催眠
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自己催眠とは、自分自身に催眠誘導を行い暗示を与えることをいう[31]

自己催眠は催眠誘導を全て自分自身で行うため、クライアント自身で催眠を行う場所や時間を選択できるというメリットがある[32]一方、スムーズなトランス体験をすることが難しく、トランスから睡眠に移行してしまうというデメリットもある[32]

自己催眠の習得は、他者の催眠誘導によるものと、独学で習得するものに分けられる[33]

前者の場合、後催眠暗示を用いる。他者催眠を行っているときに「ある特定の合図であなたは催眠状態になる」という暗示を与えておく。クライアントは、自分の好きなタイミングでその合図を行う。すると、後催眠暗示によってクライアントは速やかに催眠状態に移行する[33]

後者の場合、CDやDVDといった教材を用いて完全に独学で習得する方法や、治療者から基本的な手法を学び、ひとりで自己催眠を習得する方法が考えられる。前者の方法を行う場合、誤った情報が記載されている教材が数多く存在するため注意が必要である[34]
ダイエットや禁煙を対象としたCD、DVDの効果

CDやDVDなどの効果には、音声・映像を見たり聞いたりする者の催眠感受性が大きく影響する。したがって、CDやDVDがダイエット・禁煙に対し効果があるかどうか調査することは極めて難しい。[34]。だがこれまでの調査でダイエットの心理療法と、禁煙に対する催眠療法の長期推定効果が低いことが判明しており、CDやDVDによる効果は非常に低いと考えるのが妥当である[35]

なお、クライアントごとに作られた、オーダーメイドの音声資料などは自己催眠の補助資料として活用することが出来る。
催眠と犯罪行為の関連

催眠によって犯罪行為を誘発できることを示す、決定的な証拠は存在しない[36]

確かに催眠で犯罪を行わせたとする実験や実例はいくつか存在する。具体的には、フォレル(Forel)が行った実験と、19世紀末のドイツで起こったチンスキー事件(Czynski Case)などがある[37]

フォレルは、催眠感受性の高い年配の男性に対し催眠をかけ、とある弁護士を撃つよう命じてからリボルバー(実弾は入っていない)を渡した。すると男性は弁護士を撃った。さらにフォレルが「この男はまだ死んでいない。もう一発打ち込まないといけない」と言うと、男性はためらうことなくもう一度弁護士を撃った[37]

チンスキー事件とは、1894年、催眠術師であるチェスワフ・チンスキー(Czeslaw Czynski)が治療として男爵夫人に催眠術をかけ、男爵夫人が自身に好意を抱くようにさせたとして訴えられた事件である[37]。男爵夫人は、はじめ胃痛と頭痛の治療のためにチンスキーの元を訪れていたが、次第にチンスキーに好意を抱き始め、最終的に婚約した[37]

しかしいずれの事件、実験でも「本当に催眠が犯罪を誘発したのか」という点に関する批判が存在し、し烈な議論が行われている[37]。例えばジュール・リエジョワやベルンハイム(ナンシー学派の研究者)は、フォレルの実験のような実験が、催眠犯罪の可能性を証明したと主張しているのに対し、シャルコーは依頼された犯罪が実際の犯罪ではないとの意識が残っていると主張している[37]

一般に、仮に催眠が犯罪を誘発したとする事件が起こったとしても、催眠が犯罪を誘発したとは必ずしも言えない[36]。催眠を掛けられた人は、催眠をかけられていなかったとしても犯罪行為を行ったかもしれない。また、催眠をかけた者が社会的に地位が高い人物(例:医者)であり、「この人が犯罪をさせることを言うはずがない」と思った可能性もある[36]

人間を対象とした実験は、倫理的に行うことが難しいため、催眠と犯罪の関係性について検証することが難しいのが現状である[36]
催眠誘導
催眠誘導=弛緩、という誤解

催眠誘導とは、被験者に催眠をかける手法のことである[38]。一般に「催眠誘導には弛緩や閉眼が必須である」と言われることが多いが、これは誤りである。[38]もちろん弛緩を用いて催眠誘導する方法もあるが、それが全てではない。睡眠や弛緩を用いずに催眠誘導を行う手法として、覚醒状態催眠[注釈 7]がある。

九人の受刑者に対して覚醒状態催眠を行った実験がある。受刑者には、緊張や刺激性を高める暗示を与え部屋を見つめながら回転させた。本誘導を五?二十五分続けた後、標準的な催眠感受性テストを受刑者に受けさせた。このテストの点数と、伝統的催眠を行った群の、テストの点数に差は見られなかった[39]

加えて、催眠誘導における暗示は命令ではない。催眠誘導は被験者に暗示を与え、暗示に対する反応を観察し、暗示を与える作業の繰り返しである。本質的には、催眠をかける者と被験者のコミュニケーションといえる[39]
催眠誘導の具体的な方法

催眠誘導の大まかな流れを次に記す。ただし、場合に応じて手順はスキップされることがある[40]
誘導準備

反応期待の亢進

催眠感受性テスト

催眠誘導暗示

催眠深化

解除(覚醒)

エリクソン神話

催眠療法家であるミルトン・H・エリクソンは、1930年頃から古典的なアプローチとは異なる手法を催眠に取り入れ、心理療法全般に多大な影響を与えた[41]。しかしエリクソンが亡くなった後、エリクソン催眠という特別な催眠が存在する、エリクソン催眠を行う者は全てエリクソニアンである、エリクソン催眠は全てブリーフセラピー(短期療法)である、エリクソンといえば間接暗示である、といったいわゆるエリクソン神話が広まってしまった[42]

エリクソンが催眠において斬新な技法を取り入れたことは事実だが、ある手法を画一的に用いていたというわけではない[43][41]


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