修辞学
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近世にはそのほか、ヴィーコの思想において修辞学的な思考法が重要視されたり[12]ラモン・リュイやピエール・ラムス(英語版)、ジョルダーノ・ブルーノによって、上述の「記憶」(記憶術)が修辞学から半ば独立すると同時に、ヘルメス主義などと合わさって流行したりした[13][14]

近世ヨーロッパの修辞学は、様々な芸術に影響を与えることもあった。例えば、記憶術の思考法が、ルネサンス期の劇場庭園の設計に影響を与えることもあった[13][14]。あるいは、バロック音楽音楽理論に修辞学が取り入れられることもあった(音楽修辞学)[15]。あるいは、ティツィアーノ絵画ヴィーナスへの奉献』などのように、古代の弁論家が残した「エクフラシス」と呼ばれる文献群に由来する絵画が描かれた[16]
東洋への伝来

前近代のインド中国・日本には、古代ギリシア由来の修辞学(弁論術・説得術)はほぼ伝播していない。イエズス会の中国宣教師ジュリオ・アレーニ(艾儒略)によって「文科」と漢訳されて紹介されたり[17]長崎コレジヨで修辞学講義が開かれたりしたが[18]、伝統として根付くことは無かった。

ただし、修辞学と似たもの、あるいは文彩・文学理論という意味での修辞学(修辞技法)の伝統は各地域にある[19]。例えば、バーマハ(英語版)やダンディンが論じたインド文学カーヴィヤの理論[20](インド古典修辞学(英語版)[21])や、劉?文心雕龍』や空海文鏡秘府論』が論じた中国文学の理論[22]漢詩文における対句和歌における掛詞、などの伝統がある。上記のイスラム世界にも、ジャーヒズやサッカーキー(英語版)が論じたアラビア語文学の理論(アラブ修辞学)がある[23]

明治日本において西洋の rhetoric が受容されると、音訳から漢訳まで様々な訳語が当てられた[24]。例えば、1870年代初頭の西周の場合は「文辞学」と訳した[24]。その後、尾崎行雄『公会演説法』(1877年)、菊池大麓『修辞及華文』(1880年)[注釈 1]黒岩大『雄弁美辞法』(1883年)などで rhetoric が紹介された[25]。とりわけ、高田早苗『美辞学』(1889年)は、内容は rhetoric だけでなく美学も含むものの、坪内逍遥武島羽衣によって日本の「修辞学」の草分け的な書物に位置付けられた[26]。この『美辞学』の後、島村抱月『新美辞学』(1902年)や、五十嵐力『新文章講話』(1909年)によって、上記の『文心雕龍』などの和漢の伝統と rhetoric が結び付けられた[27]。以上のような修辞学の研究は、大正以降は衰退したが[28]、上記の20世紀後半の佐藤信夫らによって再興された。

明治日本では、以上のような修辞学の研究と並行して、福沢諭吉を草分けとする「演説」の文化も流行し、自由民権運動を後押しした[29]

中国では、1900年代から日本の諸著作の影響を受けつつ rhetoric が紹介された後、早稲田大学留学生で五十嵐力の教え子でもある陳望道が『修辞学発凡』(1932年)を著し、以降の中国修辞学の草分けとなった[30]

「修辞」(辞を修める)という漢語は古くからあり、『易経』の一節「修辞立其誠」(脩辭立其誠、通称「修辞立誠」)に由来する[28][31]荻生徂徠章炳麟は、それぞれの思想のもとに「修辞立其誠」を解釈して論じていた[32]
現代

近代以降、修辞学はさまざまな学問に分化し、あくまで言語表現に磨きをかける技術、という領域に押し込められていった。

ただし、20世紀後半以降、様々な観点から伝統的な修辞学が再注目されることもある。具体的には、文学理論物語論ディベート術、プレゼンテーション術、コミュニケーション学[33]非形式論理学[34]議論学クリティカルシンキングアカデミックライティングなどの観点から再注目される。とりわけ、ロラン・バルトポール・リクールカイム・ペレルマン、グループμ(英語版)が修辞学について論じている[35]。また、マクルーハンメディア研究に影響を与えたり、ビジュアルコミュニケーションにおける「ビジュアル・レトリック」として転用されている。また、現代言語学においては、対照言語学の観点から「対照修辞学(英語版)」として研究されたり[36]認知言語学の観点から「認知修辞学(英語版)」として研究されたりしている。そのような背景のもと、日本でも佐藤信夫三輪正澤田昭夫中村明らを始めとして多くの学者が修辞学について論じている[35]
主な修辞学者「Category:修辞学者」を参照
主な原典文献

プラトンゴルギアス

アリストテレス弁論術

キケロ『弁論家について(英語版)』

クィンティリアヌス『弁論家の教育(英語版)』

以上のほかにも、主要文献の日本語訳が、1990年代から京都大学学術出版会西洋古典叢書」の一環として順次刊行されている[37]


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