偽膜性大腸炎
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その性質が最も良く判っている毒素はエンテロトキシン(腸毒素、Clostridium difficile toxin A(英語版))とサイトトキシン(細胞毒素、Clostridium difficile toxin B(英語版))である。両者は感染患者に下痢および炎症を発生させるが、その寄与の大きさについては議論がなされている[8]。トキシンAおよびトキシンBは、RhoファミリーG蛋白質をターゲットとして不活性化させるグルコース転移酵素である。トキシンBは低分子量GTP結合Rho蛋白質のADPリボース化の減少と関連するメカニズムでアクチンの脱重合を誘導する[18]。もう1つのトキシンである二元毒素も産生されることが知られているが、疾患における役割は充分には解明されていない[19]

CDIに対する抗生物質治療はC. difficile の薬剤耐性と細菌学的特性(芽胞形成、偽膜生成)から困難である[8]シプロフロキサシンレボフロキサシンなどのニューキノロン系抗生物質に耐性であるC. difficile の新型高毒性株が北米大陸で地理的に分散して集団感染を起こしたと2005年に報告された[20]。アトランタの米国疾病予防管理センター (CDC) は、新型流行株について毒性の上昇、抗生物質への耐性、あるいはその両方について警告を発した[21]

C. difficile は糞口経路でヒトからヒトへと感染する。この微生物は熱等に耐性を持つ芽胞を形成し、アルコール系の手指消毒液やルーチンに行われる清浄化では殺菌されない。芽胞は臨床環境下で長時間生存する。そのため、C. difficile はほとんど全ての物の表面から検出され得る。一旦芽胞が体内に取り込まれると、芽胞の耐酸性により無傷で胃を通過する。胆汁酸に触れると、C. difficile は“発芽”して栄養型となり、大腸内で増殖を開始する。

C. difficileの病院感染に関連して、院内で少なからぬ濃度で芽胞が存在し入院期間が長くなるほど保菌率が高まる傾向にあり、抗菌薬の使用によって腸内細菌の乱れと菌交代が生じ腸炎が発生しうることや芽胞が消毒に対して高い抵抗性があることが指摘されている[22]

2005年中に、C. difficile 強毒株が、制限酵素処理解析でBI型、パルスフィールド電気泳動で北米NAP1型、リボタイピング(英語版)で027型であることが判明した。そのためこの菌株はC. difficile BI/NAP1/027と呼ばれている[23]

RT027株とRT078株についてはトレハロースの関与の可能性が指摘された( ⇒http://news.livedoor.com/article/detail/14146335/)
リスク因子
抗生物質

C. difficile 腸炎の発生は、抗生物質であるニューキノロンセファロスポリンクリンダマイシンの使用と強く相関している[24]

一部の研究者は、日常的な家畜への抗生物質使用(英語版)がC. difficile などの流行に結び付く危険性があると指摘している[25]
ヘルスケア環境

感染はほとんどの場合、病院や介護老人福祉施設などの医療関連施設で発生しているが、これらの施設外での感染も増加している。C. difficile の推定保有率は2週間以内の入院の場合は13%、4週間以上の入院の場合は50%と見積もられている[26]

長期入院している場合や介護施設に入居している場合は、1年以上の入院・入居は菌定着(英語版)の独立リスク因子である[27]
胃酸抑制療法

市中CDIの増加率は、胃酸抑制薬の使用に相関している。ヒスタミンH2受容体拮抗薬の使用で感染症のリスクは1.5倍に、プロトンポンプ阻害薬の1日1回の使用で1.7倍に、それを超える頻度での使用で2.4倍に増加する[28][29]
病態生理学

あらゆるペニシリン系抗生物質(アンピシリン等)、セファロスポリン、クリンダマイシンなどの抗生物質(前掲に限らない)を全身投与すると、正常な腸内細菌叢が変化する。特に、抗生物質が一部の微生物を殺してしまうと、生き残った競合細菌は、繁殖場所および栄養の点で競争が少なくなり、抗生物質使用前よりも広い場所で旺盛に繁殖する。Clostridium difficile はその様な微生物の一つである。腸内での繁殖に加えて、C. difficile は毒素を産生する。トキシンAとトキシンBを生産しなければ、C. difficile は偽膜性大腸炎を引き起こす可能性は低いと思われる[30]。重症感染症に関連した大腸炎は炎症反応の一部であり、偽膜は、炎症細胞、フィブリン、壊死細胞から成る粘稠な集合体である[8]
診断C. difficile 大腸炎における大腸偽膜の顕微鏡写真(英語版) H&E染色S状結腸の壁に見られる黄色の偽膜と偽膜性大腸炎の内視鏡画像偽膜性大腸炎を示す病理学的試料コンピュータ断層撮影上の偽膜性大腸炎

C. difficile 毒素を検出する臨床検査が登場する以前は、大腸内視鏡検査やS状結腸鏡検査(英語版)が盛んに行われていた。大腸直腸での「偽膜」形成はクロストリジウム・ディフィシル腸炎を強く示唆するものであったが、確定診断できるものではなかった[31]。偽膜は炎症性のデブリや白血球から構成されており、C. difficile 特異的ではないため、C. difficile 毒素を検出する検査が最初に実施される様になったが、内視鏡検査は今でも実施されている。毒素検査ではトキシンAとトキシンBのみが検査されるが、C. difficile は他の毒素も産生する。検査は100%正確ではなく、偽陰性は稀ではあるが、繰り返し検査したとしても完全に排除することはできない。
サイトトキシン検査

C. difficile 毒素は培養細胞塊に対しては細胞変性効果を示し、特異的な抗血清で見られる中和効果は、新たなCDI診断技術を開発する際に最も標準的な比較対象(英語版)となっている[8]。長い時間と多くの手間が掛かるが、選択性培地で毒素産生コロニーを発生させ毒素の産生を確かめる方法は検査のゴールドスタンダードであり、感度特異度共に最高である[32]
トキシンELISA

トキシンAとトキシンBの酵素結合免疫吸着検査法 (ELISA) は、感度63?99%、特異度93?100%である。

以前は、1回の下痢症状発生中に糞便サンプルを最大3回採取して検査する事で除外診断できるとされていたが、今ではその方法では不充分であるとされている[33]。C. difficile 毒素は治療が有効であれば一掃される。多くの病院では、産生される事の多いトキシンAのみが検査されている。トキシンBのみを産生する株が多くの病院から見つかっており、A、Bの両毒素を検査すべきである[34][35]。最初に両毒素を検査しないことは臨床検査の結果確定を遅らせ、しばしば疾患を遷延させ、予後不良を来たす。
その他の糞便検査

糞便中の白血球量やラクトフェリン濃度が検査法として提案された事があるが、何方も正確性に限界がある[36]
PCR

糞便試料をリアルタイムPCRで分析すると、検出率90%程度、偽陽性4%程度で検査することができる[37]。マルチステップPCR検査アルゴリズムで全般的なパフォーマンスを改善できる。
予防
抗生物質

最も効果的なCDI予防法は、抗生物質の使用適正化である。CDIが多い病院内では、CDIを発症したほとんどの全ての患者で抗生物質が使用されていた。抗生物質の適正使用は容易であるにもかかわらず、約半数の抗生物質使用は不適切なものであった。このことは、病院のほか、診療所、市中、大学内にも当てはまる。不要な抗生物質の使用を制限してCDIが減少する(集団感染か否かにかかわらず)事は、明確に示されている。2011年には、CDI感染症は米国の病院内で見られた医薬品の副作用の内で最多であった[38]
共生細菌

プロバイオティクスが感染予防や再発防止に有用であるとの報告がある[39][40]


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