債務者主義
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日本の建設業における「危険負担」

日本の建設業においては、「危険負担」という概念そのものが、民法上の危険負担とは異なる概念として捉えられている。「土建請負契約にいう危険負担とは、工事の『受渡』にいたる間に請負人が工事において被った損害(なかんずく、不可抗力による損害)を、請負人又は注文者のいずれが負担すべきかという問題であって、必ずしも ? いや、むしろほとんどすべての場合には ? 請負人の履行不能に関するものではなくして、請負人の履行費用の負担に関するものである[13]」というのが、建設業における「危険負担」の認識である。日本の建設業における「危険負担」には、民法上の危険負担である「履行不能における危険負担」のみならず、天災不可抗力による事情変更(設計変更)なども含まれる。そのような「危険負担」についての規定は、民法にも存在しない[14]

日本の建設業における「危険負担」に関し、建設業法第19条第1項には、建設工事請負契約の締結に際して書面に記載しなければならない事項として、以下の内容が掲げられている。

当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があった場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め

天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め

価格等の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更

工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め

履行危険

上述してきた危険負担の内容は、双務契約で片方の債務が消滅した場合のもう片方の債務(反対債務)の扱いという「双務契約の牽連性(存続上の牽連性)の問題」であった。これに対して、何をすれば・どの時点で債務者は引渡債務を完了したことになるのか(いつ引渡債務は消滅するのか)という意味で「危険負担」という言葉が用いられることもある。これは双務契約の牽連性の問題としての危険負担を論じる前段階である。よって両者を区別するため、この問題を履行危険と呼ぶ場合がある[15]。国際取引契約におけるFOB(free on board、本船渡し)やCIF (cost, insurance and freight) において「物品が本船の船上に置かれたときに危険が移転する[16]」といわれることがある。これは貿易などにおいて品物が船積されるときに、その品物が本船の船上に置かれた時点で売主は引渡債務を完了したことになる(よって船が沈没しても売主は再び品物を調達する必要はない)という意味であるが、ここでいう「危険」とは履行危険のことなのである。双務契約の牽連性の問題としての危険負担は、「船が沈没して引渡債務が履行不能となった場合、反対債務である代金債権の履行拒絶権が発生するかどうか」の問題であって、「引渡債務が完了したかどうか」という問題とは(密接に関わるものの)別の話である。
脚注[脚注の使い方]^ a b 松尾弘『民法の体系 第6版』慶應義塾大学出版会、278頁。.mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}ISBN 978-4766422771。 
^ 「債権者主義」、「債務者主義」という場合の「債権者」、「債務者」とは、消滅した債務の債権者・債務者を基準としている。
^ 半田吉信「危険負担制度廃止論批判」『千葉大学法学論集』第25巻第2号、50頁。 
^ 半田吉信「危険負担制度廃止論批判」『千葉大学法学論集』第25巻第2号、50-51頁。 
^ 半田吉信「危険負担制度廃止論批判」『千葉大学法学論集』第25巻第2号、4頁。 
^ a b c 半田吉信「危険負担制度廃止論批判」『千葉大学法学論集』第25巻第2号、27頁。 
^ 浜辺陽一郎『スピード解説 民法債権法改正がわかる本』東洋経済新報社、77-78頁。ISBN 978-4492270578。 
^ a b c d 浜辺陽一郎『スピード解説 民法債権法改正がわかる本』東洋経済新報社、78頁。ISBN 978-4492270578。 
^ a b c d e f g 松尾弘『民法の体系 第6版』慶應義塾大学出版会、279頁。ISBN 978-4766422771。 
^ ただし、特定物の他人物売買の場合は、債務者主義を採る。確かに一見すると特定物売買であるため、債権者主義が適用されそうである。しかし、他人物売買で特定物が契約後に滅失した場合には、債権者は未だ所有者となっていないため、債権者に対して「所有者が危険を負担すべき」とはいえず、債権者主義の考えに合致しない。


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