伊福部昭
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楽譜の入手は伊福部と、当時アメリカの音楽家と文通するなど、最新の音楽事情に精通していた三浦が中心に行っており、主に丸善を通してフランスデュラン社・イギリスのチェスター社から購入していた[14]。なお、伊福部は上記の他にもヤナーチェクの『六重奏曲』の楽譜を入手していたが、当時はその価値がわからず演奏会で発表することはなかった[14]。伊福部はこのことを後年まで悔やんでいたという[14]。また、「札幌フィルハーモニック弦楽四重奏団」のメンバーとしても、札幌・旭川など道内各地で演奏旅行も行った[14]

「新音楽連盟」の演奏会は上記の一度きりであったが、20年後の1954年に当時北大生であった谷本一之(のち北海道教育大学学長)らのグループ「ノイエ・ムジーク」が、同大学の中央講堂で「新音楽連盟」の演奏会を継承するとして「現代音楽の夕」を開催している[17]。谷本は事前に先輩の伊福部らに許可を求める手紙を送ったが、伊福部からは「御役に立つなら第二回でも第三回でもご使用ください。 ?(中略)? 選曲や、演奏の上で多少、不適当なものがあったとしても、その支障を超える気力が重要です」と激励の返信があったという[14][17]
デビュー作・日本狂詩曲

1935年(昭和10年)、21歳。大学を卒業後、北海道庁地方林課の厚岸森林事務所に勤務[7][16]。アメリカの指揮者ファビエン・セヴィツキーセルゲイ・クーセヴィツキーの甥)の依頼により『日本狂詩曲』(当初全3楽章)を作曲し、ボストンへ送る[18]

同年、パリでアレクサンドル・チェレプニン賞が催されると、審査員の中にモーリス・ラヴェルの名を見つけ、@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}ラヴェルに見てもらいたいという一心で[要出典]、『日本狂詩曲』を賞の規定に合わせ第1楽章「じょんがら舞曲」をカットして応募する。結局ラヴェルは病気のため審査員を降りたが、チェレプニンを初めジャック・イベールアルベール・ルーセルといったフランス近代音楽を代表する作曲家たちが審査にあたった。このコンクールは日本人に対して開かれたコンクールだが、審査会場はパリであった[注釈 2]

パリへ楽譜を送る際、東京からまとめて送る規定になっていたため伊福部の楽譜も東京へ届けられたが、東京の音楽関係者はその楽譜を見て、
平行五度などの西洋音楽の和声の禁則を無視し、その場の日本人にとって下衆に見えた日本の伝統音楽のような節回しが多いこと

当時としては極端な大編成である編入楽器多数の(打楽器奏者だけで9人を要する)三管編成オーケストラが要求されていたこと

北海道の厚岸町から応募してきたこと

との理由から、相当の驚きと困惑があったという[19]。とくに1.の理由により「正統的な西洋音楽を学んできた日本の中央楽壇にとって恥だから、伊福部の曲を応募からはずしてしまおう」という意見も出たが、大木正夫の「審査をするのは東京の我々(その場にいた日本人)ではなくパリの面々だし、応募規程を満たしているのに審査をはずす理由もなく、せっかく応募してきたのだから」という意見が通り、伊福部の曲も無事パリの審査会場へ届けられた[19]

結果は伊福部が第1位に入賞し、世界的評価を得ることとなった[出典 4]。賞金は300円であった。この時の第2位は、伊福部と同じくほぼ独学で作曲を学んだ松平頼則であった。後に松平と伊福部はともに新作曲派協会を結成することになる。同曲は翌1936年(昭和11年)、セヴィツキー指揮、ボストン・ピープルス交響楽団によりアメリカで初演された[20]。なお初演の際、チェレプニン賞への応募に合わせて第1楽章はカットして演奏され、そのカットした部分の楽譜は現存しないため、永遠に幻となった[18]。なお、この幻の日本狂詩曲第一楽章「じょんがら舞曲」は、日本狂詩曲のスコア浄書を手伝った、次兄・勲の追悼のために書かれた『交響譚詩』の第二譚詩(第二楽章)にその一部が組み込まれている[21]

これを機に初演の年来日したチェレプニンに短期間師事する[20]。日本狂詩曲は大編成の大作だが、何度も演奏されやすいよう編成を考えて書くべきというチェレプニンの意見に従い、次作として14人編成で全員ソロの小管弦楽曲『土俗的三連画』を書いた。チェレプニンは伊福部にニコライ・リムスキー=コルサコフの『スペイン奇想曲』のスコアを渡し、筆写して学ぶことを勧めた。

なお、『日本狂詩曲』は、1936年に龍吟社からチェレプニン・コレクションとして楽譜が出版されている[22][23]。表紙のデザインは、美術にも関心が深かった伊福部自身が手がけた[23]


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