それ以外にも、CGアニメ映画『スパイダーマン:スパイダーバース』共同監督のボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン、第92回アカデミー賞にノミネートされたフランス制作のNetflixオリジナルアニメ『失くした体』の監督ジェレミー・クラパン(フランス語版)、韓国の実写ゾンビ映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』で知られるアニメ監督のヨン・サンホ[注 3]、台湾のアニメ映画『幸福路のチー』の脚本と監督を兼任したソン・シンイン (宋欣穎)(中国語版)[注 4]など、気鋭の監督が多数いる[52][80][81]。また中国でも『紅き大魚の伝説(大魚海棠)』(Netflix)の原作・脚本・監督の梁旋(リャン・シュエン)のように今敏に影響を受けた/今敏を好きだというアニメ業界人・ファンは実に多く、中国アニメ初のベルリン国際映画祭コンペティション部門出品作となった『大世界 Have a Nice Day(原題)』を監督した劉健の処女作『刺痛我(Piercing I)』にも影響が見受けられる[80]。
もちろん、日本のアニメ業界のクリエイターからも一目も二目も置かれているのは、唯一のテレビシリーズ『妄想代理人』(2004年)に結集したスタッフを見れば一目瞭然である[80]。アニメではアニメーターが役者の役割を担っているということを考えると、『妄想代理人』は「空前絶後のオールスターキャスト」と言っても過言ではない[注 5][80]。
今の名前が本格的に世に出たきっかけは、1998年の『PERFECT BLUE』であることは確かである[18]。海外での活躍は格別で、ベルリン国際映画祭のフォーラム部門に正式招待されたのをはじめ、ファンタ・アジア映画祭(現ファンタジア映画祭)グランプリやアヌシー国際アニメーション映画祭、シッチェス・カタロニア国際映画祭と、最終的には50を超える国際映画祭で紹介された[18][38]。2020年現在でこそ日本の長編アニメは世界中の映画祭で引っ張りだこであるが、1990年代後半では異例のことだった[18]。当時、『パーフェクト・ブルー』は各映画祭で絶賛され、ハリウッドのダーレン・アロノフスキー監督が実写リメイクの撮影を検討するなど、高い評価を受けていた。しかし、その時点での今の評価は、日本アニメを好きなコアな映像関係者やファンの一部にとどまっていた[86]。メディアや映像分野の論者からの扱いは限定的で、あくまでヤングアダルト向け日本アニメの傑作の1つという扱いだった[86]。本格的に認知が高まるには、2002年の『千年女優』、2003年の『東京ゴッドファザーズ』の公開を待たねばならなかった。ここで再び映画監督として作品発表したことが意味を持った[87]。
日本のアニメ業界には大勢の実力派監督がいるが、海外で名前が言及されるのは、宮崎駿、高畑勲、大友克洋、押井守といった映画を主な表現の場とする監督の名前である[35]。海外ではテレビシリーズよりも映画に作家性が現れるとして、映画監督に対する批評を重視する傾向が強い[35]。そのことがOVAで評価を高めた川尻善昭や、当時はテレビシリーズが活躍の中心であった庵野秀明との知名度の差にもなっている[35]。今の場合も、最初の『PERFECT BLUE』、それに続く2作品が映画だったために「今敏は映画監督である」と世界的に認知され、それによって前者に並ぶ1人になった[35]。