借地借家法
[Wikipedia|▼Menu]
もっとも、民法上、賃借権を登記していれば、賃借人は、新所有者に対してもこれを対抗することができる(民法第605条)。すなわち、甲が賃貸物件を乙に売却した場合も、賃借人Aは、予め賃借権設定登記を受けておけば、新所有者乙に賃借権を主張し、住み続けることができる。

しかし、賃貸借契約においては、特約がない限り、賃借人は賃貸人に賃借権の登記を求めることはできないというのが判例・通説である(大審院大正10年7月11日判決民録27巻1378号)。そして、実際上も、通常の地主や家主は、賃借権を登記することによって得られる強力な効果を嫌い、任意に登記に協力することはまずない。そのため、賃借権設定登記という方法によって賃借人が新所有者に自己の権利を主張するという方法は有名無実化していた。

しかし、これでは、賃貸人が、賃料の値上げに応じない賃借人について賃貸物件を第三者に売却して立ち退かせるなどして、値上げを迫ることもできることになり、賃借人の立場は非常に弱いものになる。そこで、借地人・借家人の地位を保護するために、本法では以下のような規定が設けられている。

借地人は、その土地上に自己名義の登記済建物を所有していれば、第三者に対して借地権を対抗することができる(10条1項)。登記済建物の滅失後2年以内ならば、その土地上の見やすい場所に、建物を特定するために必要な事項、滅失があった日、および建物を新たに築造する旨を掲示することで、第三者に対して借地権を対抗できる(10条2項)。一時使用の借地であっても適用される(25条は10条の適用を排除していない)。登記は「表示の登記」でよい(最判昭50.2.13)が、借地人本人名義の登記である必要がある(家族名義の登記に対抗力を認めなかった判例(妻名義につき最判昭47.6.22、長男名義につき最判昭41.4.27)がある)。

借家人は、建物の引渡しがあったとき、すなわち借家人がその借家に居住等で占有していれば、第三者に建物賃借権を対抗することができる(31条1項)。借地と異なり、一時使用の借家では適用されない(40条は31条の適用を排除している)。

このように、本来は債権に過ぎない賃借権だが、本法の規定により物権と類似する対外的効力を有するに至っている。これを「賃借権の物権化」という。
契約の期間
借地契約

借地契約の存続期間は、

契約期間を特に定めなかった場合は、30年となる(3条
本文)。

30年より長い期間を定めた場合は、その定めた期間となる(3条但書)、期間の上限はない。

30年より短い期間を定めた場合は、その約定は無効であるから(9条、最判昭44.11.26)、期間を定めなかった契約となり、30年となる。

借家とは異なり、「期間の定めのない契約」は認められない。

なお、旧借地法では、借地上に建てられている建築物について石造り、土造り、レンガ造りなどの「堅固建物」と、木造などそれ以外の材質の「非堅固建物」という区別を設け、前者の所有を目的とする借地権の契約期間が30年未満の場合には一律60年とし、後者の契約期間が20年未満の場合には一律30年として規定していた(旧借地法2条)。しかし、この区別は建築技術の発展に伴って合理性を失い、現在の借地借家法には受け継がれなかった。

借地契約の中で、建物の種類、構造、規模または用途を制限する旨の「借地条件」がある場合は、その後、トラブルを生むケースがある。具体例は、法令による土地利用の規制の変更によって、その借地条件が時代と合わなくなったケース、付近の土地の利用状況の変化とその他の事情の変更により、その借地権契約の中のその借地条件と異なる建物の所有を目的とすることが相当であるにもかかわらず、その借地条件の変更を巡って借主と貸主の間で合意が得られないケース、などである。

そういう時は、裁判所は、当事者の申立てにより借地非訟事件として、その借地条件を変更することができる(17条1項)。

増改築を制限する旨の借地条件がある場合において、土地の通常の利用上相当とすべき増改築につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、その増改築についての借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる(17条2項)。裁判所は、これらの裁判をする場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、他の借地条件を変更し、財産上の給付を命じ、その他相当の処分をすることができる(17条3項)。裁判所は、特に必要がないと認める場合を除き、これらの裁判をする前に鑑定委員会の意見を聴かなければならない(17条6項)。
借家契約

借家契約の存続期間は、当事者の合意によって定まる。民法第604条(賃貸借契約の期間を20年以下と規定している)の適用が排除されているため、期間の上限はない(29条2項)。1年未満の契約期間を約定した場合、期間の定めがない建物賃貸借とみなされる(29条1項)。
法定更新・解約の制限

民法における原則では、契約期間が定められている場合ならば、その期間が過ぎれば契約は終了し、さらに契約を更新するかどうかは当事者次第である。また、契約期間が定められていない賃貸借契約は借主・貸主どちらからでも解約を申し入れることができ、その申入れから所定の期間を過ぎると契約は終了する(民法第617条1項)。しかしこれでは賃借人が突然家や土地を追い出されて生活の拠点を失うおそれがあるため、借地借家法には更新を容易にし、解約を制限する制度が整備されている。

すなわち、借地借家法は、期間の定めのある借地・借家契約については、直接的または間接的に契約更新を強制している。

このように、当事者(特に賃貸人)の意思に関わらず法律の規定によって契約が更新されることを法定更新という。また、期間の定めのない借家契約についても、賃貸人からの解約申入れに正当事由を要求するなどして一方的に契約を終了させないようにしている。

この「正当事由制度」・「法定更新制度」は、日中戦争中の1941年3月10日の借家法改正(法律56号)に由来する。この改正の目的は、出征中に借地契約や借家契約が終了して兵士が戦地から戻ったときに住む家がなくなることで混乱が生じることを回避することにあったが、都市への人口流入による住宅事情の逼迫を背景に、両制度は戦後も存続している[1][2]
借地契約

借地権の存続期間が満了する場合に、建物が存在するときは、借地人は、契約の更新を貸主に請求することができる。これに対し、地主(賃貸人)が遅滞なく異議を述べなければ、契約は従前の契約と同一条件で更新される(法定更新、5条1項)。貸主がこの異議を述べるには、正当事由が必要である(6条)[注釈 1]

また、借地権の存続期間が満了した後、借地人(または転借人)が土地の使用を継続している場合も、建物が存在するときは、地主が遅滞なく異議を述べなければ、契約は法定更新される(5条2項、3項)。この異議にも正当事由が必要である(6条)。

正当事由の判断は、借地人と貸主の双方がその土地の使用を必要とする事情のほか、立退料の支払も考慮することができる(6条)。合意により借地契約を更新し期間を定める場合、その更新後の期間は、最初の更新では20年以上、2度目以降の更新では10年以上でなければならない。

更新後の期間について定めなかった場合は、自動的に最初の更新では20年、2度目以降の更新では10年になる(4条)。

当初の借地権存続期間中に建物が滅失した場合で、当初残存期間を超えて存続する建物を再築した場合、再築に際して貸主が承諾を与えた場合は、借地権は再築の日または承諾の日のいずれか早い日から20年間存続する(7条)。借地人が承諾を求めたのに貸主が2か月以内に異議を述べなかった場合は、貸主の「承諾があったもの」とみなされる。

契約更新後に「建物の滅失」があった場合は、借地権者は借地契約の解約の申入れまたは地上権の放棄をすることができる(8条)。建物の滅失後、借地権者が貸主の承諾を得ないで残存期間を超えて存続する建物を再建築した場合は、貸主は借地契約の解約の申入れまたは地上権の消滅請求をすることができる。

この場合において、再建築にやむをえない事情があるにもかかわらず貸主が承諾しない場合は、借地非訟事件として借地権者は原則として裁判所に対し承諾に代わる許可を求める申立てをすることができる。この申立てを受けた裁判所は、特に必要がないと認める場合を除き、裁判をする前に鑑定委員会の意見を聴かなければならない(18条)。
期間の定めのある借家契約

期間の定めのある借家契約については、何もしなければ自動的に契約が更新されるという制度が採られている。すなわち、当事者が契約期間満了で契約を終了させようとする場合は、契約期間が満了する1年前から6か月前までに、相手方に対して契約を更新しないこと(更新拒絶)を通知しなければならず、この通知がない場合には、これまでと同様の条件(ただし、新たな借家契約は期間の定めのないものとされる)で契約が法定更新される(26条1項)。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:58 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef