偽装請負
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社会保険・有給休暇・福利厚生といった負担を強いられる正規の人材派遣会社が、これらを負担しない請負企業とは営業面において公正な競争が出来ているとは言えず、派遣社員が被る手数料率の増大への近因となっている。請負企業が所得税や社会保険料の源泉徴収を行わない(違法行為)ことで表面的な手取り額が大きく、一部の求職者を魅了するといった側面もあり、こうした一部の求職者の特性に目をつけた偽装請負専門の違法業者の参入が後を絶たない。また、そうした違法業者を利用することで源泉徴収を免れた労働者が脱税行為に及ぶといった、二次的な問題も存在する。桐野夏生作『メタボラ』(朝日新聞連載小説)では、偽装請負の派遣会社に登録、派遣先工場で作業を始めた登場人物の様子が描かれる。

日本経団連会長の御手洗冨士夫は本件に関連し、「請負労働者に技術指導できないのが制約になっている」・および「偽装請負のおかげで産業の空洞化が抑止できている」旨の主張を経済財政諮問会議の席上などで行なっている。これらの発言に対しては、「偽装請負の合法化を企図している」として、また毎日新聞における特集記事においても、「経営者の立場と諮問機関メンバーの立場を混同する著しいモラル低下」である、と非難されている[3]。一方、濱口桂一郎は、「戦前の工場法は、『雇傭関係カ直接工業主ト職工トノ間ニ存スルト或ハ職工供給請負者、事業請負者等ノ介在スル場合トヲ問ハス、一切其ノ工業主ノ使用スル職工トシテ取扱フモノトス(大正5年商局第1274号)』と、(労働者派遣事業の前身たる労務供給請負であってもそれ以外の事業請負であっても)明確に工業主に使用者責任を負わせていた ⇒[2]」「派遣でない請負であれば使用者責任がないなどというのは、戦後労働者供給事業を全面禁止したために生じた事態である」としたうえで、「(請負は)本来労働法規制によって規制されるべき」「御手洗会長は『請負法制』に無理があるというが、むしろ請負法制が存在しないことが『無理』なのである」「むしろ戦前のように請負であっても受入れ事業者に使用者責任を負わせることによってのみ解決することができるはず」と述べている[4]

主に就業者への営業機能を提供する派遣事業モデルは、資本主義の根底概念に反する部分を有しており、違法性が高いと考える声もある。
建設業における偽装請負

建設業における偽装請負は、製造業における偽装請負とは異なり、「一人親方が発注者と請負契約を締結するが、実態として発注者が一人親方に対して指揮命令を行う」という類型である場合が多い[5]

柴田徹平によれば、常用契約[6]と呼ばれる契約形態においては、調査対象の一人親方517名のうち70%以上が「仕事の内容・方法について具体的指示を受ける」と回答した[5]。手間請け契約[7]と呼ばれる契約形態においては、調査対象の一人親方540名のうち約30%が、独立自営型[8]一人親方においては、調査対象の一人親方298名のうち約20%が「仕事の内容・方法について具体的指示を受ける」と回答した[5]

建設業においては、請負企業を介さずに労務提供者が直接発注者と請負契約を締結するケースが多い。偽装請負を行う労務提供者は多数の零細事業者であるため、当局の監視が及びにくい[5]
日本の法律上の取扱い
契約類型の解釈

一般に使用者が雇用契約を締結する場合には、雇用契約に基づいて労務を提供する者は労働者として、労働法による保護を受けることになる。ところが、民法におけるいわゆる典型契約としては、類似するものとして請負という契約類型が用意されており、請負人にはいわゆる労働法の適用がないのが原則である。

請負契約の特質は、請負人は仕事の完成を請け負うものであって、発注者は仕事の完成に関して対価を支払うものとされている点にある。この点が、労務に服することを約して労務に対して対価を支払う雇用関係との顕著な違いであり、裏返せば、雇用と請負を区別する判断基準となる。労働関係を規律する労働法に比して、請負関係における請負人を「保護」する法制は緩やかなものであることから、実質的に雇用関係にある場合であっても「請負」との形式を「偽装」することで、労働法令の規制の潜脱を企図する、というのが偽装請負の出発点である。

なお、法令の適用上、特定の契約が雇用契約なのか請負契約なのか、などの契約類型に関する判断は、当事者が用いた用語や名称に拘束されることなく、実質的な内容の判断によりなされる、というのが一般的な解釈である。
職業安定法と労働者派遣法との関係

上記の理は、間接的な雇用関係というべき労働者派遣の場面においても当てはまる。したがって、どういう内容の契約を締結した場合に、形式的には請負契約を謳っていたとしても、雇用契約ないしは労働者派遣契約としての規律に服せしめるかの基準が問われることとなる。

職業安定法施行規則第4条によれば、労働者を提供しこれを他人の指揮命令を受けて労働に従事させる者(労働者派遣法に基づく者は除く)は、たとえその契約の形式が請負契約であっても
作業の完成について事業主としての財政上及び法律上のすべての責任を負う

作業に従事する労働者を、指揮監督する

作業に従事する労働者に対し、使用者として法律に規定されたすべての義務を負う

自ら提供する機械、設備、器材(業務上必要なる簡易な工具を除く。)若しくはその作業に必要な材料、資材を使用し又は企画若しくは専門的な技術若しくは専門的な経験を必要とする作業を行うものであって、単に肉体的な労働力を提供するものでない


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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