低ザクセン語
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現代の低ザクセン語は多数の方言を抱えているが、相互理解の手段である標準語は制定されていない。これは低ザクセン語が幾つかの国に存在する事や、大多数が占める北ドイツの話者が、長年に亘ってそれぞれ一方言という地位に押し込められていたためである。オランダで幾つかの方言を纏めて標準語を作ろうとする試みも見られたが、低ザクセン語全体の統合には程遠い状況にある。
低ザクセン語の復興

北ドイツで話される言葉が中部・南部ドイツの言語やオランダ語と異なる言語ではないのか、という指摘は過去から今日に至るまで幾度もなされていた。しかしドイツの言語学会(特に冷戦期の西ドイツ)ではこうした議論は半ば禁じられ、北ドイツの言葉に関する研究者達も暗黙の了解として「低ドイツ語」としての研究しか行えなかった[4]

政府の語学教育への圧力から、若年層の北ドイツ住民は自分達の「方言」が標準ドイツ語とは距離があるという事実を知らず、更にはアメリカに移住したドイツ地方出身者の多くが標準ドイツ語ではなく、低ザクセン語を用いている歴史的事実すら知らぬままに過ごしている。独立言語の象徴である「行政的手続での使用」も古サクソン語時代の様には叶わず、地方言語文学の製作も局地的な展開に留まっていた。これらは低ザクセン語の存続にとって重大な危機であり、言語の消滅はもちろん、低ザクセン語自体が各方言の一層の独自化により、更なる分裂を生む可能性もある。

しかし冷戦後のヨーロッパに広がったローカリズム(郷土主義)に由来する方言保護運動の高まりや、既存の国家の枠組みを緩めたい欧州連合の後援の元、他国他言語の方言同様に低ザクセン語もその地位向上が盛んに求められる時代になりつつある。80年代から90年代にかけて北ドイツ各地で低ザクセン語の復興運動が展開され、大きな成功を収めた。1994年に欧州連合は低ザクセン語を独立した地域言語であるとし、1999年にはヨーロッパ地方言語・少数言語憲章(European Charter for Regional or Minority Languages)による保護がドイツ政府に命じられている。これによって低ザクセン語は分布地域において公的に用いる事が可能になり、テレビなどの放送言語で実際に用いられている。「低ザクセン運動」が国内外での正当性を獲得した事は独立派にとっての大きな後押しとなった[5]

現在のところ低ザクセン語が公用語とされているのは、ニーダーザクセン州シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州自由ハンザ都市ハンブルク自由ハンザ都市ブレーメンで、北ドイツの大部分を含んでいる。しかし一方でザクセン=アンハルト州ブランデンブルク州などは非低ザクセン語圏と低ザクセン語圏の双方にまたがっているためか、1999年の保護対象からは除外されている。
文学的地位

方言に留め置かれている言語が国際的認知を得て、文語としての地位を確立するにはその言語独自の文学が不可欠である。低ザクセン語も例外ではなく、詩人クラウス・グロート、フリッツ・ロイターらが盛んに低ザクセン語の方言文学を製作し、高い名声を獲得している。ただし前者はホルシュタイン語、後者はメクレンブルク語で執筆しており、必ずしも同じ形の文章という訳ではない。こうした事が低ザクセン語もまた一つの言語たりえるかどうかという問題点を示している。
方言低地ドイツ語の方言図プロイセン地方を除き、低地地方を含んだもの

低ザクセン語(Niedersachsisch)

1.シュレスヴィヒ語(Schleswigisch)

2.ホルシュタイン語(Holsteinisch)

3.北低ザクセン語(Nordniedersachsisch)

3-1.ハンブルク語(Hamburgisch) - ハンブルクを中心に話される言語。


4.オストフリース語(Ostfriesisch) - 低ザクセン語の東フリースラント方言であり、東フリジア語 (Saterfriesisch/Saterlandisch) とは異なる。

5.オランダ低ザクセン語(Nedersaksisch) - 低ザクセン語のうち、オランダ領内で話されるウェスタークワーティア語等の諸方言。低フランク諸語に含まれる狭義のオランダ語とは区分される。

6.ヴェストファーレン語(Westfalisch)

7.オストファーレン語(Ostfalisch) - 発音に関してはハノーファー都市部の発音が最もドイツ語の標準語に近いとされる。

(番号は右下の地図に準拠)
脚注[脚注の使い方]^ 亀井孝河野六郎千野栄一編著、『言語学大辞典セレクション・ヨーロッパの言語』三省堂、1998年、275頁。
^ a b エスノローグ ドイツにおける諸言語の項目より ⇒低ザクセン語
^ a b 亀井孝・河野六郎・千野栄一編著、『言語学大辞典セレクション・ヨーロッパの言語』三省堂、1998年、282頁。
^ Sanders, W: "Sachsensprache ? Hansesprache ? Plattdeutsch. Sprachgeschichtliche Grundzuge des Niederdeutschen, Gottingen 1982
^Institut fur niederdeutsche Sprache - Zeitschriften Archived 2007年1月18日, at the Wayback Machine.

関連項目

地方言語

ドイツ語

ドイツ人

ニーダーザクセン州

ザクセン人

オランダ低ザクセン語

外部リンク.mw-parser-output .side-box{margin:4px 0;box-sizing:border-box;border:1px solid #aaa;font-size:88%;line-height:1.25em;background-color:#f9f9f9;display:flow-root}.mw-parser-output .side-box-abovebelow,.mw-parser-output .side-box-text{padding:0.25em 0.9em}.mw-parser-output .side-box-image{padding:2px 0 2px 0.9em;text-align:center}.mw-parser-output .side-box-imageright{padding:2px 0.9em 2px 0;text-align:center}@media(min-width:500px){.mw-parser-output .side-box-flex{display:flex;align-items:center}.mw-parser-output .side-box-text{flex:1}}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .side-box{width:238px}.mw-parser-output .side-box-right{clear:right;float:right;margin-left:1em}.mw-parser-output .side-box-left{margin-right:1em}}低地ドイツ語版ウィキペディアがあります。


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