる場合がある。

日雇特例被保険者の場合は、保険料納付期間において保険料が納付された日に係るその者の標準賃金日額の各月ごとの合算額のうち最大のものの45分の1に相当する額となる(第135条2項)。

同一の傷病事由についての支給期間は、現実の支給開始日から起算して、通算1年6か月である(第99条4項)。途中でいったん労務に服した後に再度同一の傷病により休業した場合、従来は支給期間の延長はされない扱いとなっていた(支給開始日から暦日で1年6か月経過した場合、支給日数が1年6か月に満たない場合であっても支給は終了した)が、2022年1月の改正法施行により、支給日数が1年6か月に至るまで通算される扱いに変更となった。受給中に保険者間の異動があっても、前後を通算して1年6か月となる。傷病手当金の支給を受けている被保険者が、監獄・労役場その他これらに準ずる施設に拘禁されたとき(給付制限を受けたとき)も、その期間は1年6か月の期間内に包合する(昭和4年7月10日事発1175号、昭和5年8月26日保規451号)。なお、日雇特例被保険者の場合は支給期間は6か月(結核性疾病の場合は1年6か月)となり(第135条3項)、船員保険の場合は3年となる(船員保険法第69条3項)。事業所の公休日についても傷病手当金は支給される(昭和2年2月5日保理659号)。支給を受けている被保険者が死亡した場合、死亡当日までは傷病手当金が支給される。

「支給を始める日」とは、実際に傷病手当金の支給を始める日を指す。一般的には先に年次有給休暇を取得して(賃金が100%保障されるため)、それでもなお休業が続く場合に傷病手当金の受給を始めることになるので、「支給を始める日」は年次有給休暇を取得し終わった翌日(年次有給休暇を取得しなかった場合や、取得日数が2日以下の場合は、待期満了の翌日)となる。また報酬との調整(後述)により傷病手当金の支給が停止されている場合は、報酬が支給停止または減額支給により傷病手当金の額が少なくなった日が「支給を始める日」となる(昭和25年3月14日保文発571号、昭和26年1月24日保文発162号)。なお待期満了時に傷病手当金が支給されない場合、「支給を始める日」に改めて平均標準報酬月額を算定し直して傷病手当金の額を決定する。

傷病手当金を受給中に、別の傷病によりこれについても療養のため労務不能の状態となった場合、後発の傷病により労務不能となった日から起算して4日目から後発の傷病による傷病手当金が支給されるので、結果的には後発の傷病手当金が支給終了するまで支給期間が延長される(昭和26年6月9日保文発1900号、昭和26年7月13日保文発2349号)。ただしこの場合、二重に傷病手当金が支給されるのではなく、前後の傷病手当金のうちいずれか額の多いほうが支給される。

なお、傷病手当金を受給しているからといって、被保険者の保険料負担が免除されるわけではない。傷病手当金自体は、健康保険法でいう「報酬」には該当しないため、傷病手当金から保険料を控除することは認められない。
継続給付の要件

退職などにより被保険者の資格を喪失した場合でも、その前日(退職の当日)まで1年以上継続して被保険者の資格を有しており、傷病手当金の給付要件を満たしていれば、引き続き傷病手当金の給付を受けることができる(第104条)。受給手続きは在職時の場合と同様であるが、事業主の証明は不要である(昭和2年2月15日保理658号)。

前記の給付要件に準じるほか、次の要件がある。
退職の当日まで1年以上継続して被保険者の資格を有していること(任意継続中の期間は含まれない)。この場合は必ずしも同一の保険者でなくてもよく、また資格の得喪があっても1日の空白もなく被保険者資格が連続していればよい(附則第3条6項)。任意継続被保険者となる場合の要件と異なり、この場合は任意適用事業所の取消による資格喪失も含まれる。船員保険の場合は、「1年以上継続して」が「1年間に3か月以上、また3年間に1年以上の強制被保険者だった者」となる(船員保険法第69条6項)。

資格喪失時に傷病手当金の支給を受けている、又は受けうる状態にある者(報酬との調整のために支給が停止されている場合を含む)。休み始めて3日目に退職した場合、待期は完成するが「支給を受けうる状態」とはならないため、継続給付を受けることはできない(昭和2年9月9日保理3289号、昭和32年1月31日保発2号)。退職日まで年次有給休暇扱いで報酬の全額が支給され傷病手当金が支給されていない場合、「支給を受けうる状態」と取扱い、継続給付を受けることができる(昭和5年4月24日保規270号、昭和32年1月31日保発2号)。

在職中、退職日、退職後のいずれも疾病や負傷により業務に従事できないこと。退職日当日に出勤の事実がある場合(労務不能と認められない場合)、退職後の傷病手当金給付は受けられない。例え職場への挨拶目的、私物整理、会社関係者との面談だけであっても出勤とされる場合には、給付が受けられないことになる。退職後の「労務不能」とは、事業場において従事した当時の労務に服することができないのと同程度のものをいう(昭和2年4月27日保理発1857号)。

支給の除斥期間(暦日で1年6か月経過)を過ぎていないこと。資格喪失後の傷病手当金は、資格喪失前後を通算して法定の支給期間が終了するまでの期間支給される。なお、被保険者期間中とは異なり、断続しては受けられないので、いったん支給が打ち切られると、1年6か月の期間中であっても支給が復活することは無い(昭和26年5月1日保文発1346号)。また、請求手続を行わなかったために権利の一部が時効で消滅した場合、まだ時効の成立していない残余の期間についても支給されない。

傷病手当金は原則として任意継続被保険者には支給されないが、上記の要件を満たす者が任意継続被保険者となった場合には支給される。なお、同一の健保の任意継続被保険者でないと給付しないとする健保組合も一部に存在する。退職後の給付には付加給付が付かないか、または任意継続被保険者であることを要件とする組合もある。また、特例退職被保険者は上記の要件を満たしても傷病手当金は支給されない(附則第3条5項)。なお船員保険の場合は疾病任意継続被保険者(健康保険における任意継続被保険者に相当)又は疾病任意継続被保険者であった者に対しても傷病手当金は支給されるが、当該被保険者の資格を取得した日から起算して1年以上経過したときに発した傷病については傷病手当金の支給は行わない(船員保険法第69条4項)。

健康保険の被保険者であった者が船員保険の被保険者となったときは、船員保険から給付が行われるので健康保険からは傷病手当金の継続給付は受けることはできず、また選択の余地もない(第107条)。
併給調整・他法との調整

同一の疾病、負傷について労災保険または
公務災害から傷病手当金に相当する給付を受けることができる場合、傷病手当金はその全額が支給されない(第55条1項)。

休業期間中に傷病手当金の金額以上の報酬(控除前の総支給額。昭和24年12月26日保文発2478号)を得た場合は支給されず、傷病手当金の金額未満の報酬を得た場合は差額支給となる(第108条1項)。なお被保険者期間中に老齢年金を受給しても調整は行われない。

これは欠勤した日に報酬の全部又は一部が支給される場合の調整規定であり、出勤すればそもそも「労務不能」とならないので支給されない。

何等の成文もなく、ただ慣例として事業主の意思により私傷病の場合においても金銭を給付し、名目を休業手当、休業扶助料、見舞金等と称しているものは単に病気見舞であり報酬と認められず第108条の適用はない(昭和10年4月20日保規123号)。見舞金その他名称の如何を問わず、就業規則又は労働協約等に基き、報酬支払の目的を以って支給されたと看做されるものであってその支払事由の発生以後引き続き支給されるものは第108条の「報酬」に該当する。(昭和25年2月22日保文発第367号)。当該支給期間以前に支給された通勤定期券の購入費であっても、支給期間に係るものは調整の対象となる。


同一の傷病により障害厚生年金障害基礎年金との合算)を受ける場合、原則として傷病手当金は支給されず、障害厚生年金の額の360分の1の額が傷病手当金の金額より少ない場合は差額支給が行われる(第108条3項)。障害手当金を受ける場合には、障害手当金の支給を受けることになった日からその者がその日以後に傷病手当金の支給を受けるとした場合の合計額が障害手当金の額に達するに至る日までの間傷病手当金は支給されず、合計額が障害手当金の額を超える場合で政令で定める場合は差額支給が行われる(第108条4項)。

同一の傷病により障害基礎年金のみ支給される場合は、傷病手当金は同時に支給される。また同一の傷病によらない障害厚生年金と傷病手当金は、同時に受給できる。


第108条1?4項に該当する者が、疾病にかかり、負傷した場合において、その受けることができるはずであった報酬の全部又は一部につき、その全額を受けることができなかったときは傷病手当金の全額、その一部を受けることができなかった場合においてその受けた額が傷病手当金の額より少ないときはその額と傷病手当金又は出産手当金との差額を支給する(第109条1項)。なお、第109条1項の規定に基づき保険者が支給した保険給付は、立替払い的性質のものであるので、保険者は事業主から支給した額を徴収する(第109条2項)。

継続給付の受給時に老齢厚生年金老齢基礎年金もしくは退職共済年金を受給することができる場合には、原則として傷病手当金は支給されず、老齢年金等の額の360分の1の額が傷病手当金の金額より少ない場合は差額支給が行われる(第108条5項)。

この場合、老齢年金は全額支給される。


労災保険から休業補償給付を受けている健康保険の被保険者が、業務外の事由による傷病により労務不能となった場合、休業補償給付の額が傷病手当金の額に達しないときにおけるその差額部分に係るものを除き、傷病手当金は支給されない(昭和33年7月8日保険発95号)。つまり、いわゆる業務上外の併給は行わない。

出産手当金と傷病手当金を同時に受けることができる場合、出産手当金が優先して支給され、傷病手当金はその期間支給されず、出産手当金の額が傷病手当金の額より少ないとき[注釈 3]は、傷病手当金はその差額が支給される(第103条1項)。もし出産手当金を支給すべき場合において傷病手当金が支払われたとき(差額分を除く)は、その支払われた傷病手当金は、出産手当金の内払いとみなされる(第103条2項)。

傷病手当金の支給を受ける中途において出産手当金の支給を受けたため、傷病手当金の支給を受けることができなかった場合でも、傷病手当金の支給は、その支給開始の日から1年6か月で打ち切られる(昭和4年6月21日保理1818号)。


継続給付の傷病手当金を受給している場合、雇用保険の傷病手当は支給されない。

雇用保険の基本手当を受給した場合、「労働の意思及び能力があった」という認定が公共職業安定所でなされたのであって、労務不能を支給要件とする傷病手当金の支給は受けられない。一時的労務不能(15日未満)と公共職業安定所が認定して基本手当を支給したのであれば、離職前から現在まで療養のため労務不能でかつ療養の給付をひきつづき受けている旨証明して、基本手当を返納し、改めて傷病手当金の支給を申請しなければならない(昭和29年3月4日保文発2864号)。


傷病手当金の支給要件に該当する者が介護休業期間中である場合、傷病手当金は支給される(平成11年3月31日保険発46号、庁保険発9号)。ただし休業期間中に介護休業手当等の名目で報酬と認められるものが支給された場合は、傷病手当金の支給額について調整が行われる。

保険者は、偽りその他の不正行為により保険給付を受け、又は受けようとしたものに対して、6か月以内の期間を定め、その者に支給すべき傷病手当金の全部または一部を支給しない旨の決定をすることができる。ただし、偽りその他不正行為があった日から1年を経過したときは、当該給付制限は行えない(第120条)。

申請手続き

傷病手当金の支給を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書を保険者に提出しなければならない(施行規則第84条1項)。
被保険者証の記号及び番号又は個人番号

被保険者の業務の種別

傷病名及びその原因並びに発病又は負傷の年月日

労務に服することができなかった期間

被保険者が報酬の全部又は一部を受けることができるときは、その報酬の額及び期間

傷病手当金が第108条3項但書又は4項但書の規定によるものであるときは、障害厚生年金又は障害手当金の別、その額(当該障害厚生年金と同一の支給事由に基づき障害基礎年金の支給を受けることができるときは、当該障害厚生年金の額と当該障害基礎年金の額との合算額)、支給事由である傷病名、障害厚生年金又は障害手当金を受けることとなった年月日(当該障害厚生年金と同一の支給事由に基づき障害基礎年金の支給を受けることができるときは、当該障害厚生年金を受けることとなった年月日及び当該障害基礎年金を受けることとなった年月日)並びに障害厚生年金を受けるべき場合においては、個人番号又は基礎年金番号及び当該障害厚生年金(当該障害厚生年金と同一の支給事由に基づき障害基礎年金の支給を受けることができるときは、当該障害厚生年金及び当該障害基礎年金)の年金証書の年金コード


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