今敏
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2008年から死去するまでの2年半の間、母校の武蔵野美術大学映像学科アニメーション分野の客員教授を務める[12]
晩年?死去

その後、今は次回作として「3台のロボットの冒険を描く子ども向け映画」という長編『夢みる機械』の制作に着手[41]。今が初めて企画する子どもも楽しめるアニメ映画ということで、その内容は「地球上に住んでいるのはロボットのみとなった未来を舞台に、津波によって楽園から追い出される格好となったリリコとロビンの2体のロボットが「電気の国」を目指して旅をする姿を描く」というものだった[44]。しかし、その制作途中で病に倒れる。

2010年に体調を崩し[45]、5月に病院で診断を受けたところ末期の膵臓癌と診断される[46]。余命半年と宣告された後は、著作権管理会社の設立・遺言状の作成・在宅死の準備など、身の回りの整理をしながら[46]亡くなる前日までブログも更新していた(但し、存命中は自分が病気であることは伏せている)。

2010年8月24日逝去[1]。46歳没[1][46]。翌日付のブログに、「さようなら」というタイトルで生前に書き留めていたファンに向けてのメッセージが公開され[45]、約40万PVのアクセス数を集めた[47]。関係者向けに開かれた「今 敏監督を送る会」には今の作品に関わった鈴木慶一や平沢進らが出席した。
遺作『夢みる機械』について

同2010年11月、今の作品を制作してきたアニメスタジオ、マッドハウスが未完に終わった『夢みる機械』の制作続行を正式に発表[44][48]。作画監督の板津匡覧が監督代行を務めることも併せて発表された[44][49]。しかし、2011年に金銭的な理由でプロジェクトは中断してしまった[50]。今の劇場作品をすべてプロデュースした丸山正雄はその後も4、5年ほどプロジェクトを続行しようと粘り続け、2012年時点では「2017年までに映画を完成させるための資金を集めるつもりだ」と語っていた[29][51]

しかし、その後は資金の問題よりも「誰が今敏の才能を引き継ぐことができるか」という問題に直面[50]。のちに丸山は、「今の日本のアニメ界にはテイストの違った優秀な監督はいるが、今監督と同じ力量を持つ監督がいない。今のところ今以外では考えられず、プロジェクトを凍結してプランのままで終わらせるしかなかった」「今監督は『夢みる機械』の脚本と絵コンテ、フィルムの一部までを残していた。私は(今の死後)5年の間考え続けたが、今監督がやり残したものを誰か他の人が引き継いで指揮をとってしまうと、それはもう今監督の映画ではないのだとようやく気付いた」と語っている[50][51][52]。しかし完全に制作をあきらめたわけではなく、「海外の才能ある監督がやってくれるのであればやらないとは限らない」として再始動の可能性がゼロではないことも示唆している[53]
制作体制

オリジナル作品(『千年女優』『東京ゴッドファーザーズ』『妄想代理人』など)においては、「映画製作のためにストーリーを考案する」のではなく「ストーリーの考案後に映画製作に耐えうるか考える」方式で制作され、『パプリカ』のような原作ものでは、物語に忠実ではなく、独自の解釈を入れつつ、脚本家とともにストーリーを構成していく形が取られた[注 1][54]

今の絵コンテには画面の構図の取り方、演出の意図、話の流れなど、自身の作品へのイメージがすべて集約されており、作画担当者がそれを見れば大抵のことが分かるようになっている[55][56]。テレビシリーズでも自身で絵コンテを担当した回は他の回以上にきっちりとしたコンテを描き、そのコンテを拡大してレイアウトにしていた。原画マンにはそのレイアウトを元に直接原画にしてもらうことで作業を端折って時間を稼いでいた[37]。絵描きとしてもすぐれていて、とにかく絵を見る目、表現する力が圧倒的で、しかもそれを短時間で行う[57]。絵コンテも、いきなり描きはじめるわけではなく、脚本に線を引いてどこでカットを割るのかということを熟考してから、絵コンテ用紙にまずラフから描きはじめる。パース線を引いて、ラフを描いて、クリンナップするという工程をきちんと踏みながら、それでいて高クオリティのコンテ1話分を2週間くらいで描いてしまう[57]

平沢進の音楽と同様にデジタル特有の無機質さやロジカルな部分と今の感性や作品は合っていたようで、早い時期からデジタル技術に可能性を感じてそれができる人間を好んで使っていた[57]。また今の場合、自身でもフォトショップを使って背景に手を入れたり特効を入れたりもできたので、自分でセルデータに1枚ずつフォトショップで処理をかけて統合し、そのセルを撮影に渡すことまで行なっていた[57]。完全にデジタルアニメに移行してからは、意識的に自身の作品のライブラリー化を図っていた[57]。ライブラリー化はデジタルの特性だといち早く目をつけ、そうすればクオリティの高い素材をより効率的に量産できるだろうと考えて、『東京ゴッドファーザーズ』から始めていた[57]

アニメ業界で仕事をするようになってからも監督と兼業でリアルタッチのキャラクターデザインを自ら手がけており、作画担当者と共同でデザインしている[27][55]。また劇中に登場する映画のポスターなども今自身が描いている[37]

今と関わった主なスタッフは、美術監督池信孝音響監督三間雅文、音楽を担当した平沢進など。背景美術に関しては、池信孝が一貫して担当している[37]。制作費はおおよそ数億円[34]と日本の一般的なアニメの制作費を考えればはるかに少ないが、これについて「低予算でも質の高い作品が製作できるのは、スタッフの賜物である」と述べている[58][59]
作風

「虚構と現実の混淆」という主題は今敏作品を象徴するキーワードであり、『PERFECT BLUE』から『パプリカ』、そして遺作となった短編『オハヨウ』までの各作品の中で、様々なアプローチで「虚構と現実」の関係を描いている[37][60]。『PERFECT BLUE』では次第に虚構と現実の境界が曖昧になっていく様子が描かれ、騙し絵のような世界が繰り広げられた『千年女優』や夢の中に入ることを可能にする装置のおかげで夢の世界に出入りすることが出来る『パプリカ』では虚構と現実が最初から継ぎ目なく繋がり、登場人物が虚構と現実を自在に往還する姿が描かれた[33][38]。あらすじだけ見ると「虚構と現実」のモチーフは取り扱われていないように見える『東京ゴッドファーザーズ』も、リアルに描かれているように見える現実の東京のホームレスの生活の中に「奇跡と偶然」という「虚構」が次々と入り込んでくる[61]

キャラクターデザインやその表現方法から、一見すると、今作品はリアル志向のように見える[61]。実際、それぞれの作品はレイアウトの段階から今の手が入っており、空間的な正確性、人物のデッサンなどの点で確かにリアルに見えるように出来上がっている[61]。だが今が目指しているのは、「『あたかも現実のように見える風景・人物』を描き出すこと」ではなく、「『現実のように見える風景・人物』が、ふいに『虚構』や『絵』であることを露わにしてしまう瞬間を描くこと」である[61]。大友作品や押井作品などスタッフとして参加した作品ではリアリティを獲得するために発揮したそのリアルな世界を描き出す力を、自身の作品では「現実から虚構への転換」という落差を最も効果的に見せるために活用している[61]。今作品のリアルに見える世界はリアルなままであることはなく、突然、見知らぬ世界へと変容し、観客を幻惑するためのものである[17]
影響

アーティスト、芸術家、文人などの中で、今の表現スタイルに最も影響を与えたのは平沢進の音楽である[62][63]。平沢の音楽や制作への態度に多くを学び、自分の作る物語や構想は彼の影響に負うところが大きいと語っていた[20][64]。映画をフラクタル的に統御する発想は、音楽制作にフラクタルを生成させるプログラムを応用している平沢進に由来する[65][66]


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